GeForce GTX 590が15周年――「1枚に2基」が許された最後の時代
2011年3月24日、699ドルで登場したデュアルGPUカード。15年後に振り返ると、そこには「消えた設計思想」の原点があった。
2011年3月24日、699ドルで登場したデュアルGPUカード。15年後に振り返ると、そこには「消えた設計思想」の原点があった。
Fermiを2基載せた怪物が15歳を迎えている
GeForce GTX 590が発売から15年を迎えている。ドイツのテックメディアComputerBaseが当時のレビューを振り返る回顧記事を、PC Games Hardwareも3月24日付で15周年の回顧記事を公開し、海外ではちょっとしたノスタルジーの波が広がっている。

2011年3月24日、NVIDIAはAMDのRadeon HD 6990に対抗すべく、Fermiアーキテクチャの最上位GPU「GF110」をフルスペックのまま2基搭載した怪物カードを世に放った。価格は699ドル、欧州では639ユーロ。現在の感覚でも十分に高額だが、当時としてはまさに「究極のゲーミング体験」を約束する価格だった。
GF110はGeForce GTX 580と同じダイで、各GPUが512基のCUDAコア、64基のテクスチャユニット、48基のROPsを備えていた。ただしクロックはGTX 580の772MHzから607MHzへ大幅に引き下げられている。
この約21%のクロック削減こそ、1枚の基板に2基のGPUを収めるための代償だった。メモリも各GPUに1,536MBのGDDR5を割り当て、384bit接続で1,707MHzという仕様。合計3GBという容量は2011年当時としては潤沢だったが、2つのGPUがメモリを共有できない構造上の制約は、後にマルチGPUが衰退する伏線でもあった。
宿敵Radeon HD 6990との互角の戦い
ComputerBaseの15年越しの回顧レビューによれば、GTX 590とRadeon HD 6990のパフォーマンス差は極めて僅かだった。低解像度(1680×1050)ではGTX 590がインデックススコア100.0に対しHD 6990が94.8と優位に立つ。だが解像度を2560×1600に引き上げると立場が逆転し、HD 6990が107.8に対しGTX 590が100.0と、AMD側に軍配が上がった。
この傾向は2011年当時のレビューでも一貫しており、正直なところ「どちらが速いか」は解像度とタイトル次第で変わる、という身も蓋もない結論に落ち着く。
ただし、数字に表れない差があった。両カードが採用していたAFR(Alternate Frame Rendering)は、2つのGPUが交互にフレームを描画する方式だ。これにより名目上のFPSは高くなるが、フレーム間隔の不均一がマイクロスタッターと呼ばれるカクつきを引き起こす。NVIDIAは2011年3月時点でドライバとゲームプロファイルの最適化が進んでおり、GTX 590のマイクロスタッターはHD 6990より明らかに軽微だった。
マイクロスタッターは「FPSカウンターの数字」と「実際の体感」が乖離する現象であり、デュアルGPU時代の最大の弱点だった。この問題は結局、マルチGPUが消滅するまで根本的に解決されることはなかった。
365Wが許された時代の空気
消費電力365W。2026年の最新GPUであるGeForce RTX 5090が575Wに達する時代から見れば「まだマシ」に見えるかもしれないが、文脈が違う。これは40nmプロセスのGPUを2基、しかもクロックを2割以上落としてなおこの数字だ。
ComputerBaseの測定では、GTX 590搭載システム全体の消費電力は負荷時に633Wに達した。対するRadeon HD 6990は567W。NVIDIAのほうが約70W多く電力を消費しながら、性能はほぼ互角。効率という観点では、AMDに分があった。
一方で騒音はGTX 590に軍配が上がった。中央に配置された85mmアキシャルファンと、各GPUの上に載るベイパーチャンバー式ヒートシンクの組み合わせにより、負荷時の騒音はHD 6990より明確に低かった。HD 6990の騒音は「あらゆる常識の外」と評されるレベルだったから、GTX 590の「爆音だが比較的マシ」という評価も、時代の文脈で読む必要がある。
GPU温度は両カードとも負荷時に90℃前後。熱的な限界ギリギリでの運用が前提という、ある種の覚悟を求められるカードだった。
デュアルGPUカードが消えた理由
GTX 590を15年後の視点から振り返るとき、最も興味深いのは「なぜこの設計思想が消えたのか」という問いだ。
答えは複合的だが、最大の要因はレンダリング技術の変化にある。TAA(テンポラルアンチエイリアシング)をはじめとする時間的データに依存する描画技術が2015年頃から主流になり、AFRの前提——「2つのGPUが独立してフレームを描画し、交互に出力する」——と根本的に相性が悪くなった。DLSSやFSRはこの延長線上にある技術であり、皮肉にも「GPU1基の性能をソフトウェアで倍増させる」手法が、物理的に2基載せるよりも効率的になってしまった。
DirectX 12がマルチGPU対応をドライバ側からゲーム開発者側に移したことも大きい。NVIDIAもAMDもドライバでゲームごとのプロファイルを管理していたが、DX12ではその責任がデベロッパーに委ねられた。ニッチなマルチGPUユーザーのために最適化する開発者は、ほとんどいなかった。
NVIDIAは2012年のGTX 690を最後にメインストリーム向けデュアルGPUカードから撤退し、2014年のTitan Zで完全に幕を閉じた。AMDも2017年のRX Vegaを最後にCrossFireを事実上廃止している。
VideoCardzの回顧記事に掲載された当時のEVGAとPoV製GTX 590の写真が示すもう一つの事実がある。両ブランドともに、もうグラフィックスカードを製造していない。製品だけでなく、それを作った企業すらも時代の彼方に消えていった。
FPSカウンターが語らなかったもの
ComputerBaseは回顧記事の結びで、GTX 590を「万人向けではなかった」と総括している。高価格、大騒音、高消費電力。合理的に考えれば、GTX 580を1枚買うほうが多くのユーザーにとって正解だった。
だが合理性だけでは語れない熱量が、あの時代にはあった。基板を開いて12層PCBを眺め、中央のファンの両脇に鎮座する2つのGPUダイに興奮する。FPSカウンターの数字だけでなく、「世界最速のカードが自分のPCに入っている」という感覚そのものに価値があった時代だ。
2026年、GPUは1基で十分すぎるほど速くなった。DLSSやFSRがフレームを生成し、フレーム生成技術がFPSを倍増させる。かつて物理的な力業で実現していたことを、ソフトウェアがエレガントに解決している。
それは間違いなく進歩だ。ただ、基板の上にGPUを2つ並べて「力こそ正義」と言い切った時代の空気は、もう戻ってこない。
参照元
他参照
#GPU #自作PC #GeForceGTX590 #NVIDIA #Fermi #デュアルGPU #RadeonHD6990 #AMD #SLI #レトロPC