キオクシアが2D NAND生産終了へ――41年の歴史に幕
1987年、東芝のエンジニアが世界に送り出したフラッシュメモリの「原型」が、2028年をもって姿を消す。後継のキオクシアが顧客に通知した生産終了計画は、単なるレガシー製品の整理ではない。
1987年、東芝のエンジニアが世界に送り出したフラッシュメモリの「原型」が、2028年をもって姿を消す。後継のキオクシアが顧客に通知した生産終了計画は、単なるレガシー製品の整理ではない。
2028年末、プレーナNANDの時代が終わる
キオクシアの中国法人が2026年3月31日付で顧客に発行した通知が、ひとつの時代の終わりを告げている。対象は2D(プレーナ型)NANDと、初期の3D NAND「BiCS FLASH第3世代」。最終受注は2026年9月30日、最終出荷は2028年12月31日だ。
廃止対象の幅広さが、この決定の不可逆性を物語る。32nmのSLC(2009年量産開始)、24nmのMLC(2010年〜)、15nmのMLC/TLC(2014年〜)、そして64層BiCS3(2017年頃〜)。ウェーハからBGA、TSOP、eMMC、UFS、SDカードまで、あらゆる出荷形態が含まれている。
特定のSKUを整理するのではなく、旧世代の技術プラットフォームそのものを「全面退役」させる決定だ。
ここで重要なのは、プレーナ型NANDの生産を最後まで続けてきたのが、ほかならぬNANDフラッシュの生みの親である東芝の後継企業だという事実だ。発明者が自らの「初代」を看取る。そこには、技術史的な象徴性がある。
舛岡富士雄の発明、41年の軌跡
話は1980年にさかのぼる。東芝の研究者だった舛岡富士雄は、当時の上司の方針に逆らいながら、4人のエンジニアとともに新型メモリの開発に着手した。電源を切ってもデータが消えない不揮発性メモリ。従来のEEPROMが1セルに2トランジスタを必要としたところを、1トランジスタで実現する構造を考案した。
同僚の有泉昌二が「消去の速さがカメラのフラッシュのようだ」と名付けたその技術は、1987年にワシントンD.C.で開催されたIEEE IEDM(国際電子デバイス会議)で発表された。東芝はその後、NANDフラッシュメモリの製品化を推し進めた。
皮肉なことに、東芝の経営陣は当初この発明に消極的だった。舛岡は後に東芝を退社し、2006年にはわずか8,700万円の和解金で訴訟を終えている。
その「過小評価された発明」が、スマートフォン、SSD、データセンター、そしてAIサーバーの記憶基盤となった。2028年に最終出荷を迎えるプレーナNANDは、舛岡が生み出した技術の「第一世代」にあたる。発明から41年。技術としては異例の長寿だ。
サムスンも撤退、業界全体が「平面」を捨てる
キオクシアの決定は、孤立した動きではない。サムスン電子も2026年2月、華城(ファソン)工場のLine 12における2D NAND生産の停止を顧客に通知している。月産8万〜10万枚規模の12インチウェーハラインが、1c世代DRAMの後工程施設に転換される。
サムスンが1GビットNANDフラッシュを量産したのは2002年。そして2013年に3D V-NANDの量産に世界で初めて成功し、業界のパラダイムを縦方向の積層構造へと転換させた。あれから13年。最後の2D NANDラインが閉じられることで、サムスンの「平面NAND時代」も正式に幕を閉じる。
TrendForceの調査によれば、2026年のMLC NAND生産能力は前年比41.7%減になる見通しだ。主流のTLCやQLC構造に比べ、MLCは単位あたりの産出価値が最も低い。クリーンルームという有限の資源をどこに振り向けるか——その答えは明白になりつつある。
AIが書き換えるメモリの優先順位
なぜ今、レガシーNANDの退役が加速しているのか。答えは、AIデータセンターが生み出す「メモリの引力」にある。
キオクシアのメモリ事業部マネージングディレクター、中戸俊輔は2026年1月のインタビューで「正直に言えば、今年の生産量はすでに『完売』の状態だ」と明言した。この状態は2027年も続く見通しで、価格は前年比で約30%上昇しているという。
「AIへの投資をやめた瞬間に淘汰される、という危機感が企業にある。だから投資を止められない」——中戸俊輔
生産設備に限りがあるなか、プレーナNANDのように利益率の低い旧世代製品に製造ラインを割く余裕はない。キオクシアは北上工場で332層BiCS10の量産を前倒しで進め、AI向け高容量SSDの需要に応えようとしている。レガシー製品の終了は、その戦略の必然的な帰結だ。
SanDiskがエンタープライズSSD向け3D NANDの価格を2026年第1四半期に最大2倍に引き上げたとの報道や、PhisonのCEOが「NANDの価格が一夜にして50%上昇した」と警告している状況を見ても、フラッシュメモリ市場全体がかつてない供給逼迫の渦中にあることがわかる。
残される現場——車載・産業用の供給不安
2D NANDの主な用途は、車載ECU、産業機器、医療機器、ネットワーク機器といった「長寿命」が求められる組み込み分野だ。これらの分野では、10年単位の供給保証が当たり前とされる。書き込み耐性に優れるSLCやMLCのプレーナNANDは、そうした要件に最も適合する技術だった。
大手メーカーが一斉に撤退するなかで、これらの分野の調達担当者は代替品の選定を急がなければならない。TrendForceは、2025年第1四半期からMLC NANDの追加確保や前倒し発注の動きが顕著になっていると指摘しており、価格は上昇の一途をたどっている。
キオクシアの通知は2028年末までの出荷を約束しているが、最終受注の期限は2026年9月末だ。残された猶予は、わずか半年。組み込み業界にとって、この半年は製品設計の方向性を左右する分水嶺になる。
舛岡富士雄が「上司に逆らって」開発したフラッシュメモリは、スマートフォンからAIサーバーまで、人類のデジタルインフラの根幹を支える技術に育った。その「初代」がいま、静かに生産ラインを離れようとしている。
41年間、データを記憶し続けた技術に、記憶される価値がある。
参照元
#NAND #フラッシュメモリ #キオクシア #半導体 #AI #SSD #東芝 #サムスン #メモリ不足
@キオクシアが2DプレーナNANDとBiCS3世代3D NANDの生産終了を顧客に通知した。最終出荷は2028年末で、1987年に東芝が発表したNANDフラッシュの原型が41年の歴史に幕を閉じる。サムスンも2D NANDから撤退中で、AI需要による供給逼迫が車載・産業用途の調達にも影響を及ぼしている。