Mac Pro販売終了──「拡張できるPC」という思想が終わる日
Appleが20年続いたタワー型ワークステーションに幕を引いた。だが本当に終わったのは、1つの製品ではなく、1つの時代かもしれない。
Appleが20年続いたタワー型ワークステーションに幕を引いた。だが本当に終わったのは、1つの製品ではなく、1つの時代かもしれない。
7,000ドルの巨塔、静かに消える
AppleがMac Proの販売を終了している。2026年3月27日(日本時間)、Apple公式サイトからMac Proの製品ページが削除され、購入ページはMacのトップページへリダイレクトされるようになった。
Appleは9to5Macの取材に対し、販売終了を正式に認めただけでなく、後継モデルの開発計画もないことを明言した。2006年にPower Mac G5の後継として登場して以来、約20年。Macラインナップの頂点に君臨し続けたタワー型ワークステーションが、ひっそりと舞台を降りた。

最後のMac Proは2023年6月に発売されたM2 Ultra搭載モデルで、米国での販売価格は6,999ドル(約112万円)。7本のPCIeスロットを備えていたが、外付けGPUには非対応、RAMの増設も不可。「拡張性」を売りにしたタワー筐体でありながら、拡張できるものがほとんどないという矛盾を抱えたまま、M3もM4も搭載されることなく3年間放置された。
Mac Studioが同じM2 Ultraを、半分以下のサイズと価格で提供していた時点で、Mac Proの存在意義はすでに揺らいでいた。
「ゴミ箱」の失敗、「チーズおろし器」の挫折
Mac Proの歴史は、Apple自身の試行錯誤の記録でもある。
2013年、Appleは円筒形の大胆なデザインに刷新した。発表時、当時のマーケティング責任者フィル・シラーは自信に満ちていた。
「Can't innovate anymore, my ass(もうイノベーションできないだって?冗談だろ)」──フィル・シラー、WWDC 2013基調講演にて
だが「ゴミ箱」と呼ばれたこのモデルは、排熱設計に致命的な問題を抱え、GPU技術の進歩にも対応できなかった。Appleは後にプロユーザーに対して公式に謝罪するという、同社としては異例の対応を取っている。
2019年に登場した現行デザイン、通称「チーズおろし器」はモジュラー設計への回帰だった。8本のPCIeスロット、交換可能なRAM。プロの信頼を取り戻すための「やり直し」だったが、そのわずか1年後、AppleはIntelからApple Siliconへの移行を発表する。統合型SoCの世界では、拡張スロットの居場所がなくなりつつあった。
なお、販売終了に伴い、Mac Pro専用の移動用キャスター「Apple Mac Pro Wheels Kit」も姿を消した。発売当初7万6,780円、のちに9万7,800円(税込)まで値上がりしたこのキャスターは、Apple製品の価格設定に対する批判の象徴としてSNSで繰り返し話題になっていた。
Mac Studioという「正解」
Appleが用意した答えは明快だ。Mac Studioが、事実上の後継機として位置づけられている。
現行のMac StudioはM4 MaxまたはM3 Ultraを搭載し、今年後半にはM5 Ultraモデルも予定されている。価格はMac Proの何分の一かで、性能は同等かそれ以上。Thunderbolt 5による複数台接続(macOS Tahoe 26.2で追加されたRDMA機能)により、かつてMac Proに求められた「スケーラブルなパフォーマンス」を別の形で実現できるようになった。
PCIe拡張を必要としていた映像・音声のプロにとって、代替手段が十分かどうかは議論の余地がある。だが多くのユーザーにとって、Mac Studioは「十分すぎる」マシンだ。
Appleのデスクトップラインナップは、iMac・Mac mini・Mac Studioの3モデルに整理された。「Pro」の名を冠するデスクトップは、もう存在しない。
NEW: Apple has discontinued the Mac Pro and has removed it from its website. They had been planning to do so for a while now.
— Mark Gurman (@markgurman) March 26, 2026
「拡張できるPC」の終焉は、Appleだけの話ではない
The Registerのリアム・プルーヴンは、Mac Proの販売終了を「業界全体の不可避な潮流の象徴」として読み解いている。この視点は、単なるApple製品のニュースを超えて重要だ。
1981年のIBM PCは、マザーボード上にほとんど何も載っていなかった。グラフィックもシリアルポートもフロッピーコントローラーも、すべて拡張カードだった。そこから45年、あらゆる周辺機能がマザーボードに、チップセットに、そしてプロセッサそのものに吸収されていった。
メモリコントローラ、数値演算コプロセッサ、L2キャッシュ、マルチコアCPU、そして内蔵GPU。x86の世界では、2011年のSandy Bridge世代でGPUがCPUダイに統合された。Armの世界では、1992年のARM250 SoCがすでにそこに到達していた。x86は20年遅れで追いかけていたに過ぎない。
2020年、AppleはM1チップでさらに先に進んだ。RAMもフラッシュストレージもSoC上に統合。もはやDIMMスロットもM.2スロットも存在しない。そしてこの流れは、Apple独自のものではない。
AMDはチップレット技術とオープンソースGPUドライバーで統合型SoCの先頭を走り、NVIDIAの「AI」ブームは、皮肉にもディスクリートGPU市場の最後の延命装置かもしれないとThe Registerは指摘する。
性能を追求するなら、統合するしかない。CPUとGPUとメモリが同じダイ上にあれば、物理的に離れた場所にある専用メモリを持つ外付けGPUよりも、帯域でも遅延でも有利になりうる。Appleがそれを証明し、AMDが同じ方向に進んでいる。
拡張バスの終着駅
タワー型PCを愛してきた人々にとって、これは感傷的な話だ。自分でパーツを選び、自分で組み、自分でアップグレードする。その自由こそが、パーソナルコンピュータの「パーソナル」たる所以だった。
だが現実は、DellのXPS 13ですらDIMMスロットを持たない時代だ。2018年製のノートPCで、すでにRAMは基板に直付けされている。The Registerの筆者自身がそのマシンを使っているという事実が、何よりも雄弁だ。
Mac Proの販売終了は「始まり」であって「終わり」ではない。GUIデスクトップも、タッチパッド内蔵のラップトップも、USBの統一も、Appleが先陣を切り、業界がそれに続いた。拡張可能なタワー型PCの退場も、同じ道筋をたどる可能性が高い。
1969年にDECのゴードン・ベルが発明した拡張バス「UNIBUS」から57年。「自分で拡張できるコンピュータ」という概念そのものが、終着駅に近づいている。
抵抗はあるだろう。だが、半導体の物理法則は感傷に配慮しない。
参照元
他参照
#Mac #Apple #MacPro #MacStudio #AppleSilicon #M2Ultra #タワー型PC