Meta、子どもを守らなかった代償──初の陪審評決で約596億円

巨大テック企業が、子どもの安全を「口先だけ」で守ってきたツケが回ってきた。米ニューメキシコ州の陪審は、Metaに3億7,500万ドルの賠償を命じた。州が大手テック企業を相手取り、陪審裁判で勝訴した初めてのケースだ。

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陪審が認めた「利益優先、安全は後回し」

Metaが初めて、子どもの安全をめぐる陪審裁判で敗訴した。ニューメキシコ州サンタフェの陪審は3月25日(日本時間)、MetaがInstagramやFacebookの安全性について消費者を欺き、子どもを危険にさらしたと認定。約6週間に及ぶ審理を経て、同州の不公正取引法に基づく全ての訴因でMetaの責任を認める評決が下されている。

賠償額は1件あたり法定上限の5,000ドル(約80万円)が適用され、数千件の違反を積み上げた合計が3億7,500万ドル(約596億円) に達した(1ドル=約159円換算)。州側が求めていた20億ドル超には遠く及ばないが、金額以上に重要なのは「前例」が生まれたことだ。

陪審員のリンダ・ペイトンはメディアの取材に対し、違反件数では妥協したが1件あたりの金額は最大を選んだと明かしている。子ども1人につき最大額を支払うべきだと考えたからだ、と。

おとり捜査が暴いたプラットフォームの実態

この裁判の発端は、2023年のおとり捜査にある。ニューメキシコ州のラウル・トレス司法長官が指揮した作戦では、捜査官が14歳未満を装うデコイアカウントをFacebookとInstagram上に作成した。

結果は衝撃的だった。アカウントには性的に露骨なメッセージが殺到し、複数の成人男性から性的な接触の誘いが相次いだ。2024年5月には、「12歳の少女に会える」と信じてモーテルに現れた男2人が逮捕されている。

法廷では内部文書と元社員の証言が決定打となった。2009年からMetaでエンジニアリング部門を率いたアルトゥーロ・ベハールは、自身の14歳の娘がInstagram上で望まない性的接触を受けた経験を語り、広告をターゲティングするアルゴリズムが捕食者にも同様に機能すると指摘した。

「製品は人々を興味に基づいて繋ぐことに非常に長けている。もしあなたの興味が幼い少女なら、製品は幼い少女と繋ぐことにも非常に長けるだろう」──アルトゥーロ・ベハール

元副社長のブライアン・ボーランドも、2020年の退社時点で「安全は優先事項ではなかった」と証言している。

暗号化で「見えなくなった」750万件の通報

裁判で浮上したもうひとつの深刻な問題が、エンドツーエンド暗号化(E2EE)の影響だ。ザッカーバーグが2019年にFacebook Messengerのデフォルト暗号化を発表した際、社内ではすでに警鐘が鳴っていた。

内部メッセージには、年間約750万件にのぼる児童性的虐待素材(CSAM)の通報が、暗号化によって法執行機関に届かなくなるという懸念が記されていた。CNBCの報道で明らかになった法廷資料によれば、当時のコンテンツポリシー責任者モニカ・ビカートは社内チャットで、この計画を「企業として悪いことをしようとしている。無責任すぎる」と記していた。

プライバシーの保護と子どもの安全は、本来対立すべきものではない。だがMetaが選んだのは、問題を「暗号の壁」の向こうに押し込むことだった。裁判の最中、Meta側はInstagramのDMにおけるE2Eの暗号化を年内に廃止すると発表している。法廷で追い詰められなければ動かなかった、という事実が何よりも雄弁だ。


596億円でも「痛くない」現実、そして次の法廷

Metaの時価総額は約1.5兆ドル。596億円の賠償は、年間売上高の0.2%にも満たない。評決後の時間外取引で同社の株価は5%上昇した。市場は文字通り「誤差」として処理したことになる。

だが本当の痛手は金額ではない。5月4日に始まる第2フェーズの審理だ。こちらは陪審なしの法廷で、裁判官がMetaのプラットフォームが「公共の迷惑行為(パブリック・ニューサンス)」に該当するかを判断する。有罪なら追加賠償に加え、年齢確認の義務化や未成年の保護強化といったプラットフォーム設計そのものの変更を裁判所が命じる可能性がある。

同時進行で、ロサンゼルスでは別の裁判が山場を迎えている。MetaYouTubeが「中毒性のある設計」で若者の精神的健康を害したとする訴訟で、陪審は審議を続けている。全米40州以上の司法長官がMetaを提訴しており、今後も類似の訴訟が続く見通しだ。

専門家はこの一連の訴訟を、1990年代の「たばこ訴訟」になぞらえている。当時も業界は科学的根拠を否定し、ロビー活動で規制を遅らせ、最終的には歴史的和解に追い込まれた。SNS業界はいま、同じ道のりの初期段階にいるのかもしれない。

Metaは控訴の方針を表明している。だが問題の本質は、1社の勝ち負けではない。テクノロジー企業が「プラットフォームの設計」という選択に対して法的責任を負うのかどうか──その問いに、初めて陪審が「はい」と答えた。この先、その声が大きくなることはあっても、小さくなることはないだろう。


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