NASA予算23%削減案、アルテミスIIが記録を塗り替えた日に発表される
人類がアポロ13以来、最も遠くへ到達したまさにその時、足元の地球では「科学予算を半減させろ」という要求が突きつけられていた。
祝福と削減が同時に届く
4月6日、アルテミスIIの4人のクルーがアポロ13の記録を超え、地球から25万2760マイル(約40万6800km)に到達した。1970年以来、56年ぶりの記録更新だ。月の裏側全体を初めて肉眼で見渡した彼らは、帰路で日食まで観測した。
だがホワイトハウスが4月3日に発表したFY2027予算案は、その感動に水を差すものだった。NASAの総予算を244億ドルから188億ドルへ23%削減。科学予算に至っては73億ドルから39億ドルへ、ほぼ半減させる提案だ。
| 部門 | FY2026 承認 |
FY2027 提案 |
変化 |
|---|---|---|---|
| 総予算 | 244億$ | 188億$ | −23% |
| 科学 | 73億$ | 39億$ | −47% |
| 探査 | 78億$ | 85億$ | +10% |
「この提案は、米国の宇宙科学・探査におけるリーダーシップに対する存亡の危機を、不必要に蘇らせるものだ」——Planetary Society
40以上のミッションが廃止対象となる。Planetary Societyは「大統領はNASAを世界最高の宇宙機関として維持したいと述べてきた。しかし行政管理予算局は、その超党派的なコンセンサスから逸脱している」と批判した。
去年と同じ要求、去年と同じ拒絶?
実は、この削減幅は昨年とほぼ同一だ。FY2026予算案でも同じ188億ドルを提示し、議会は却下。最終的に244億ドルが承認された。今回もまた、同じ提案を繰り返している。
惑星科学者たちは厳しい見通しを示している。ジェット推進研究所(JPL)の関係者はThe Registerに「予想通りの悲観的な内容」と語り、「議会が再び却下してくれることを願うしかない」と述べた。
唯一の明るい材料は探査部門だ。月と火星への有人ミッションを含む探査予算は78億ドルから85億ドルへ増額される。月面基地構想を支持する行政の姿勢が、ここに反映されている。
Liftoff.
— NASA (@NASA) April 1, 2026
The Artemis II mission launched from @NASAKennedy at 6:35pm ET (2235 UTC), propelling four astronauts on a journey around the Moon.
Artemis II will pave the way for future Moon landings, as well as the next giant leap — astronauts on Mars. pic.twitter.com/ENQA4RTqAc
4月1日の打ち上げから約10日間の旅路。クルーは月の裏側でメープルクリームクッキーを分け合い、帰還を待つ地球を眺めた。
4人が書き換えた歴史
アルテミスIIのクルーは、単に距離の記録を塗り替えただけではない。
Victor Gloverは月を周回した初の黒人宇宙飛行士となった。Christina Kochは低軌道を超えた初の女性。そしてカナダ宇宙機関のJeremy Hansenは、初の非アメリカ人として月の軌道を飛んだ。司令官のReid Wisemanは、2020年に癌で亡くなった妻の名「Carroll」を月のクレーターに提案した。
彼らが記録を超えた瞬間、ハンセンはこう語った。
「私たちはこの記録が長く続かないことを願っている。この世代と次の世代に、その挑戦を託す」
その言葉が現実になるかどうかは、予算案の行方次第だ。
SLS批判とStarshipの遅延
予算案はさらに踏み込んだ批判を含んでいた。クルーを月へ運んだSLSロケットを「法外に高価で遅延している」と断じ、より費用対効果の高い代替手段を求めている。
だが、その代替手段も順風満帆ではない。NASAの月面着陸計画に不可欠なSpaceXのStarshipは、4月3日に次回テストが5月へ延期されたとElon Muskが発表した。V3バージョンの初飛行は「4〜6週間後」。2025年10月のFlight 11以来、約半年間の沈黙が続いている。
NASA長官のJared Isaacmanは、予算案を擁護した。「要求された資金水準で、NASAは国の高い期待に応え、すべてのミッション優先事項を達成できる」。職員向けのメッセージでは「効率化を見つけ、リソースを集中させ、より多くを成し遂げる」よう求めた。
NASAの科学予算だけで、世界の全宇宙機関の予算合計を上回っている——Isaacmanはテレビ出演でそう強調し、削減後も十分に運営可能だと主張した。
議会の判断を待つしかない
昨年、議会は削減提案を却下し、ほぼ横ばいの予算を維持した。さらに、2032年までの有人宇宙飛行に約100億ドルを追加で割り当てた。その中にはIsaacmanが月面基地優先のために一時停止したGateway宇宙ステーション向けの26億ドルも含まれていた。
今回も同じ展開になるのか。Planetary Societyは「去年の提案を圧倒的な超党派多数で否決した議会に、再び同じ判断を求める」と呼びかけている。下院では100人以上の議員がNASA科学予算の増額を求める書簡に署名した。
だが今年は状況が異なる。米国の国防費が増加する中、科学に回せる資金は減る可能性がある。ある関係者は「心配な時期だ」と語った。
月の裏側を見た4人は、もうすぐ地球に戻ってくる。彼らが見た光景を、次の世代も目にできるかどうか。その答えは、議会の手の中にある。
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