NYTよりCatturdが伸びる、Xという「フリークショー」の構造

NYTよりCatturdが伸びる、Xという「フリークショー」の構造

フォロワー5300万のニューヨーク・タイムズが、速報を流しても「いいね」は数百止まり。一方で「Catturd」のような匿名アカウントが、その何倍もの反応を得ている。Xで何が起きているのか。


ネイト・シルバーが突きつけた一枚のグラフ

統計家のネイト・シルバーが、自身のニュースレター「Silver Bulletin」で公開した記事が、英語圏で静かに広がっている。タイトルは「Social media has become a freak show」。直訳すれば「ソーシャルメディアは見世物小屋になった」だ。

中心にあるのは一枚のバブルチャートだった。2026年1月1日から4月4日までの期間に、Xで最もエンゲージメントを集めたアカウントを並べたものだ。データは分析プラットフォームのCluvioが集計し、視覚化はClaudeを使って彼自身が作り直している。

https://www.natesilver.net/p/social-media-has-become-a-freak-show

そこに浮かび上がるのは、見たことのある名前と、ほとんど見たことのない名前が入り混じった奇妙な勢力図だ。圧倒的な巨大円として中央に居座るのはイーロン・マスク本人で、エンゲージメント総数は2億5100万。次いでEric Daughertyが1億900万、Gunther Eaglemanが9500万と続く。

「Catturd」がニューヨーク・タイムズを上回る

問題は順位の上の方ではない。中位から下のほうにある名前だ。

「Catturd」というハンドルネームのアカウントが、3カ月でおよそ4700万のエンゲージメントを叩き出している。シルバーは、これがニューヨーク・タイムズ本体を大きく上回っていると指摘する。NYTのフォロワー数は5300万人。にもかかわらず、イランをめぐる独自取材記事を投稿しても、「いいね」は数百、リポストは数十で止まることが珍しくないという。

2026年Xエンゲージメント上位10アカウント
Elon Musk右派寄り
2億5100万
Eric Daugherty右派寄り
1億900万
Gunther Eagleman右派寄り
9500万
Pop Base中立
7900万
Nick Sortor右派寄り
5700万
Libs of TikTok右派寄り
5100万
Jackson Hinkle右派寄り
4800万
Catturd右派寄り
4700万
Wall Street Apes右派寄り
4200万
Brian Allen左派寄り
3200万
出典:Cluvio。集計期間は2026年1月1日〜4月4日。バーの数値は期間内の総エンゲージメント数。フォロワー5300万人のニューヨーク・タイムズはこのトップ100にランクインしていない。
5300万人が買った座席で、誰もステージを見ていない。フォロワーという数字が、ほぼ意味を失っている瞬間だ。

シルバーはこの状況を「サイロ化どころか、ゴーストタウン」と表現した。テクノロジー系の議論など一部のニッチでは依然として機能しているが、戦争や事件のような「公共性そのもの」が試される話題では、もはや機能していないという見立てだ。

外部リンクへの罰則という設計選択

なぜこうなったのか。シルバーが繰り返し名指しするのは、Xが外部リンクを罰するという設計上の選択だ。

技術的には、リンクを貼るとアルゴリズムがその投稿を沈める。これは推測ではなく、X側の関係者も、ユーザーをプラットフォーム内に滞留させるための判断だと半ば公然と認めている事実だ。記事から記事へと外に出ていく動線を切れば、滞在時間は確かに伸びる。だが同時に、外部の一次情報を持ち込む価値もまた消える。

リンクを罰するということは、リンクの先で取材している人間を罰するということだ。設計者がそれを理解していないとは思えない。

シルバー自身、フォロワー100万人超の古参アカウントとして、Xからの収益化プログラムにも参加している。それでも彼の試算では、月の収入は「2カ月に1度、外で食事ができる程度」だという。フォロワーの規模に対して、リターンが見合わないという指摘だ。

「島の生態学」というたとえ

記事の中盤で、シルバーは生物学の用語を持ち出す。「島嶼効果(island effect)」だ。

孤立した島では、競争のない環境のなかで奇妙な進化が起きる。大きな動物は小さくなり、小さな動物は大きくなる。インドネシアのコモドオオトカゲのように、本土ではあり得ない姿になったまま固定される。

シルバーはこの比喩を、現在のXに重ねる。外部との人や情報の出入りが絞られた閉じた環境では、「他のどこにも通用しない種」だけが繁栄する。Catturdも、それに対抗する形で目立つようになったGavin Newsom報道官アカウントも、その島で特化した進化形だ、というわけだ。

辛辣だが、論理は通っている。問題は「右派が増えた」という単純な政治の話ではなく、プラットフォームの環境設計そのものが特定の生態系しか養えない構造になっている、という話だ。シルバーが冷静に提示しているのは、ここだ。


反論はすぐに来た。X幹部との応酬

この記事の公開後、Xでプロダクト責任を担うニキータ・バイアー氏との間で、公開のやり取りが起きた。

シルバー側は「NYTがイラン関連の独自報道を投稿して45分後、いいねが94、リポストが33という数字は本当に正しいのか。もし正しいなら、もっとマシなアルゴリズムを組めるはずだ」と問いかけた。これに対しバイアー氏は「ネットワークの半分が見えていない」「文脈を切り取った引用は不誠実だ」と反論する。シルバーはなお引かなかった。「私の論点は、あなたたちのアルゴリズムが質を浮かび上がらせる力を欠いているということ。あなた自身の言い訳が、その仮説を裏付けている」と返している。

議論の中身よりも、議論が成立していること自体が興味深い。Xの内側にいる人間ですら、外側からの問いに即答できない設計になりつつある。

バイアー氏の応答が機嫌の良し悪しを超えて防御的に見えたのは、おそらく彼自身が、外部リンク抑制の代償を一番よく知っている立場にいるからだ。

一方で、シルバー自身の立場の偏りも

ただし、シルバーの立論には自分自身の利害が透けて見える側面もある、と本人も書いている。

彼の収入源はSubstackを使った直接購読モデルで、売上の約86%が書き手の手元に残る仕組みになっている。Substackが10%、決済処理のStripeが4%という内訳だ。彼にとっては、ソーシャルメディアからの流入が減っても、ビジネスの根幹は揺らがない。実際、Silver Bulletinの3月のサイト閲覧のうち、外部ソーシャルチャネル経由はわずか0.7%まで落ちているという。それでも記事の総閲覧数は、2025年第1四半期と比べて4割増えた。

Substack収益の取り分構造
取り分割合受取者
書き手の手元に残る86%Writer
プラットフォーム手数料10%Substack
決済処理手数料4%Stripe
出典:Silver Bulletin記事内の脚注。Substackが10%、Stripeが4%を取り、残る約86%が書き手の収入になる構造。

つまり彼は、「ソーシャルメディアに頼らないモデル」がうまく回っている側の人間だ。だからこそ「Xはもう要らない」と言える立場にいる、という批判は当然成り立つ。彼の主張をそのまま、別のメディアやクリエイターに適用できるとは限らない。

その自覚はある。記事の中で彼は、自分がBluesky的なものにも辛口だったことを思い出させながら、「自分のビジネスモデルに合うから、特定のプラットフォームを健全だと感じてしまうバイアスはある」と明示的に書いている。これは誠実な留保だと思う。

数字が意味すること、意味しないこと

ここまでの話を整理すると、論点は3つに分かれる。

ひとつは、Cluvioのデータの正確さだ。Xはもはや上場企業ではなく、外部からのデータ収集にも制約がかかっている。シルバー自身、計測の難しさには触れたうえで「より正確なデータがあるなら公開してほしい」とX側に投げかけた。今のところ、それに応える形での反証データは出ていない。

ふたつめは、エンゲージメント=影響力なのか、という問題だ。CatturdがNYTより数字を稼いでいるからといって、社会的影響力でNYTを上回ったとは普通言えない。だが「アルゴリズムが何を上に押し上げているか」という意味では、確かに勝っている。プラットフォームが視野に入れる「公共性」の輪郭が、ここで書き換わっている。

誰が読まれているかではなく、誰が読まれる構造になっているか。問うべきはそちらだ。

みっつめは、これがXだけの問題なのか、ということだ。シルバーはBlueskyの「高校のカフェテリア的な内輪のふるまい」も同じくらい厳しく批判している。Substackもまた、同じ偏りを別の形で再生産する可能性がある。彼が描いているのは、Xを叩いて終わる話ではなく、閉じた環境で起きるゆがみそのものの話だ。

日本から見たとき

日本のユーザーにとって、この記事は他人事に見えるかもしれない。CatturdもGavin Newsomも、ほとんどの人にとっては馴染みのない名前だ。

だが、外部リンクが沈むという設計上の選択は、日本語圏のXにも等しく効いている。新聞社や出版社の公式アカウントが、フォロワー数のわりにエンゲージメントを得られず、引用ポストの寄せ集めや感情的な短文ばかりが上に上がってくる現象は、すでに見覚えがある人も多いはずだ。

つまり、シルバーが描いた島は、英語圏だけにある島ではない。同じ仕組みで動くプラットフォームの上では、同じような奇妙な進化が、それぞれの言語の中で進みつつある。

問題は、その島から外を見るための窓が、まだ自分たちに残っているかどうかだ。閉じた島で目立つことと、外の世界で意味を持つことは、もう別の話になりつつある。


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