サムスンがDRAM契約価格をQ2も30%値上げ、2025年比2.6倍に到達
スポット価格の下落と、契約価格の高騰。同じ「メモリ市場」を語りながら、見えている景色がまるで違う。その矛盾の正体は、巨大クラウド企業が仕掛けた「長期契約」という名の囲い込みだ。
スポット価格の下落と、契約価格の高騰。同じ「メモリ市場」を語りながら、見えている景色がまるで違う。その矛盾の正体は、巨大クラウド企業が仕掛けた「長期契約」という名の囲い込みだ。
2025年を基準に2.6倍──止まらない契約価格の上昇
サムスンが2026年第2四半期のDRAM供給価格を前四半期比で約30%引き上げたことが、韓国ETNewsの報道で明らかになった。第1四半期にはすでに前年比で約100%の値上げが実施されており、2025年初頭を基準とすると、供給価格は約2.6倍の水準に達している。
業界関係者は「大量の顧客がDRAMの事前確保に競争を繰り広げており、さらなる値上げが可能だった」と証言し、「AI需要を核として、価格安定化や値下がりの兆しは一切見えない」と語っている。
サムスンの値上げはHBMからサーバー向け、PC向け、モバイル向けまで全カテゴリに及んでおり、SK HynixとMicronも同水準の値上げ交渉を進めている。
この値上げペースが意味するのは単純だ。2025年初頭に1万ウォンだったDRAMが、Q1で2万ウォン、Q2には2万6,000ウォン。上昇率こそ鈍化しているが、絶対額は四半期ごとに積み上がっている。
なお、この30%はHBMからサーバー、PC、モバイルまで全製品の平均値だ。TrendForceはQ2の汎用DRAM契約価格を前四半期比58〜63%上昇と予測しており、コンシューマー向けDRAMに限れば実際の値上げ幅はさらに大きい可能性がある。
CSPが仕掛ける「長期契約」という囲い込み
この値上げを支えているのが、クラウドサービスプロバイダー(CSP)による異例の調達行動だ。Microsoft、Google、Amazonといった大手CSPは、2027年以降のDRAM供給量確保に向けてサムスン、SK Hynix、Micronと長期契約の交渉を進めている。一部のCSPは2028年にまで達する契約を目指しており、その交渉材料として通常より高い契約価格、前払い、さらには設備導入費用の負担まで提示しているという。
メモリモジュールメーカーADATAの陳立白董事長は「すべてのCSP大手が1年以上の契約を結ぼうとしている」と証言する一方で、「長期契約は理想だが、90%の企業は獲得できない」とも明かしている。1年を超える契約を確保できるのは最大でも2社。それ以外のCSPは1年契約、CSP以外の企業は毎月の交渉を強いられ、翌月の供給すら確定しない状況が続いている。
なぜ「売り手市場」はここまで極端になったのか
構造はシンプルだ。AI向けデータセンターの建設ラッシュが、メモリの需給バランスを根本から覆している。
HBM(High Bandwidth Memory)はAIアクセラレータに不可欠な高性能メモリだが、汎用DRAMと同じウェーハから製造される。しかもHBMは複数のダイを積層する構造のため、通常のDDR5と比べて約3倍のウェーハ容量を消費する。歩留まりも低い。メモリメーカーがHBMを増産すればするほど、DDR5やDDR4に回せる供給量は減る。
Bloombergの調査によれば、データセンター向けDRAM消費は2025年に全世界の約50%を占め、5年前の32%から急増している。2030年にはAIサーバーだけで全体の60%超を占めると予測されている。
サムスンの現在の生産能力は、急増するDRAM需要の約60%しかカバーできていない。SK Hynixは2026年分の全生産能力をすでに予約で埋めており、Micronも同年のHBM供給分を契約済みだ。供給側に「余剰」はもう存在しない。SK Hynixは2026年分の全生産能力をすでに予約で埋めており、Micronも2026年のHBM供給分を契約済みだ。供給側には、もはや「余剰」が存在しない。
スポット価格の下落は「幻の安堵」
一方で、3月末から中国を中心にDDR5のスポット価格が急落している。Googleが3月25日に発表したメモリ圧縮アルゴリズム「TurboQuant」をきっかけにメモリ関連株が下落し、転売業者が在庫を投げ売りしたことが直接の引き金だ。中国市場では32GB DDR5モジュールが最大30%下落した。
https://x.com/Eng_china5/status/2039354509273846222
だが、この下落はスポット価格と小売価格に限られている。サムスンやSK Hynixが企業向けに結ぶ契約価格には影響が出ていない。韓国の大信証券の調査では、大手CSPがサーバー向けDDR4をHBM3eを上回る価格で購入していることすら確認されている。
https://x.com/The_AI_Investor/status/2040682345737621531
TrendForceも「今回の価格下落は消費者・小売市場に集中したもので、メモリ全体の上昇トレンドに変化はない」との見解を示している。スポット価格の下落は、構造的な供給不足を解消するものではない。時間が経てば再び上昇に転じる可能性が高い。
一般消費者への影響はどこまで広がるか
契約価格の高騰は、すでに消費者の手元に届く製品の価格を押し上げている。DellやLenovoは2026年初頭から最大20%の値上げを実施済みで、スマートフォンも5〜20%の価格上昇が見込まれている。
TrendForceの最新予測では、2026年のノートPC出荷は前年比14.8%減と大幅な下方修正がなされた。
IDCの予測では、2026年のPC市場は前年比10〜11%縮小、スマートフォン市場も8〜9%縮小する見通しだ。Gartnerは、メモリ価格の高騰により500ドル(約8万円)以下のエントリーノートPCが2年以内に採算割れで消滅すると予測している。
問題はPCやスマートフォンだけに留まらない。DDR3やDDR4といったレガシー規格のメモリを使う自動車や家電も影響を受ける。メモリメーカー大手はこれら旧規格の生産を大幅に縮小しており、コロナ禍に匹敵する供給不足が懸念されている。
「2030年まで不足」の衝撃
SKグループの崔泰源会長は、メモリ供給不足が2030年まで続くとの見通しを示した。当初2027〜2028年がピークとされていた業界予測を大きく超える長期化予想だ。根拠は明快で、「ウェーハ不足の解消には新設備の稼働まで最低4〜5年かかる」と説明している。
Micronが日本に計画している新工場も稼働は2028年末以降の見通しで、サムスンの平沢P4ラインの本格稼働にも時間がかかる。供給が需要に追いつくのは、早くても2027年後半。それすら楽観的なシナリオかもしれない。
つまり今のメモリ価格は「一時的な高騰」ではなく、新しい基準線になりつつある。CSPが長期契約で供給を囲い込み、メモリメーカーはAI向けHBMに生産を集中し、一般消費者は「残り物」を高値で買う──この構造が、少なくとも数年は続く。
メモリの値札を見て「高い」と感じるのは、まだ昔の相場を覚えているからだ。数年後には、今の価格が懐かしく思える日が来るのかもしれない。
参照元
他参照
関連記事
- メモリがデータセンター投資の30%を占拠、4年で4倍に急膨張
- DDR5メモリが数ヶ月ぶりの値下がり――背景にGoogleの圧縮技術と「買い控え」の壁
- 中国DDR5業者が在庫処分パニック——値下がりは「正常化」ではない
- DDR5メモリ、8カ月ぶりの価格下落──米中欧で同時進行する「調整」の正体
- ASUS、PC最大30%値上げへ──メモリ枯渇の衝撃
- Raspberry Pi値上げ止まらず──16GBが305ドルに
- キオクシアが2D NAND生産終了へ――41年の歴史に幕
- イランがStargate UAE壊滅を宣言、衛星画像で威嚇
- NVIDIA Pascal 10周年──黄金時代はどこへ
- AWS中東リージョン「完全ダウン」──Amazon社内文書で判明