Starlink衛星がまた砕けた──3ヶ月で2度目の「異常」が問うもの

Artemis IIの打ち上げを目前に控えた今、SpaceXの衛星がまた軌道上でバラバラになった。偶然にしては、あまりに間が悪い。

Starlink衛星がまた砕けた──3ヶ月で2度目の「異常」が問うもの

Artemis IIの打ち上げを目前に控えた今、SpaceXの衛星がまた軌道上でバラバラになった。偶然にしては、あまりに間が悪い。


高度560kmで衛星が「消えた」

Starlinkの衛星34343号機が、軌道上から消えている。2026年3月29日に通信を断ち、以来制御不能の状態が続く。

SpaceXは公式Xアカウントで「軌道上での異常により通信喪失」と発表し、ISSやArtemis IIへのリスクはないと付け加えた。だが「異常」という言葉の裏側で起きていたことは、もう少し生々しい。

軌道上の物体を追跡する民間企業LeoLabsは、事故直後にレーダーで数十個の破片を検出したと報告している。少なくとも17個の追跡可能な断片が確認され、衛星が単に「沈黙した」のではなく、物理的に砕けたことを示していた。

LeoLabsの分析によれば、原因は他の宇宙物体との衝突ではなく、衛星内部のエネルギー源──推進システムやバッテリーの異常──による可能性が高い。

「異常」と呼ぶには派手すぎる。SpaceXが公表した情報は最小限で、LeoLabsのような外部の追跡機関が事態の全体像を補完する構図になっている。「計画外の急速分解」──業界がロケット爆発を言い換えるときに使う表現の方が、現実に近い。


3ヶ月前にも同じことが起きている

これが初めてなら、1万機を超える衛星群における統計的な不運で片付けられる。だが、そうではない。

2025年12月17日、Starlink衛星35956号機がほぼ同じ種類の「異常」を起こしている。推進タンクが急速にガスを噴出し、高度が約4km急降下、複数の追跡可能な破片が発生した。SpaceXはこのときも原因を公表していない。

LeoLabsは今回の事故について、「12月の事象と類似している」と明言した。問題が根深い可能性を示唆する発言だ。宇宙物理学者のジョナサン・マクダウェルは、Scientific Americanの取材に対し率直に語っている。「リスクがゼロというのは理解しがたい。破片がすぐ再突入するから低リスクだとは思うが、なぜゼロと評価できるのか、もっと説明が必要だ」。

さらに踏み込んで、もしこれが設計上の欠陥に起因するなら、同型機は約3,500機が軌道上にある、と指摘した。壊れた34343号機は「V2 Mini Optimized」と呼ばれる最新モデルで、2025年5月に打ち上げられたばかり。運用開始から1年未満で砕けた。

もし同型機に共通する構造的な問題であれば、「統計的な不運」は「系統的なリスク」に変わる。SpaceXが原因を特定し公表するまで、その判断は保留される。

12月の事故後、SpaceXは「ソフトウェア更新で再発防止策を展開中」と説明していた。だが今回の事故は、その対策が間に合わなかった──あるいは的を射ていなかった──可能性を浮き彫りにしている。

Starlink 35956 Starlink 34343
発生日 2025年12月17日 2026年3月29日
高度 418km 約560km
事象 タンク噴出
高度4km降下
破砕
破片数十個
衛星状態 ほぼ原型維持 物理的に破砕
追跡破片 少数 17個以上
推定原因 未公表 調査中(内部要因疑い)
事後対応 約18日間
打ち上げ停止
約6時間後に打ち上げ

※ Starlink公式X投稿、LeoLabs分析、SpaceNews報道に基づく。35956の打ち上げ停止期間は12月17日〜1月4日の実績。


「安全第一」の声明と、6時間後の打ち上げ

タイミングの妙は続く。SpaceXは事故の発表とほぼ同時期に、Xで「地球軌道の安全を守ることは最優先事項だ」と投稿した。The Registerはこれを「絶妙なタイミング」と皮肉を込めて伝えている。

そして事故発表からわずか約6時間後、SpaceXはケープカナベラルから29機の新たなStarlink衛星を打ち上げた。12月の事故後には約2週間の打ち上げ停止があったが、今回はその気配すらない。

原因究明と打ち上げ続行の判断は本来矛盾しない。だが2度続けて衛星が砕け、原因が未解明のまま新しい衛星を送り込み続ける姿勢は、「安全第一」という言葉の重みを問うものだ。


膨張する衛星群と、縮まらない疑問

SpaceXは2026年3月17日、Starlink衛星1万機の同時運用という前人未到の記録を達成した。地球軌道上のアクティブな衛星の約3分の2が、たった1社のものだ。

さらにSpaceXは今年1月、FCCに対し最大100万機のAIデータセンター衛星の打ち上げ申請を提出している。「カルダシェフ・スケールのタイプII文明への第一歩」とSpaceXは申請書に記した。現実には、既存の1万機ですら内部から砕ける事態が繰り返されている。

野心と現実のギャップは、軌道の混雑という形で数字に表れつつある。

衛星軌道追跡の専門家たちが2025年12月に提唱した「CRASHクロック」は、衝突回避操作を止めた場合に壊滅的な連鎖衝突が起きるまでの時間を推定する指標だ。軌道がこれ以上混雑すれば、その時計の針は加速する。

SpaceXも手をこまねいているわけではない。2026年中に約4,400機の衛星を高度550kmから480kmへ降下させる計画を進めている。高度を下げれば、万一の場合に大気の抵抗で破片が短期間で燃え尽きる。理にかなった対策だ。

ただし、今回の事故は高度560kmで起きた。まさにこれから降下させようとしていた高度帯だ。対策の完了を待たずに、問題が先回りした格好になっている。


Artemis IIの影の中で

奇しくも事故の2日後、4月1日にはArtemis IIがケネディ宇宙センターから打ち上げ予定だ。50年以上ぶりに人間を月周辺に送る、NASAの歴史的ミッションである。SpaceXはArtemis IIへの影響はないとしている。

軌道は異なり、破片の大部分は数週間で燃え尽きる。技術的にはその評価は妥当かもしれない。だがマクダウェルの疑問は残る──「なぜゼロと言い切れるのか」。

1万機の衛星群は、もはやインフラだ。電力網や通信網と同じように、その信頼性は社会の前提になりつつある。だからこそ、「異常」が繰り返されたとき、求められるのは安心させる言葉ではなく、原因と対策の透明な開示だ。

100万機の時代が来る前に、まず1万機の安全を証明する必要がある。


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