Steam Deck 2が既製品APUに転換、2028年目標
Valveの次世代携帯機Steam Deck 2が、セミカスタムAPUを捨て、AMDの既製品チップで勝負に出る。2028年の発売を目指すが、メモリ危機という巨大な壁が立ちはだかっている。
Valveの次世代携帯機Steam Deck 2が、セミカスタムAPUを捨て、AMDの既製品チップで勝負に出る。2028年の発売を目指すが、メモリ危機という巨大な壁が立ちはだかっている。
セミカスタムからの決別
Steam Deck 2の設計思想が、初代から根本的に変わろうとしている。
AMDのハードウェアリーカーとして知られるKeplerL2がNeoGAFに投稿した情報によれば、Valveは2028年をSteam Deck 2の発売目標に据えている。だが今回の報道で最も注目すべきは日程ではない。ValveがセミカスタムAPUを放棄し、AMDの市販チップを採用する方針に転じた点だ。
初代Steam Deckは「Van Gogh」(開発コード名:Aerith)と呼ばれるAMDとの共同開発チップを心臓部に据えていた。Zen 2 CPUとRDNA 2 GPUを4〜15Wの極小電力枠に収めた設計は、当時の市販APUでは不可能な電力効率を実現していた。
AMDのセバスティアン・ヌスバウム氏は開発者向けストリームで、Aerith APUのダイサイズが一般的なラップトップ用プロセッサの3分の2程度だと説明していた。
では、なぜValveはこの「専用設計」を捨てるのか。
AMDが断った理由
KeplerL2は別のNeoGAFスレッドで、その背景を明かしている。3nmプロセスでカスタムSoCを製造するには莫大な開発コストがかかり、1000万台以上の販売保証がなければAMDにとって割に合わない。Steam Deckの累計販売台数が約500万台、ASUS ROGやLenovo Legionを合わせても携帯ゲーミングPC全体で600万台程度とされる現状では、専用チップの経済性が成り立たない。
つまりこれは、Valveの選択というより、市場規模が突きつけた現実だった。
「50%程度の向上では興味がない」
Valveのソフトウェアエンジニア、ピエール=ルー・グリファイスは2025年11月のIGNインタビューで、次世代機のハードルを明確に語っている。
「20%、30%、あるいは50%程度の性能向上では興味がない。もっとはっきりとした世代の飛躍が必要だ」
グリファイスは「次のSteam Deckの姿はかなり見えている」としつつも、「現時点ではSoCの選択肢にそれを満たすものがない」と認めた。
この発言が示すのは、Steam Deck 2がASUSやLenovoのような年次アップデート型の携帯PCとは根本的に異なる思想で作られるということだ。Valveが求めているのは、4〜5年使える「固定ハードウェアターゲット」としての新基準であり、コンソール的なライフサイクルをPC携帯機で実現する試みにほかならない。
現行のSteam DeckはZen 2+RDNA 2という2022年時点の設計で、業界がZen 4+RDNA 3.5へ進んだ今、明らかに世代遅れだ。DLSSを武器にしたNintendo Switch 2にも多くのタイトルで後れを取り始めている。だからこそ、Valveは中途半端なアップグレードを避け、RDNA 5やZen 6といった未来のアーキテクチャを見据えている。
「遅れたほうが、むしろ強くなる」という逆説
セミカスタムAPUの放棄は、悪いニュースばかりではない。むしろ、Valveに独自の武器を与えている。
PS6やXbox次世代機は数年前からAMDとセミカスタムSoCの設計を進めており、発売時点での仕様は事実上「ロック」されている。一方、Valveは市販APUを使うため、発売の直前まで最新チップを選ぶ余裕がある。KeplerL2が「遅れれば、むしろスペックが上がる」と指摘したのは、この柔軟性のことだ。
AMDはTDP設定を柔軟にカスタマイズできるAPUを展開しており、Valveは既製品チップでも電力枠を自社の要件に合わせて調整できる。SteamOSの最適化と合わせれば、専用チップがなくても十分に競争力のある電力効率を実現できる可能性がある。
ただし、これは裏を返せばValveのハードウェア設計の「深さ」が一段落ちることも意味する。初代Aerith APUが達成したような、他の追随を許さない電力あたりの性能は、市販チップでは再現が難しいかもしれない。
メモリ危機という本当の障壁
2028年という目標すら楽観的に見える理由がある。世界的なDRAM・NANDフラッシュの価格高騰だ。
2026年第1四半期のDRAM契約価格は前期比で90〜100%の上昇を記録し、四半期ベースで過去最高の急騰となった。NANDフラッシュも同程度の値上がりだ。TrendForceは2026年第2四半期もDRAMが58〜63%、NANDが最大75%の追加上昇を予測している。
AIデータセンター需要の爆発が根本原因だ。Samsung、SK Hynix、Micronの3社は利益率の高いHBM(広帯域メモリ)やエンタープライズ向け製品に生産を集中させ、PC・スマートフォン・ゲーム機向けの供給を大幅に絞っている。
Valveはすでにこの影響を受けている。Steam Deck LCDモデルは複数の市場で静かに生産終了し、OLEDモデルも出荷遅延が発生している。2026年内に発売予定のSteam Machineも、メモリコスト高騰のため価格発表を延期した。
Phison ElectronicsのCEOは「NANDフラッシュの不足は10年続く可能性がある」と述べ、TrendForceも「意味のある生産能力拡大は2027年末か2028年まで見込めない」と分析している。Steam Deck 2が2028年を狙うのは、まさにこの供給回復の「出口」を見据えた判断でもある。
2028年に何が届くのか
| Steam Deck 世代比較 | ||
|---|---|---|
| 現行モデル | Steam Deck 2 | |
| CPU | Zen 2 4コア / 8スレッド | Zen 6* |
| GPU | RDNA 2 8CU / 1.0-1.6GHz | RDNA 5* |
| APU設計 | セミカスタム AMD Aerith | 既製品(市販)* |
| プロセス | 7nm / 6nm LCD / OLED | 3nm級* |
| メモリ | LPDDR5 16GB 5500-6400MT/s | LPDDR6* |
| TDP | 4-15W | 未公開 |
| 発売 | 2022年2月 | 2028年目標* |
*はリーク・推定情報(KeplerL2の投稿および業界予測に基づく)。現行モデルの仕様はOLED版基準。
Valveが予定通り2028年に発売にこぎつけた場合、搭載されるのはAMDのZen 6+RDNA 5アーキテクチャの市販APUになる可能性が高い。RDNA 5はAMDのグラフィックスアーキテクチャのフルスクラッチでの再設計とされ、より高度なレイトレーシングやAIアップスケーリングのハードウェアサポートが期待される。メモリもLPDDR6への移行が見込まれ、帯域幅のボトルネックも大幅に改善されるだろう。
だが、メモリ不足が長引けば、発売は2029年以降にずれ込む。その場合、逆にさらに新しいチップが選択肢に入る。皮肉な話だが、世界的な部品不足がValveの携帯機をより強力にする可能性がある。
いずれにせよ、現行のSteam Deck OLEDは当面の旗艦機であり続ける。Valveはハードウェアの強制的な買い替えではなく、Protonを通じたソフトウェア最適化で既存ユーザーの体験を延命させる方針を取っている。それ自体は賢明だが、待つ側にとっては気の長い話だ。
Steam Deckが切り開いた「PC携帯ゲーミング」というカテゴリは、今やASUS、Lenovo、そしてMicrosoftまで参入する激戦区になった。2028年にValveが戻ってきたとき、その戦場がどんな形をしているかは、まだ誰にもわからない。
参照元
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