Anthropic

Fable 5停止、もう一つの理由。中国のMythosアクセス疑惑が浮上

AI

Fable 5停止、もう一つの理由。中国のMythosアクセス疑惑が浮上

Fable 5とMythos 5の全面停止から2日。ジェイルブレイクとAmazonの通報、政権との交渉決裂という経緯はすでに報じた。だがその裏に、公表されていないもう一つの理由があった可能性が浮上している。 中国と関係のあるグループがMythosにアクセスした疑いがあり、それが輸出管理の根拠の一つだったと、事情に詳しい関係者の話として報じられた。 「アクセスを求めた」から「アクセスした疑い」へ 伏線は5月にあった。 4月、シンガポールで開かれたカーネギー国際平和財団の会合で、中国のシンクタンク職員がAnthropicの関係者にMythosへのアクセスを求めたと報じられた。Anthropicは拒否し、米国家安全保障会議(NSC)にもこの接触は報告された。 あの時点では「アクセスを求めて断られた」話だった。今回の報道は一段階先に進んでいる。中国関連グループが実際にMythosにアクセスした疑いがあるというのだ。どの組織が、どのような経路でアクセスしたのかは明らかになっていない。 食い違う説明 ここで注目すべきは、Anthropic側の反応だ。 同社の広報担当者は、Fab

AIの脅威を認め、それでも規制しない。トランプ大統領令の意味

AI

AIの脅威を認め、それでも規制しない。トランプ大統領令の意味

AIがソフトウェアの脆弱性を自律的に発見し、攻撃コードまで書く。この現実に米政府が正面から向き合った。だが大統領令が企業に求めるのは、あくまで「任意の協力」だ。規制なき安全保障は成立するのか。 何が起きたか 現地時間2026年6月2日、トランプ大統領が大統領令「先進的AIのイノベーションと安全保障の促進」(Promoting Advanced Artificial Intelligence Innovation and Security)に署名した。連邦政府のサイバー防衛を強化し、フロンティアAIモデルの事前評価枠組みを構築し、AI犯罪の取り締まりを強化する。 この枠組みは完全に任意だ。大統領令は「対象フロンティアモデル」の開発企業に、公開の最大30日前に政府へアクセスを提供するよう求める。だが同じ文書がこうも明記する。「本令のいかなる条項も、AIモデルの開発・公開・リリース・配布に対する義務的な政府認可、事前承認、許可制度の創設を認めるものと解釈してはならない」。 規制はしない。だが安全は確保したい。大統領令はこの矛盾を抱えたまま署名された。 半年前の大統領令との落差

インド発「AI主権」論。欧州との決定的な違い

AI

インド発「AI主権」論。欧州との決定的な違い

Fable 5の全面停止から48時間。欧州では政治家たちが「主権」を叫んだ。同じ時間軸で、インドではまったく別の声が上がっていた。政治家ではなく、企業の創業者たちだ。しかも金額つきで。 提携発表の翌日に遮断された国 まず時系列だ。 6月11日、TCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)がAnthropicとの大型提携を発表した。Claude専任の事業部門を新設し、5万人の社員にClaudeへのアクセスを付与する。金融、医療、公共サービスなど規制の厳しい業界向けにAIソリューションを共同展開する、という内容だった。Anthropicのダリオ・アモデイ(Dario Amodei)CEOは声明で「インドは米国に次ぐ第2の市場」と明言している。 その翌日の夜、Fable 5とMythos 5が停止された。 TCSの5万人がClaudeを学び始めた矢先に、最上位モデルが消えた。2月にはInfosysとも提携を結んでいる。インドのITサービス大手2社がAnthropicのエコシステムに深く組み込まれた直後の出来事だった。 欧州にとってFable 5停止は「自分たちが使っていたサービ

Fable 5停止が浮き彫りにした「AIは誰のものか」。欧州の政治家が一斉に動いた

AI

Fable 5停止が浮き彫りにした「AIは誰のものか」。欧州の政治家が一斉に動いた

米国政府がAnthropicのFable 5とMythos 5を止めてから24時間も経たないうちに、ヨーロッパの政治家たちが一斉に声を上げた。左右を問わない。現職閣僚も、野党指導者も、元首相も。口にした言葉はそれぞれ違うが、指し示す先はひとつだった。AIは国家インフラになった、そしてそのインフラを他国が握っている、と。 何が起きたか 経緯を手短に振り返る。6月9日にリリースされたFable 5は、Anthropicが一般公開した初のMythosクラスのモデルだった。リリース前に米国政府への通知は済んでおり、反対はなかった。それが6月11日木曜夜、Amazonのアンディ・ジャシー(Andy Jassy)CEOが政権幹部に電話をかけたことで状況が変わる。自社の研究者がFable 5のセーフガードを突破し、サイバー攻撃に転用可能な情報を引き出したという報告だった。少なくとも5社が追随して懸念を伝え、翌金曜の夕方にはハワード・ラトニック(Howard Lutnick)商務長官からダリオ・アモデイ(Dario Amodei)CEOへ輸出規制の書簡が届いた。同日夜、Fable 5とMytho

Fable 5はなぜ止まったのか。舞台裏の24時間と「事実上のライセンス制度」

AI

Fable 5はなぜ止まったのか。舞台裏の24時間と「事実上のライセンス制度」

Fable 5停止の舞台裏が見えてきた。Anthropicはリリース前に政府へ通知し、反対されていなかった。それを覆したのは、木曜夜に始まった24時間の出来事だった。 反対されなかったリリース Fable 5の6月9日のリリースに先立ち、Anthropicは政府に対してリリース計画を複数回通知していた。政府は反対しなかった。 金曜夜の規制は、「危険なモデルを止めた」だけでは説明がつかない。政府はFable 5の性能もセーフガードの仕組みも把握した上で、リリースを黙認していた。 それが変わったのは、6月11日の木曜夜だった。 木曜夜から金曜夜まで Amazonのアンディ・ジャシーCEOが、6月11日木曜夜、政権幹部に電話をかけた。自社の研究者がFable 5のセーフガードを突破し、サイバー攻撃に転用可能な情報を引き出したという報告だった。連絡先にはスコット・ベッセント財務長官も含まれていた。 Amazonだけではない。木曜夜から金曜朝にかけて、少なくとも5社が政権の複数の高官に懸念を伝えた。 金曜早朝から、政権関係者はAnthropicに対してモデルの自主撤回を繰り返

Fable 5停止の裏で何が起きていたのか。政府側の言い分とAmazonの影

AI

Fable 5停止の裏で何が起きていたのか。政府側の言い分とAmazonの影

Anthropicの最新モデルFable 5とMythos 5が米政府の輸出規制で停止された問題で、新たな事実が立て続けに明らかになった。政権側の論理を語ったサックス氏の投稿、そして規制の引き金を引いたのが他ならぬAnthropicの最大の出資者だったという報道。リリースからわずか3日で止められたモデルの裏で、何が動いていたのか。 政府側が初めて語った「経緯」 大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の共同議長であるデビッド・サックス(David Sacks)氏が6月14日、一連の経緯について長文の投稿を行った。サックス氏は3月にホワイトハウスAI・暗号通貨担当の特別顧問を退任したが、PCAST共同議長としてAI政策への関与は続いている。その立場から政府側の視点を体系的に語ったのは、これが初めてだ。 I’ve had a number of conversations with folks inside and outside government about the current situation with Anthropic, and here is what I bel

米政府がFable 5とMythos 5を輸出規制。リリース3日で全ユーザーのアクセス停止へ

AI

米政府がFable 5とMythos 5を輸出規制。リリース3日で全ユーザーのアクセス停止へ

6月9日に一般公開されたばかりのClaude Fable 5が、わずか3日で使えなくなった。 6月12日、ハワード・ラトニック(Howard Lutnick)商務長官がAnthropicのCEOダリオ・アモデイ(Dario Amodei)氏宛てに書簡を送り、Fable 5とMythos 5を輸出規制の対象に指定した。米国外への提供はもちろん、米国内の外国籍の人物への提供も禁止される。Anthropicの外国籍社員すら対象だ。外国籍のユーザーだけを選別する手段がない以上、Anthropicは全ユーザーのアクセスを止めるしかなかった。他のClaudeモデルには影響しないとしている。 波乱のリリースから72時間 Fable 5とMythos 5は同一の基盤モデルだ。違いはセーフガードの有無だけで、Fable 5にはサイバーセキュリティ、生物・化学、AI蒸留(高性能モデルの出力を使って別のAIを訓練する手法)に関するリクエストを検知する分類器が搭載されている。該当するリクエストを検知すると、応答をClaude Opus 4.8に自動的に切り替える仕組みだった。Mythos 5はこの制限

Metaが社内AIトークン使い放題を撤回。コスト抑制へ転換

AI

Metaが社内AIトークン使い放題を撤回。コスト抑制へ転換

4月には社内リーダーボード「Claudeonomics」で従業員同士がAIトークン消費量を競い合い、30日間で60兆トークンを燃やしていた。それからわずか2カ月。Metaは6月9日付の社内メモで、従業員のトークン使用量に上限を設け、社内AIツールMetaCodeへの移行を促す方針を打ち出した。 「使い放題」から「制限」へ、2カ月で180度転換 報じられた社内メモの内容は端的だった。2026年の社内AI関連支出の予測が数十億ドル規模に達したことを受け、個人やチーム単位でのトークン使用量の可視化、予算の設定、使いすぎへの自動通知を導入する。2027年にはさらに踏み込んだ管理体制に移行するという。 ほんの数カ月前まで、Metaは真逆のことを言っていた。CTOのアンドリュー・ボズワース(Andrew Bosworth)氏は2月の技術カンファレンスで、トップエンジニアが自身の給与に相当する額をトークンに費やし、生産性が5〜10倍に跳ね上がったと語っている。「簡単に元が取れる。上限なしでやれ」。 その号令を真に受けた結果がClaudeonomicsだった。8万5000人以上の従業員が参加

パランティアCEOが問う「AIラボの死角」。企業の不満とIPOの季節

AI

パランティアCEOが問う「AIラボの死角」。企業の不満とIPOの季節

AnthropicとOpenAIが兆ドル規模のIPOに向けて走るなか、パランティアのアレックス・カープ(Alex Karp)氏がCNBCのインタビューで、企業顧客のAIラボ離れを明言した。「フロンティアAIラボに不満を持っているのは、一般の人だけではない。私たちが取引しているすべての企業顧客が、非公式の場でそう言っている」。 この発言の重みは、タイミングにある。Anthropicが6月1日にS-1を極秘提出し、OpenAIがその1週間後に続いた。両社とも2026年後半の上場を見据え、企業価値はAnthropicが約9650億ドル(約154兆円)、OpenAIが約8520億ドル(約136兆円)と報じられている。AI史上最大のIPOレースが始まったその瞬間に、エンタープライズAI企業のトップが「顧客は怒っている」と言い切った。 「tokenmaxxing」という告発 カープ氏がインタビューで繰り返し使った造語がtokenmaxxingだ。AIのトークン(処理の基本単位)の消費量を最大化すること自体が目的になり、ビジネスの成果につながっていないという批判を一語に凝縮している。 この

AIモデル、選んで使う時代。価格戦争の本当の勝者

AI

AIモデル、選んで使う時代。価格戦争の本当の勝者

OpenAIとAnthropicの値下げ合戦が取り沙汰されている。だが企業はとっくに動いていた。フロンティアモデルは「必要なときだけ呼ぶ高級品」へと変わりつつある。 企業はもう忠誠を誓っていない 先日の記事でOpenAIがトークン単価の大幅引き下げを検討していると伝えた。Anthropicとの価格戦争が始まろうとしている、と。だが続報が映す現実は、予想とは少し違っていた。 戦いはもう始まっている。しかも戦場を動かしているのは、OpenAIでもAnthropicでもない。企業の現場だ。 大企業やスタートアップの間で、複数のAIモデルを動的に切り替えて使うツールが急速に広がっている。中国のDeepSeekやAlibabaのモデルを含む安価なオープンソースAIを日常業務に回し、OpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeは複雑なタスクにだけ使う。この「モデルミックス」戦略で、AIコストを最大95%削減した企業もあるという。 バグ検出スタートアップDetailの創業者ダン・ロビンソン(Dan Robinson)氏は、ワークロードの90%をClaudeとGoogle

AIの「記憶」が間違いを正さなくなる日。メモリ機能が精度を蝕む構造

AI

AIの「記憶」が間違いを正さなくなる日。メモリ機能が精度を蝕む構造

あなたの好みや癖を覚え、使うほど賢くなる。AIアシスタントの記憶機能は、いまやどの製品でも最大のセールスポイントだ。だが、その「賢さ」には代償がある。使い手を知れば知るほど、AIは正しさよりも心地よさを選ぶようになる。企業向けAIプラットフォームを開発するWriter社が6月10日に公開した2本の論文が、その構造を数字で突きつけた。 25倍に膨らむ「追従」 AIの世界でsycophancy(追従性)と呼ばれる問題がある。ユーザーが間違っていても同調し、事実より相手の気分を優先する振る舞いだ。2025年4月、OpenAIがGPT-4oのアップデートを配信したところ追従性が過剰になり、ロールバックに追い込まれた一件は記憶に新しい。今年4月のCHI 2026では、MIT・ペンシルベニア州立大学の共同チームがメモリ機能やユーザープロファイルの蓄積が追従性を加速させることを実証している。 Writer社の研究は、この問題をさらに深い層まで掘り下げた。 同社はMIST(Memory Influence on Sycophancy Tests)というベンチマークを構築し、科学・医療・道徳推

Anthropicが「見えない性能劣化」を撤回。Fable 5のAI研究制限が炎上した理由

AI

Anthropicが「見えない性能劣化」を撤回。Fable 5のAI研究制限が炎上した理由

6月9日に一般公開されたClaude Fable 5には、Anthropicが公にしなかった安全装置がもう一つ埋まっていた。サイバーセキュリティや生物学関連のリクエストをOpus 4.8に転送する仕組みは既報のとおりだが、319ページにおよぶシステムカードの奥に、もう一つの安全装置が記されていた。フロンティアAI開発に関わるリクエストに対し、ユーザーに知らせることなく性能を落とす措置だ。リリースから数時間でAI研究コミュニティの怒りが爆発し、Anthropicは翌日に方針を撤回、謝罪に追い込まれた。 「見えないガードレール」の異質さ Fable 5の安全装置には4つのカテゴリーがある。サイバーセキュリティ、生物学・化学、モデル蒸留、そしてフロンティアLLM開発。前の3つは共通の仕組みで動く。分類器がリクエストを検知すると応答をOpus 4.8に切り替え、その旨をユーザーに通知する。誤検知は多いが、何が起きたかは見える。 4つ目だけが違った。 システムカードにはこう記されていた。サイバーセキュリティや生物学・化学、蒸留に対する介入と異なり、この安全装置はユーザーに見えない、と。

IPO直前のOpenAIが値下げを検討。Anthropicとの価格戦争が始まろうとしている

AI

IPO直前のOpenAIが値下げを検討。Anthropicとの価格戦争が始まろうとしている

OpenAIがAPIのトークン価格を大幅に引き下げる検討に入った。事情に詳しい関係者の話として報じられた。Anthropicも同様の値下げに踏み切るとの見通しが背景にあり、両社が同時にIPO準備を進めるなかで、本格的な価格戦争の号砲になりかねない。 値下げの構図 OpenAIがいま検討しているのは、AIサービスの課金単位であるトークンの単価を大幅に引き下げることだ。Anthropicに流れた顧客を取り戻す狙いがあるとされるが、関係者によれば議論はなお流動的で、最終決定には至っていない。 背景にあるのはAnthropicの急成長だ。ARR(年間経常収益)は2025年末の約90億ドル(約1兆4000億円)から、2026年5月には約470億ドル(約7兆5000億円)へと跳ね上がった。牽引役はClaude Code。ソフトウェアエンジニアの間で爆発的に広がり、年間100万ドル以上を支出するエンタープライズ顧客は1000社を超えた。5月28日に完了したSeries Hでの企業価値評価は9650億ドル(約154兆円)。OpenAIの8520億ドル(約136兆円)を初めて上回り、未上場AI企

AIが賢くなるほど、測れない仕事だけが価値を持つ。ある投資家の逆説

AI

AIが賢くなるほど、測れない仕事だけが価値を持つ。ある投資家の逆説

AnthropicとNVIDIAに全額突っ込んで帰ればいい。どうせ他に投資先はない。2026年半ば、シリコンバレーのAI投資家たちにそんな空気が漂っていると、ある論考が書き出す。書いたのはAI特化VCファームConviction創業者のサラ・グオ(Sarah Guo)氏。6月10日に自身のSubstackへ投稿されたこの一本が、その絶望に正面から反論を試みている。 「測れる仕事」の末路 グオ氏はGreylockで約10年ジェネラルパートナーを務めた後、2022年にConvictionを設立した。Harvey、Mistral、Sierra、Basetenといった現在注目を集めるAIスタートアップに初期から投資しており、自らの投資先を題材にしながら、AIアプリケーション企業が基盤モデル層に吸収されるという悲観論への反論を試みている。 出発点は明快だ。ベンチマークで測れる仕事は、遅かれ早かれコモディティになる。 グオ氏はソフトウェア開発を最初の例にとる。Cognitionの自律型コーディングエージェントDevinは2024年の登場時、標準ベンチマークの達成率が13%で冷笑された。1