Anthropic

G7で浮上した「AIのキルスイッチ」問題

AI

G7で浮上した「AIのキルスイッチ」問題

Fable 5とMythos 5の輸出規制から1週間。G7エビアン・サミット最終日のワーキングランチで、マクロン仏大統領とモディ印首相が、米国によるAIアクセス遮断のリスクを正面から問題にした。 「スイッチを切れる」という現実 6月17日、フランス・エビアン=レ=バンで行われたG7のワーキングランチ。AIをテーマにしたこの場には、Anthropicのダリオ・アモデイCEO、OpenAIのサム・アルトマンCEO、Google DeepMindのデミス・ハサビス(Demis Hassabis)CEO、Mistral AIのアーサー・マンシュ(Arthur Mensch)CEO、そしてトランプ大統領が同席していた。 エマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領はこの席で警告を発した。米国がAIへのアクセスを一夜にして遮断できる状態は、欧州の顧客経済だけでなく米国のAI企業そのものを傷つける。いつ止められるか分からないAIを買う国はない、とも踏み込んだ。 ナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相もAnthropicのモデル規制への懸念を示したと報じられて

AI企業への政府出資、閣僚2人の構想が割れる

AI

AI企業への政府出資、閣僚2人の構想が割れる

トランプ政権が検討するAI企業への政府出資案をめぐり、閣僚の間で資金の使い道が割れていることが明らかになった。Anthropicへの輸出規制が交渉の空気を壊し、業界の大半は拒否姿勢を崩していない。 「トランプ口座」か「政府系ファンド」か スコット・ベッセント(Scott Bessent)財務長官とハワード・ラトニック(Howard Lutnick)商務長官が、政府がAI企業から取得する株式の使い道について異なる構想を持っていると報じられた。 ベッセント氏が支持するのは、AI企業の株式をトランプ口座の原資に充てる案だ。トランプ口座とは、2025年7月成立のOne Big Beautiful Bill Actで創設された18歳未満向けの税制優遇貯蓄口座だ。連邦政府が1人あたり最大1,000ドルの初期資金を拠出し、すでに400万人以上の子どもが登録している。AI企業の株式運用益をここに流し込めば「AIの恩恵を次世代に届ける」という政治的な絵が描ける。 一方のラトニック氏は、政府系ファンドへの充当を推している。重要鉱物のサプライチェーン確保を目的に複数の企業への出資を交渉してきた同氏

AIの安全性を疑い続けた研究者が、止める側に回った

AI

AIの安全性を疑い続けた研究者が、止める側に回った

Anthropicのセキュリティ研究者ニコラス・カルリーニ(Nicholas Carlini)氏は、AI業界の安全性主張を疑うことを仕事にしてきた。その彼が、自ら確かめた事実によって立場を変え、いま米政府とAnthropicの対立の最前線に立っている。 「職業的懐疑論者」の転向 カルリーニ氏のキャリアは、AIの弱点を暴くことで築かれた。カリフォルニア大学バークレー校でデイヴィッド・ワグナー(David Wagner)教授のもと博士号を取得。2016年に発表した「Carlini & Wagner攻撃」は、敵対的機械学習の標準的な手法となった。画像認識を騙す手法、音声アシスタントに人には聞こえない命令を埋め込む手法、大規模言語モデルが訓練データを暗記・出力してしまう問題。AI開発者が「安全だ」と言えば、カルリーニ氏がそれを破る。 Google Brain、DeepMindで7年を過ごした後、2025年にAnthropicへ移った。AIモデルで「どんな悪いことができるか」を調べるためだと本人は書いている。 2019年、カルリーニ氏はOpenAIがGPT-2を「危険すぎてリリースでき

ChatGPTのシェアが初めて50%を割った

AI

ChatGPTのシェアが初めて50%を割った

月間11億人が使うアプリでも、過半数は維持できなかった。Sensor Towerが発表した最新レポートで、AIアシスタント市場の勢力図が塗り替わりつつある実態が明らかになった。 46.4%という数字の意味 Sensor Towerが現地時間6月16日に公開した「State of AI 2026」レポートによると、ChatGPTの市場シェアが、5月末時点で46.4%に低下した。ここで使われている指標はTrueAudience(モバイルアプリとWebの実ユーザーを統合した数値)で、1月時点では50%を超えていた。ChatGPTがこの指標で過半数を失ったのは、2022年11月のサービス開始以来これが初めてになる。 削り取った側の顔ぶれは明確だ。GoogleのGeminiが27.7%、AnthropicのClaudeが10.3%。上位3サービスだけで84%を占め、Grok、Perplexity、DeepSeek、Meta AIはいずれも5%未満にとどまる。 AIアシスタント市場シェア(2026年5月末) サービス月間ユーザーシェアChatGPT11億人超46.4%Gemi

Anthropic、Agent SDKの従量課金化を施行当日に一時停止

AI

Anthropic、Agent SDKの従量課金化を施行当日に一時停止

Anthropicが、Claude Agent SDKの課金体系変更を施行当日の6月15日に一時停止した。定額サブスクの枠内で使えていたAgent SDKの利用を別枠に切り出し、従量課金へ移行する計画だったが、「現在のところ何も変わっていない」と告知。変更が消えたわけではない。延期だ。 施行当日の方針転換 5月14日、Anthropicは予告していた。Claude Agent SDKと claude -p コマンド、サードパーティアプリの利用を、6月15日からサブスクリプションの使用枠から切り離す。チャットやClaude Codeの対話利用はこれまで通りサブスクの枠内に残し、自動化やプログラムからの呼び出しだけを別プールに移す。プランごとの月額クレジット(Proで20ドル、Max 5xで100ドル、Max 20xで200ドル)をAPI標準レートで消費させ、クレジットを使い切れば停止か追加の従量課金に移行する仕組みだった。 ところが6月15日当日、Anthropicはヘルプセンターとユーザー宛メールで方針を覆した。変更は一時停止。Agent SDK、claude -p、サードパー

Fable 5輸出規制、G7同盟国の例外要請も拒否

テクノロジー

Fable 5輸出規制、G7同盟国の例外要請も拒否

Anthropicの最先端AIモデルが、発売わずか3日で全世界から引き上げられた。安全保障上の脅威とされたのは、たった三語のプロンプトだった可能性がある。G7の場で英国が再開を求めても、米国は首を縦に振らなかった。 発売3日で全世界停止 6月9日、AnthropicはClaude Fable 5とClaude Mythos 5を公開した。一般ユーザーに提供する初のMythosクラスモデルで、ソフトウェア工学のベンチマークSWE-Bench Proで80.3%を記録。サイバーセキュリティ関連のクエリは自動的にClaude Opus 4.8へ迂回させるセーフガードを備え、API価格は入力100万トークンあたり10ドル、出力50ドルに設定された。 3日後の6月12日、両モデルは停止した。 米商務省のハワード・ラトニック(Howard Lutnick)長官がAnthropicのCEOダリオ・アモデイ(Dario Amodei)氏宛てに書簡を送り、Fable 5とMythos 5への輸出規制を発動した。米国内外を問わず、外国籍者によるアクセスをすべて禁じる内容で、Anthropicの外

Copilot CoworkにDeepSeek検討。AIコスト高騰が生んだ矛盾

AI

Copilot CoworkにDeepSeek検討。AIコスト高騰が生んだ矛盾

Microsoftのエンタープライズ向けAIエージェント「Copilot Cowork」が6月16日、全世界で一般提供を開始した。あわせて明らかになったのが、従量課金制への移行と、中国DeepSeekのV4モデルを低コスト選択肢として検討中であるという事実だ。ホワイトハウスがAnthropicのFable 5に輸出規制をかけた、わずか数日後の発表になる。 トークンという名の燃料費 Copilot Coworkは、Microsoft 365の業務データを横断して複数ステップのタスクを自律実行するエージェントだ。内部にはAnthropicのClaude(Opus 4.8、Sonnet 4.6)を搭載し、メールの仕分け、リサーチ、資料作成までをバックグラウンドでこなす。3月の発表以降、Fortune 500の半数以上が利用し、Microsoftの「Frontierプログラム史上最速で成長した機能」と位置づけられている。 問題はコストだ。エージェント型AIはタスクを完了するまでモデルを繰り返し呼び出す。一問一答のチャットとは消費構造が根本的に違う。MicrosoftのCopilot担当

SpaceX、Cursorを約9.6兆円で買収。IPO直後の巨大M&A

AI

SpaceX、Cursorを約9.6兆円で買収。IPO直後の巨大M&A

SpaceXが現地時間6月16日、AIコーディングエージェントCursorの開発元Anysphereを600億ドル(約9兆6000億円)で買収すると発表した。全額SpaceX株式での取引で、4月に取得していた買収オプションを行使した。完了は2026年第3四半期の見通し。史上最大のIPOからわずか4日、イーロン・マスク(Elon Musk)氏はAIコーディング市場の最有力プレーヤーを手中に収める。 取引の全容 SEC(米証券取引委員会)に提出された8-K報告書によると、SpaceXの完全子会社X67 Inc.がAnysphereに吸収合併される。合併後、AnysphereはSpaceXの完全子会社となる。 Anysphere株主はSpaceXのクラスA普通株を受け取る。交換比率は、Anysphereの想定企業価値600億ドルと、合併完了直前7営業日のSpaceX株の出来高加重平均終値をもとに算出される。規制当局の承認を含む標準的なクロージング条件を満たした上で、第3四半期中の完了を見込む。 伏線は4月に敷かれていた。同月19日、SpaceXとAnysphereはコールオプション

AIがGitHubを圧倒し、MicrosoftはAWSに頼った

AI

AIがGitHubを圧倒し、MicrosoftはAWSに頼った

AIコーディングツールの爆発的な普及でGitHubのインフラが限界に達し、MicrosoftがクラウドのライバルであるAWSから計算資源を調達したと報じられた。2027年までに自社のAzureへ全面移行する計画だったが、AI需要の伸びがその計画を追い越している。 年間10億が週2億7500万に変わった GitHubのコミット数は、2025年は通年で10億件だった。当時はそれだけでマイルストーンだった。 2026年4月、GitHubのCOOカイル・デイグル(Kyle Daigle)氏が公表した数字は次元が違った。週2億7500万件。年間換算で約140億件。前年比14倍。「成長が線形のままなら今年140億になる。ネタバレ:ならない」と同氏は付け加えている。 この爆発を引き起こしたのは開発者ではない。CursorやClaude CodeといったAIコーディングツール、そしてコードの生成・テスト・デプロイを自律的に行うAIエージェントだ。エージェントが開いたプルリクエストは2025年9月の約400万件から2026年3月には1700万件以上に達したと報じられている。GitHub Act

Anthropicの安全性は信念であり武器でもある

AI

Anthropicの安全性は信念であり武器でもある

Fable 5の停止劇には、ジェイルブレイクや輸出規制より深い話がある。テック戦略アナリストのベン・トンプソン(Ben Thompson)氏が、Stratecheryでその論理を読み解いた。氏はAnthropicの行動原理を「安全性という超能力」と呼ぶ。安全性への信念が本物であること自体が、この会社のあらゆる攻撃的な判断を正当化する構造になっているという指摘だ。 なぜ「危険すぎる」モデルを公開したのか Mythos Previewを「危険すぎて一般公開できない」と発表したのは4月のこと。その会社が2カ月後、ガードレール付き版のFable 5を公開した。公開3日でジェイルブレイクが見つかり、政府に止められた。しかもFableの公開は、6月1日にSECへIPOの秘密申請を行ったわずか8日後だ。評価額は約9650億ドル(約154兆円)、年間収益ランレートは470億ドル(約7兆5000億円)。この規模の企業が、政府と真正面からぶつかっている。 皮肉屋なら「自作自演」と言うだろう。しかしトンプソン氏が掘っているのはもっと構造的な話だ。 AIの最前線で経済的価値を吸い上げてきたのは、ここ

「言語が違う」。AnthropicとトランプのAI戦争、Claudeが止まった日

AI

「言語が違う」。AnthropicとトランプのAI戦争、Claudeが止まった日

AI安全性の旗手を自任するAnthropicが、最強モデルをユーザー全員から突然奪われた。停止を命じたのは政府で、引き金は技術論争ではなく「人が合わない」という話だった。 Fable 5とMythos 5が落ちた夜 現地時間2026年6月12日の午後5時21分、Anthropicにひとつの文書が届いた。送り主は米政府。内容は、Claude Fable 5とClaude Mythos 5について、すべての外国籍の人物に対するアクセスを即時停止するよう求める輸出規制の指令だった。 そこに猶予は書かれていなかった。 Anthropicの説明では、外国籍を持つ利用者を確実に排除するには全ユーザーへのアクセスを止めるしかなかったという。結果として、国籍に関係なく世界中の顧客がFable 5とMythos 5を使えなくなった。自律型コーディング、長文推論、医療研究など、Mythos級モデルに依存していた組織が一夜にして切り離された。 直接の引き金は、AmazonのCEOアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏が財務長官スコット・ベッセント(Scott Bessent)氏へかけた電話

米セキュリティ専門家40人超がFable禁止の撤回を要求

AI

米セキュリティ専門家40人超がFable禁止の撤回を要求

トランプ政権がAnthropicのFable 5とMythos 5に輸出管理指令を出してから3日。Adobe、Zoom、ソフォス、NVIDIAの幹部やセキュリティ研究者を含む40人超が、ホワイトハウスに対して禁止措置の撤回を求める公開書簡に署名した。書簡が訴えるのは一点。この措置は防御側から最良のツールを奪っただけで、攻撃側には何の影響も与えていない。 書簡が突きつける問い 公開書簡を取りまとめたのは、元Facebook最高セキュリティ責任者のアレックス・スタモス(Alex Stamos)氏。現在はAIコーディングセキュリティ企業Corridorの最高製品責任者を務める。 書簡は「防御側にAIを提供することが不可欠だ」と正面から訴える。自社や顧客のコードに潜む脆弱性を、攻撃者より先に見つけて塞ぐ。その切り札と見なされていたのがFable 5だ。 署名者にはLuta SecurityのCEOケイティ・ムスリス(Katie Moussouris)氏、SocialProof SecurityのCEOレイチェル・トバック(Rachel Tobac)氏、Veracode共同創業者のクリ

「AIにもモデルリスクがある」。2008年危機の当事者が語った重み

AI

「AIにもモデルリスクがある」。2008年危機の当事者が語った重み

カナダのマーク・カーニー(Mark Carney)首相がFable 5停止を2008年の金融危機になぞらえた。リーマン・ショックの渦中で二国のG7中央銀行を率いた人物の警告は、ほかの誰のものとも重さが違う。G7エビアン・サミット開幕を目前に控えた発言の意味を読む。 「誰も悪くない。だが教訓を無視すれば、我々が悪くなる」 現地時間6月14日、アイルランドのウェストポートでカーニー首相が記者団に語った。Fable 5とMythos 5の停止について問われ、特定の企業や政府を批判するのではなく、構造そのものに矛先を向けた。 カーニー氏の言葉はこうだった。特定のモデルへの過度な依存で今まさに起きている事態は、少数への集中が引き起こすリスクの見本だ、と。そして「モデルリスク」という金融の専門用語を持ち出した。AIインフラの冗長性と多様性を確保すべきであり、それはリーマン・ブラザーズの破綻後に金融規制が銀行システムに求めたものと同じ原則だ、と。 この発言が異例なのは、語っている人物の経歴にある。 なぜこの人物の言葉が重いのか カーニー氏は2008年、42歳でカナダ銀行(中央銀行)総

Anthropicが技術者をD.C.に飛ばした。Fable 5復旧交渉の行方

AI

Anthropicが技術者をD.C.に飛ばした。Fable 5復旧交渉の行方

Fable 5とMythos 5の全面停止から3日。Anthropicの上級技術スタッフがワシントンD.C.に入り、ホワイトハウス関係者と直接会談に臨んでいると報じられた。対立は対話の局面に移りつつある。 金曜日から続く水面下の接触 6月14日、Anthropicに近い関係者の証言として報じられた。同社の上級技術スタッフがワシントンに飛び、ホワイトハウス関係者と対面での協議に入っている。金曜日(6月12日)にトランプ政権側が最初の接触を図って以降、技術スタッフはバーチャル会議を重ねてきたという。 双方が問題解決に意欲を示しているという。 ただし、その間にも認識のずれは表面化している。政権側は「Anthropicが真剣に取り組んでいない」と主張していた。Anthropicに近い関係者は「金曜日の段階からバーチャルで対話を続けてきた」としている。技術者がD.C.に赴いたこと自体が、この認識の溝を埋めるための動きだろう。 止まった3日間で動いたもの 停止の経緯と背景についてはこれまでの記事で詳しく報じた。ここでは、この3日間で浮上した新たな事実を確認する。 停止翌日の報道で