オープンソース

Linux-libre 7.1-gnu。i486が遺したもの

Linux

Linux-libre 7.1-gnu。i486が遺したもの

Linux 7.1の安定版が公開された翌日、カーネルからプロプライエタリなコードを取り除く「自由版」Linux、GNU Linux-libreが7.1-gnuとしてリリースされた。リリースノートはいつものようにdeblob(非自由バイナリの除去)作業を報告しているが、今回はマスコットのフリードが何度も嘆いている。 i486のサポートが消えた Linux 7.1で、i486プロセッサ向けのカーネルビルドオプションが削除された。x86メンテナのインゴ・モルナー(Ingo Molnár)氏が2025年4月に提案し、約1年の議論を経て、リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏が今年4月のマージウィンドウで受け入れた。 1989年に登場したi486は、PC普及期を支えたプロセッサだ。Linuxカーネルでは2012年にi386のサポートが落とされ、それ以来i486がx86の最低ラインだった。これが消えれば、最低ラインはPentium世代になる。 トーバルズ氏自身は2022年の時点で「i486クラスのハードウェアにはもう実質的な意味がない」と述べていた。モルナー氏は提案の中で

AIコーディングが見落とした脅威。jqwikとShai-Hulud

セキュリティ

AIコーディングが見落とした脅威。jqwikとShai-Hulud

Javaのテストライブラリに追加されたたった1行のプロンプトインジェクションが、AIコーディングエージェントの利用者を激怒させた。利用者側は法的措置をちらつかせ、GitHubのイシューを荒らし、開発者を「悪人」呼ばわりする騒動にまで発展した。だが同じ時期、npmとPyPIでは本物のサプライチェーンワームShai-Huludが471のパッケージに感染し、開発者の認証情報を次々と盗み出していた。AIエージェントを狙い撃ちにしたそのワームに対し、エージェント側の防御はまだ追いついていない。この非対称が、AIコーディングのいまを映し出している。 45年コードを書いてきた男の抗議 ドイツの開発者ヨハネス・リンク(Johannes Link)氏。プログラミング言語Groovyの貢献者であり、JUnit 5のプラットフォーム設計にも携わった人物だ。2017年から個人の時間を注ぎ込み、Javaのプロパティベーステストエンジン jqwik を開発してきた。テストコードに約10万行。そのほぼすべてをリンク氏がひとりで書いた。 リンク氏は2023年からAIによるコード利用を明確に拒否してきた。コント

Wine-Staging 11.11リリース。289パッチで本流を補強

Linux

Wine-Staging 11.11リリース。289パッチで本流を補強

Wineの実験版「Wine-Staging 11.11」が現地時間6月13日にリリースされた。WindowsアプリケーションをLinux上で動かすこの互換レイヤーは、前日公開の本流Wine 11.11に289のパッチを上乗せし、Linuxゲーミングの足元を支え続けている。 本流Wine 11.11の変更点 ベースとなるWine 11.11本体から見ていく。目玉は3つある。 まず、暗号ライブラリの入れ替え。Wineが内部で使っていたTomCryptに代わり、Microsoftがオープンソースで公開するSymCryptが採用された。SymCryptはWindows 10以降のすべての暗号処理を担うライブラリで、Microsoftの公式実装をWineが直接取り込んだことになる。古いWindowsインストーラーがハッシュ計算で詰まる問題の解消や、メモリリークの軽減が期待できる。 次に、Waylandドライバの強化。レイヤードウィンドウ(透過ウィンドウ)のサポートが加わった。Waylandの alpha-modifier-v1 プロトコルを利用した透過処理に加え、リサイズ不可ウィンドウ

AURマルウェア、削除完了の翌日にさらに高度な第3波が発生

Linux

AURマルウェア、削除完了の翌日にさらに高度な第3波が発生

AURマルウェア、削除完了の翌日にさらに高度な第3波が発生 Arch LinuxのAURマルウェア汚染は、まだ終わっていなかった。悪意あるコミットの削除が完了したと報告された翌日、手口をさらに高度化した新たな攻撃が確認された。検出のきっかけは、あるコミュニティメンバーがローカルで動かしていたAIモデルだった。 沈黙は24時間も続かなかった 6月12日、パッケージメンテナーのヨナタン・グローテリュッシェン(Jonathan Grotelüschen)氏が、認識しているすべての悪意あるコミットを削除したとメーリングリストで報告した。影響を受けたパッケージは1,579件。Arch Linuxは公式声明を出し、AURへの新規アカウント作成やパッケージの更新・引き取りに制限をかけた。 その制限下で、攻撃は再び起きた。 6月13日夜(UTC)、開発者のa821氏がメーリングリストに新たなリストを投稿した。約50件のパッケージに、難読化されたBunコマンドが挿入されていた。第1波のnpm、第2波の平文Bunとは異なり、今回はコマンド文字列が1文字ずつシングルクォートで分割されていた。gi

Kimi K2.7-Code、自社テストで2桁改善も独立検証では後退。ベンチマークの読み方を考える

AI

Kimi K2.7-Code、自社テストで2桁改善も独立検証では後退。ベンチマークの読み方を考える

Moonshot AIのコーディング特化モデルKimi K2.7-Codeが現地時間6月12日に公開された。推論トークンを約30%削減し、自社テストでは2桁の改善。数字だけ見れば順当な進化に映る。だが公開から数時間で、外部の研究者と開発者が独立ベンチマークで検証し、公称スペックとは異なる結果を示した。 何が出たのか K2.7-Codeは、4月にリリースされたKimi K2.6をベースにしたコーディング特化のオープンウェイトモデルだ。1兆パラメータのMixture-of-Experts構成(トークンあたり320億パラメータ稼働)、コンテキスト長は最大約26万トークン。修正MITライセンスでHugging Faceに重みが公開されており、vLLMやSGLangでセルフホストできる。API価格は100万トークンあたり入力0.95ドル(約152円)、出力4ドル(約640円)で、K2.6と同額だ。 K2.6はリリース直後にOpenRouterの週間LLMリーダーボードで1位を獲得し、開発者のAPI利用量で既存モデルを上回った実績がある。K2.7-Codeはその後継にあたり、コーディングと

AIモデル、選んで使う時代。価格戦争の本当の勝者

AI

AIモデル、選んで使う時代。価格戦争の本当の勝者

OpenAIとAnthropicの値下げ合戦が取り沙汰されている。だが企業はとっくに動いていた。フロンティアモデルは「必要なときだけ呼ぶ高級品」へと変わりつつある。 企業はもう忠誠を誓っていない 先日の記事でOpenAIがトークン単価の大幅引き下げを検討していると伝えた。Anthropicとの価格戦争が始まろうとしている、と。だが続報が映す現実は、予想とは少し違っていた。 戦いはもう始まっている。しかも戦場を動かしているのは、OpenAIでもAnthropicでもない。企業の現場だ。 大企業やスタートアップの間で、複数のAIモデルを動的に切り替えて使うツールが急速に広がっている。中国のDeepSeekやAlibabaのモデルを含む安価なオープンソースAIを日常業務に回し、OpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeは複雑なタスクにだけ使う。この「モデルミックス」戦略で、AIコストを最大95%削減した企業もあるという。 バグ検出スタートアップDetailの創業者ダン・ロビンソン(Dan Robinson)氏は、ワークロードの90%をClaudeとGoogle

正体不明のAMD GPU「GFX1156」がドライバに出現。RDNA 3.5は終わらない

Linux

正体不明のAMD GPU「GFX1156」がドライバに出現。RDNA 3.5は終わらない

オープンソースのグラフィックスドライバに、AMDの未発表GPUを示すコードが静かにマージされた。GFX1156。RDNA 3.5系列のAPU向け内蔵GPUとみられるが、どの製品に搭載されるのかは誰にもわからない。わかっているのは、AMDがまだこのアーキテクチャを手放すつもりがないということだけだ。 ドライバコードが語る「次」 LinuxのオープンソースグラフィックスライブラリMesaの開発版(26.2)に、AMD GPUの新しい識別子「GFX1156」のサポートが6月11日付でマージされた。AMDのエンジニアが提出したマージリクエスト(!41969)はRadeonSI(OpenGL)とRADV(Vulkan)の両ドライバに初期対応を追加するもので、サミュエル・ピトワゼ(Samuel Pitoiset)氏とピエール=エリック・プルー=プレイエ(Pierre-Eric Pelloux-Prayer)氏のレビューを経てmainブランチに取り込まれた。 並行して、Linuxカーネル側でも動きがある。今月中旬に始まるLinux 7.2のマージウィンドウに向けて、DRM-Nextにはすでに

Euro-Office正式リリース後、TDFがトーンを変えた理由

オープンソース

Euro-Office正式リリース後、TDFがトーンを変えた理由

「欧州主権」を掲げるEuro-Officeと、それを批判し続けてきたLibreOfficeの母体The Document Foundation(TDF)。v1.0が公開された直後、TDFが出した声明は、これまでとは明らかに違うものだった。 批判から「歓迎」へ Euro-Officeは6月9日、GitHubでバージョン1.0を正式公開した。Nextcloud Hub 26 Springに統合される形で、ウェブエディタとしての提供が始まっている。 リリース直前の6月8日、TDFのイタロ・ヴィニョーリ(Italo Vignoli)氏は公開状で「事実上のMicrosoft同盟者」と切り捨てた。「欧州初」の看板は事実ではない、OOXMLをデフォルトにする時点で主権の名に値しない。既報の通り、かなり激しい批判だった。 ところが3日後の6月11日、同じヴィニョーリ氏が発表した2度目の声明は、読み比べると驚くほどトーンが違う。 冒頭から「TDFはオープン標準が注目を集めていることを歓迎する」と書き出し、Euro-OfficeのODFサポート改善の約束を「まさに欧州の自由ソフトウェアコミュニ

RustとAIで1からX11サーバーを書き直す。yserverが問いかけるもの

Linux

RustとAIで1からX11サーバーを書き直す。yserverが問いかけるもの

X11は死んだことになっている。GNOMEは今年3月、MutterからX11バックエンドを完全に削除した。ディストリビューションは次々とWaylandをデフォルトに切り替え、X.Orgサーバーにはセキュリティパッチしか降りてこない。6月2日にも9件の脆弱性が修正されたが、うち8件はAIによる静的解析で発見されたものだった。20年以上前のコードに、機械の目がバグを見つけ続けている。 そんな状況で、一人の開発者がX11サーバーを1から書き直した。しかもRustで、しかもAIと二人三脚で。 「Xorgのクローンではない」 yserver(仮) は、Rustで1から書かれた新しいX11サーバーだ。開発したのはベルギー・アントワープ在住のエンジニア、ヨス・デハース(Jos Dehaes)氏。6月11日に公開された。 GitHub - joske/yserver at joho-todai.comA modern X11 server written from scratch in Rust. Contribute to joske/yserver development by crea

「1語ずつ書く」を外した実験モデル、DiffusionGemma。速さの意味と代償

AI

「1語ずつ書く」を外した実験モデル、DiffusionGemma。速さの意味と代償

AIが文章を生む方法が、根本から変わるかもしれない。Google DeepMindが6月10日に公開したDiffusionGemmaは、画像生成AIと同じ「拡散」の仕組みをテキスト生成に持ち込んだ実験的なオープンモデルだ。従来の言語モデルが1トークンずつ左から右へ順番に文章を出力するのに対し、DiffusionGemmaは256トークンの文章ブロックをまるごと同時に生成する。NVIDIA H100上で毎秒1000トークン超、GeForce RTX 5090上でも毎秒700トークン超。自己回帰型の最大4倍にあたる速度だ。 ただし代償ははっきりしている。DiffusionGemmaの出力品質は同サイズの自己回帰型モデルGemma 4を下回る。品質最優先の用途にはGemma 4を推奨すると公式ブログに明記されている。あくまで研究段階の実験モデルであり、「拡散でテキストを生む」という新しいパラダイムの可能性と課題を開発者とともに探るための公開だ。 画像生成の発想で文章を書く 拡散モデルの発想は、AIの世界では珍しくない。Stable DiffusionやMidjourneyが画像を生む

Ubuntu MATE、新チーム始動で26.10リリースへ

Linux

Ubuntu MATE、新チーム始動で26.10リリースへ

創設者マーティン・ウィンプレス(Martin Wimpress)氏の退任から約2か月半。26.04 LTSのインストーラーISOが存在しないまま、消滅すら囁かれていたUbuntu MATEに、新たな開発チームが名乗りを上げた。 後継者は現れた 6月9日(日本時間)、Ubuntu Discourseに投稿されたFAQで明らかになった。投稿者はUbuntuコミュニティ評議会・技術委員会の双方に席を置くトーマス・ウォード(Thomas Ward)氏。フレーバーの運営状況を監視する立場にある。 新チームはすでにフレーバー管理の引き継ぎに動いている。正式な自己紹介はまだない。だがウォード氏は26.04サイクル以前から各フレーバーの動向を追っており、「開発者は確実に名乗り出ている」と断言した。不足分の補完作業は進行中で、26.10リリース(2026年10月)を目標にしているとみられる。 バグ修正についても、26.04のISOが出ていれば本来同梱されていたはずのパッケージへの対応は継続される。変わったのはインストーラーイメージが存在しないという一点だけで、実質的にはプロジェクトの中身は途切

AIが20年前のGPUドライバーを延命させている

Linux

AIが20年前のGPUドライバーを延命させている

2007年に登場したRadeon HD 2000シリーズ。その世代から2010年のHD 6000シリーズまでをカバーする古いLinuxグラフィックスドライバーが、GitHub Copilotの力を借りてメンテナンスされていることが明らかになった。AMDがとっくに手を引いた旧世代の資産を、今なお少数の有志が守り続けている。 59件のコミットが語るもの 先日、Mesa 26.2にR600ドライバー向けの59件のコミットが一度にマージされた。シェーダーコンパイラのコードを整理するリファクタリングが中心で、それ以外のコード整備も含んでいる。 作業を担ったのはゲルト・ウォルニー(Gert Wollny)氏。R600gドライバーに関わる数少ない開発者の一人で、マージリクエストにはこう記されていた。 「このシリーズは、sfnシェーダーコンパイラのコードをより読みやすくするためのリファクタリングです。リファクタリングはCopilot(自動モード)の助けを借りて行われました」 コードは動く。しかし読みにくく、維持しにくい状態にある。それを整理するために、開発者がAIと組んだ。 なぜ今もこ

RustベースOS「Redox OS」に5月の大型進捗、Xfce移植とファイルシステム高速化が同時到達

Linux

RustベースOS「Redox OS」に5月の大型進捗、Xfce移植とファイルシステム高速化が同時到達

Rustで書かれたオープンソースOS「Redox OS」が5月の進捗レポートを公開した。デスクトップ環境XFCEの移植、新スケジューラの採用、ファイルシステムのキャッシュ改善と、実用性に直結する成果が同じ月に揃った。 X11環境の安定化に向けてXFCEが動いた ウィルダン・ムバロク(Wildan Mubarok)氏がXFCE(X Window Systemのデスクトップ環境)をRedox OSへ移植した。これまで標準的に使われてきたMATE(MATEはGNOME 2系デスクトップ)はCajaによるクラッシュが発生していたが、XFCEはMATEより安定して動作するという。ただし現時点では「多くのバグがある」と開発側も認めており、実用レベルには達していないと明示している。 X11対応の強化は今年の開発の軸のひとつだ。同じムバロク氏がI/Oイベント待機の処理(pollおよびepoll)にも手を入れており、QEMU上の非KVM環境のベンチマークで4倍の速度向上が確認されている。X11動作の大幅な改善につながったとされ、QEMU KVM環境や実機ではさらに高い効果が見込まれるとしている。

「欧州主権」を掲げるEuro-Officeに、LibreOfficeが公開状で反論

オープンソース

「欧州主権」を掲げるEuro-Officeに、LibreOfficeが公開状で反論

「欧州初のオープンソースオフィス」として鳴り物入りでリリースされたEuro-Officeに、The Document Foundation(TDF)が真っ向から異議を唱えた。技術仕様への批判ではなく、「デジタル主権」という言葉の中身への問いかけだ。 「欧州初」は事実ではない 6月8日、TDFのイタロ・ヴィニョーリ(Italo Vignoli)氏がオープンレターを公開した。翌日のリリース直前を狙った公開だ。 欧州オープンソースオフィスの系譜 2001年OpenOffice.org 公開StarOfficeのソースコードを基に欧州で開発。欧州初のオープンソースオフィスとしてODFを標準形式に採用した。2006年ODF、ISO/IEC標準にOpenDocument Format(ODF)がISO/IEC 26300として国際標準化。デジタル主権の礎となる形式が確立された。2010年LibreOffice 誕生OpenOffice.orgからフォーク。The Document Foundation(TDF)が設立され、ODFネイティブ対応のオープン