オープンソース

ZigでVulkanドライバを一から書いた開発者が現れた

Linux

ZigでVulkanドライバを一から書いた開発者が現れた

Vulkanドライバといえば、AMDのRADV、IntelのANV、NVIDIAのプロプライエタリドライバ、あるいはMesaのソフトウェアラスタライザLavapipe。いずれも巨大な組織が何年もかけて開発し、保守している。そこに個人開発者が、Zigだけで一からVulkanドライバを書いた。 Apeとは何か 「Ape」は、フランスのゲームエンジン開発者であるkbz_8氏が個人の学習目的で開発しているオープンソースのVulkanドライバだ。ICD(Vulkanの正式なドライバ形式)として実装されており、コードの99.9%がZigで書かれている。Mesaのコードには一切依存しない完全な独立実装だ。 MesaのLavapipeと同じく、GPUのハードウェアを直接叩くのではなく、CPU上でVulkanの処理をソフトウェア的に実行するソフトウェアラスタライザにあたる。シェーダの実行には、kbz_8氏が同じくZigで開発した独自のSPIR-Vインタプリタを使っている。 リポジトリの最初のコミットは2025年10月。約7か月の開発で292コミットを重ね、現時点でVulkan 1.0のテストを

Ubuntu 26.10が目指す「文脈を理解するデスクトップ」の全容

テクノロジー

Ubuntu 26.10が目指す「文脈を理解するデスクトップ」の全容

10月リリース予定のUbuntu 26.10"Stonking Stingray"のロードマップが公開された。GNOME 51やRISC-V対応といった堅実なアップデートに加え、Canonicalが本格的に踏み込んだのは「コンテキストアウェアデスクトップ」。デスクトップ自体がユーザーの意図を理解するという構想の第一歩が、ここから始まる。 28.04 LTSへの布石 4月にリリースされたUbuntu 26.04 LTS"Resolute Raccoon"の安定運用が始まったばかりだが、デスクトップエンジニアリングチームはすでに次を見ている。 Canonicalのデスクトップエンジニアリングディレクター、ジャン=バティスト・ラルマン(Jean-Baptiste Lallement)氏が6月5日に公開したロードマップは、Ubuntu 26.10単体の機能一覧ではない。2028年4月に予定される次期LTS、Ubuntu 28.04への設計方針を示す文書だ。掲げられた4つの柱は「GNOMEを基盤とする堅牢なプラットフォーム」「シンプルかつ柔軟な設計」「コンテキストアウェアなデスクトップ」

rsyncのAIコーディング騒動が映すもの――30年のインフラを支える「一人」の限界

AI

rsyncのAIコーディング騒動が映すもの――30年のインフラを支える「一人」の限界

1996年から世界中のサーバーで動き続けてきたファイル同期ツールrsync。そのアップデートが一部のバックアップを壊し、原因を探ったユーザーがコミット履歴に見つけたのは「tridge and claude」という共著者名だった。バグ修正の議論は瞬く間に「AIコード是非論」へと変質し、オープンソースコミュニティを巻き込む炎上へ発展した。だが、この騒動の底にあるのはAIの問題だけではない。 セキュリティ修正が引き起こした連鎖 rsync 3.4.3は5月20日、6件のCVEを修正するセキュリティリリースとして公開された。6件中3件は非デフォルトのデーモン設定、1件はプロキシ設定時のみ到達可能だが、残る2件は通常のpull操作や認証済みデーモン接続でも到達できる。放置できる性質のものではなかった。 ところがリリース直後、インクリメンタルバックアップが正常に動作しなくなったという報告が相次いだ。とあるユーザーは、フルバックアップ以外のすべてが失敗するようになったと訴えている。技術的には、CVE-2026-29518およびCVE-2026-43619のシンボリックリンク競合対策として導入

Phoronix22周年が映すLinuxの22年間

Linux

Phoronix22周年が映すLinuxの22年間

2004年、USBマウスすらまともに動かないディストロがあった時代に、たった一人でLinuxハードウェアレビューを始めた人物がいる。マイケル・ララベル(Michael Larabel)氏。彼が立ち上げたPhoronixが、2026年6月5日で22周年を迎えた。 OEMに門前払いされた2004年 ララベル氏がPhoronixを始めた理由は単純だった。Linuxのハードウェア互換性に不満があったからだ。当時はMandrake、Yoper、MEPISといったディストリビューションが並び、基本的な周辺機器すら動作保証がなかった。OEMやODMにレビュー機材を依頼しても、Linuxユーザー向けのレビューに興味を示すメーカーはほとんどいなかったという。 サイト名の「Phoronix」は、「方向・動き」を意味する接頭辞「phoro-」と、UNIX系OSを指す「*NIX」の造語で、「Linuxの前進」を意味する。この名前を冠して、彼は個人サイトとしてPhoronixを公開した。 22年後の数字はこうなる。5,600本以上のハードウェアレビュー、5万200本を超えるニュース記事、2万本以上のラ

Brave Origin正式リリース、「機能を削って有料」の是非

ブラウザ

Brave Origin正式リリース、「機能を削って有料」の是非

プライバシー重視ブラウザBraveが、収益化機能を取り除いた有料版「Brave Origin」を正式にリリースした。買い切り59.99ドル(約9,600円)。ユーザーからの「ミニマルなブラウザが欲しい」という声に応えたとBrave側は説明するが、無料版で膨らませた機能を削って売るという話でもある。反応は割れている。 何が消えて、何が残るのか Brave Originで無効化または削除されるのは、Leo AI、Brave Rewards、Brave Wallet、VPN、Brave News、Brave Talk、Tor、Wayback Machine、Web Discovery Projectなど。日常的にBraveを使っていて「これ要らないのに」と思ったことがある機能が、ほぼすべて対象になっている。 残るのはBrave Shieldsを中心とした広告・トラッカーブロック、Chromiumベースのセキュリティアップデート、そしてブラウザとしての基本機能だ。Braveが最初に支持された理由そのものである。 提供形態は2種類ある。既存のBraveとは別にインストールするスタンドア

Gemma 4に12Bモデル追加、エンコーダ廃止の新設計

AI

Gemma 4に12Bモデル追加、エンコーダ廃止の新設計

Google DeepMindがGemma 4ファミリーの新モデル「Gemma 4 12B」を6月3日に公開した。4月のGemma 4リリース時には存在しなかった5番目のサイズであり、ファミリー内で唯一となるエンコーダ不要のアーキテクチャを採用している。テキスト・画像・音声・動画を16GBのVRAMまたは統合メモリで処理でき、Apache 2.0ライセンスで即日利用可能だ。 エンコーダを捨てた理由 従来のマルチモーダルモデルは、画像や音声をLLM本体に渡す前に専用のエンコーダで「翻訳」する必要があった。Gemma 4の他のモデルも例外ではなく、中型モデルには約5億5000万パラメータのビジョンエンコーダ、エッジ向けのE2B/E4Bには約3億パラメータのオーディオエンコーダが搭載されている。エンコーダが処理を終えるまでLLM本体は待機するしかなく、レイテンシとメモリ消費の両面でコストになる。 Gemma 4 12Bはこの構造を丸ごと取り払った。 ビジョン処理では、複数のTransformer層で構成されていたビジョンエンコーダをわずか3500万パラメータの埋め込みモジュールに置

ピンクの貝殻で巨大テックに反抗する女性たち

ハードウェア

ピンクの貝殻で巨大テックに反抗する女性たち

ピンクの人魚型バッグを開くと、中には小さなスクリーンとキーボード。電子書籍を読み、サーバーに接続し、ローカルAIを動かす。Raspberry Piで組み上げた、れっきとしたコンピュータだ。いま、こうした手作りの小型PCを「サイバーデッキ」と呼んで自作する女性たちの動きが、海外で急速に広がっている。 貝殻の中のコンピュータ サイバーデッキとは、Raspberry Piなどのシングルボードコンピュータに小型ディスプレイやキーボードを組み合わせて作るDIYの携帯型PCだ。語源はウィリアム・ギブスン(William Gibson)氏が1984年のSF小説『ニューロマンサー』で描いた架空のデバイスにさかのぼる。2010年代にRaspberry Piが登場して以降、ハードウェア愛好家たちがニッチなコミュニティで自作品を共有してきたが、ここ数か月で状況が一変した。 火をつけたのは、ソフトウェアエンジニアリングの経験を持たない女性クリエイターたちだった。自称「オープンソース・バディ」のCC氏は、ピンクの貝殻型クラッチバッグの中にRaspberry Pi 3A+を組み込み、たまごっち、電子書籍リ

WindowsでLinuxコマンドがネイティブに動く時代

Windows

WindowsでLinuxコマンドがネイティブに動く時代

Microsoftが開発者カンファレンスBuild 2026で、Coreutils for Windowsの一般提供を開始した。lsやgrep、catなど75以上のLinuxコマンドが、WSLもCygwinも介さずWindowsのコマンドライン上でそのまま動く。長年の回り道に、ようやく正面の道ができた。 何ができるようになったのか Coreutils for Windowsは、ls、cp、mv、rm、cat、grep、find、sort、pwdといったLinux/Unix系OSの基本コマンド群をWindows上でネイティブ実行できるツールセットだ。MicrosoftがGitHubで公開しており、MITライセンスのオープンソース。インストールは WinGet から1行で完了する(winget install Microsoft.Coreutils)。x64とArm64の両アーキテクチャに対応している。 技術的な土台は、uutilsプロジェクトが開発するRust製のGNU Coreutils互換実装だ。Microsoftはこれにfindutils(find、xargs)とGNU互換

Windowsターミナルが分岐、AI統合の新アプリへ

テクノロジー

Windowsターミナルが分岐、AI統合の新アプリへ

コマンドを打ってエラーが出る。ブラウザを開いてエラーメッセージを貼り付け、フォーラムの回答を探し、ターミナルに戻ってやり直す。開発者なら誰でも経験のある、あの一連の流れを丸ごと消し去ろうとするアプリが登場した。 ターミナルの分岐点 Microsoftが2026年6月2日、Windows TerminalのフォークとしてIntelligent Terminal 0.1をリリースした。MITライセンスのオープンソースで、Microsoft StoreまたはWinGetから導入できる。位置づけは「実験的」だが、Build 2026の基調講演で発表されたWindowsの開発者向けAIエージェント戦略の中核プロダクトの一つであり、単なるプロトタイプとは異なる文脈で登場している。 重要なのは、これがWindows Terminalそのものへの変更ではない点だ。Intelligent Terminalは別アプリとして既存のWindows Terminalと並行してインストールされる。AI統合を望まないユーザーの環境には一切影響しない。Microsoftがここを明確に線引きしたことは、Wind

Red Hatの公式npmパッケージ32件が侵害

セキュリティ

Red Hatの公式npmパッケージ32件が侵害

Red Hatが管理するnpmパッケージ32件に、認証情報を根こそぎ奪うマルウェアが仕込まれていた。偽物のパッケージではない。@redhat-cloud-servicesという正規の名前空間に、正規のCI/CDパイプラインを通じて、正規の署名付きで配信された本物の毒だ。 「信頼」そのものが武器になった 2026年6月1日、セキュリティ企業StepSecurityが@redhat-cloud-servicesスコープ配下の複数のnpmパッケージにマルウェアが埋め込まれていることを発見した。影響を受けたのは32パッケージ、96バージョン。合計で週あたり約11万7000回ダウンロードされていたパッケージ群だ。 今回の攻撃で決定的に重要なのは、これがタイポスクワッティング(名前の似た偽パッケージを公開する手口)ではないという点にある。攻撃者はRed Hat従業員のGitHubアカウントを侵害し、RedHatInsightsのGitHubリポジトリに不正なコミットを直接プッシュした。そこからGitHub ActionsのOIDCトークンを悪用して、正規のSLSAプロビナンス認証(ビルドの

AIが暴いたX.Orgの脆弱性9件、終わらない13年

セキュリティ

AIが暴いたX.Orgの脆弱性9件、終わらない13年

X.Org Serverに9件のセキュリティ脆弱性が公開された。修正版のxorg-server 21.1.23とXWayland 24.1.12がリリースされている。注目すべきは発見の経緯で、9件中8件をトレンドマイクロのAIセキュリティ研究プラットフォーム「TrendAI Zero Day Initiative」が検出した。残る1件はRed Hatのピーター・フッテラー(Peter Hutterer)氏による報告。レガシーコードに眠り続けた脆弱性を、AIが一気に掘り起こした形だ。 13年前の「大惨事」宣言、その後 2013年、セキュリティ研究者のイリヤ・ファン・スプルンデル(Ilja van Sprundel)氏が第30回Chaos Communication Congress(30C3)で発表した内容は、X.Orgコミュニティに衝撃を与えた。X.Org Serverのセキュリティは「大惨事(disaster)」であり「