X収益分配「地元優先」方針、発表から2時間で撤回された理由
Xが収益分配の仕組みを変えようとした。海外からの「なりすましアメリカ人」を排除するために。だが、その刃は味方にも向いていた。
Xが収益分配の仕組みを変えようとした。海外からの「なりすましアメリカ人」を排除するために。だが、その刃は味方にも向いていた。
「米国政治の投稿に海外から報酬は払わない」
Xのプロダクト責任者ニキタ・ビアーが3月25日(日本時間)、収益分配プログラムの方針変更を発表した。クリエイターの収益算定において、ユーザーの居住地域からのエンゲージメントにより大きな比重を置くという内容だ。
狙いは明確だった。自国や近隣諸国、同じ言語圏の人々に響くコンテンツを推奨し、米国や日本のアカウントの注目を「ゲーミング」する行為を抑制する。新方針は翌日の3月26日から適用される予定だった。
Starting Thursday, we'll be updating our revenue sharing incentives to better reward the content we want on X:
— Nikita Bier (@nikitabier) March 25, 2026
We will be giving more weight to impressions from your home region—to encourage content that resonates with people in your country, in neighboring countries and people…
ビアーの発言はさらに踏み込んでいた。ユーザー数が少ない国のクリエイターから「稼げなくなる」と指摘されると、「日常生活について書けばいい」と返した。そして言い切った。「アメリカの政治について意見を述べるのは自由だ。ただし、その投稿で海外に報酬は送らない」と。
なぜXは方針転換を急いだのか
この変更の背景には、2025年11月に導入された位置情報透明性機能がある。ユーザーのプロフィールからアカウントの所在国を確認できるこの機能により、米国政治について熱心に投稿していた数十のアカウントが、実はインド、ケニア、ナイジェリアなどに拠点を置いていたことが発覚した。
BBCの検証によれば、トランプ支持を掲げ100万人以上のフォロワーを持つアカウントがナイジェリアから運営されていた。「誇り高き民主党員」を名乗る5万2,000フォロワーのアカウントはケニアが拠点だった。問題はトランプ支持派だけではない。スコットランド独立を主張するアカウント群がイランからアクセスしていた事例も確認されている。
つまり、Xの収益分配プログラムが、外国からの政治的エンゲージメント・ファーミングの温床になっていたという現実がある。問題意識そのものは正当だった。
2時間で噴き出した「巻き添え」の悲鳴
方針発表から数時間も経たないうちに、想定外の方向から声が上がっている。悪意のないグローバルクリエイターたちだ。
フランス在住のクリエイター、デボラは自身のオーディエンス構成を公開した。米国43.3%、カナダ4.5%、インド4.2%、日本4.1%。英語という国際言語で発信しているだけで、悪意はない。この投稿は93万回以上表示され、3,100件を超える「いいね」を集めた。
I'm based in France, but 43% of my audience is American.
— Déborah (@dvorahfr) March 25, 2026
I know many of us are in the same situation. To reach a wider audience, all my posts are in English, the international language.
Those who cause trouble may be punished, but with this change, which will significantly… https://t.co/UmeExlrT7a pic.twitter.com/L3ONnxIPh0
ポルトガルのクリエイターは「一部の国にはユーザーがほとんどいない。広いリーチを持つことが罰せられるべきではない」と訴えた。難民として海外に暮らし、母国に戻れないまま米国のオーディエンスを築いたクリエイターもいた。
問題の本質はここにある。Xが排除したかったのは、ナイジェリアから「アメリカの愛国者」を演じてインプレッションを稼ぐアカウントだ。しかし提案された仕組みでは、フランスから英語で正当なコンテンツを発信するクリエイターも、ケニアやナイジェリアの善意のクリエイターも、同じように収益を削られる。鉈で外科手術をしようとしたようなものだ。
マスクの一行撤回、そしてビアーの「シミュレーション」
批判が沸騰するなか、イーロン・マスクが動いた。ビアーの発表からわずか約2時間後、たった一文を投稿した。
We will pause moving forward with this until further consideration
— Elon Musk (@elonmusk) March 25, 2026
「さらなる討が済むまで、この件は一時停止する」。これだけだ。166万回以上表示されたこの投稿に、1万4,000件を超える「いいね」が集まった。同日中に発表し、同日中に撤回する。Xの意思決定の速さは、良くも悪くも健在だった。
興味深いのはその直後のビアーの行動だ。方針が棚上げされた後、ビアーはあるEU圏クリエイターの過去の報酬をシミュレーションし、新方針なら収益が96.53%増えていたと示してみせた。つまり、欧州のオーディエンスが大きいクリエイターにとっては得になるケースもあった、と主張したかったのだろう。
だが、この弁明はかえって問題を浮き彫りにした。「一部の人には得」は「多くの人には損」の裏返しでしかない。ユーザー基盤が小さい国のクリエイターにとって、「地元のエンゲージメント」を重視されること自体が死刑宣告に等しい。
「グローバルな広場」の矛盾
Xは現在、100万インプレッションあたり約8.5ドルの収益を分配しており、2026年には分配プールを倍増させている。収益プログラムへの参加条件は、Xプレミアムの加入に加え、過去3ヶ月で500万以上のオーガニックインプレッションと500人以上の認証済みフォロワーだ。
ビアーは2025年6月にXのプロダクト責任者に就任して以来、収益分配の不正利用対策を次々と打ち出してきた。いわば「稼げる広場の番人」だ。今年1月にはタイムライン表示ベースの報酬算定に切り替え、リプライスパムの温床を断った。3月初旬には、AI生成された戦闘映像を無断で投稿したクリエイターを90日間収益停止とする措置も導入した。
今回の方針転換も、同じ文脈にある。しかし過去の施策が「悪質な行為」を精密に狙い撃ちしていたのに対し、今回は地域という大雑把な基準で線を引こうとした。そこに根本的な設計ミスがあった。
マスクのXは「グローバルな広場」を標榜する。だが収益を「地元重視」にすれば、その広場は国境線で区切られた小部屋の集合体になる。英語がリンガフランカとして機能するプラットフォームで、地理的な重み付けは構造的に矛盾をはらむ。
問題は消えていない
方針は撤回されたが、問題自体は何ひとつ解決していない。外国から米国人を装い、政治的コンテンツでインプレッションを稼ぐアカウントは今も存在する。トロールファーム、国家的な情報操作、あるいは単純にカネ目当てのなりすまし。動機は様々だが、Xの収益プログラムがその燃料になっている構造は変わらない。
より精密なアプローチ——たとえば位置情報の偽装を検知する技術的手段や、政治コンテンツに特化した収益ルールの設計——が求められている。だが、それには「悪意ある外国アカウント」と「正当なグローバルクリエイター」を区別する、はるかに複雑な判断が必要になる。
ビアーは今回、正しい問題に間違った解を出した。マスクが2時間で止めたのは、珍しく正しい判断だったかもしれない。ただし「さらなる検討」の先に何があるのかは、まだ誰にもわからない。
参照元
他参照
- Engadget - X is changing its revenue-sharing policy to deter users pretending to be Americans
- BBC News - How X's new location feature exposed big US politics accounts
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