Phantom Blade Zero、DLSS 5を撤回。AI視覚技術は使わない

NVIDIAの最新アップスケーリング技術を、その初期採用タイトルの一つが拒んだ。理由は技術的な問題ではなく、制作の哲学だった。

Phantom Blade Zero、DLSS 5を撤回。AI視覚技術は使わない
S-GAME Studio

NVIDIAの最新アップスケーリング技術を、その初期採用タイトルの一つが拒んだ。理由は技術的な問題ではなく、制作の哲学だった。


公式声明でDLSS 5対応から離脱

2026年4月10日、Phantom Blade Zeroを手がけるS-GAMEのゲームディレクター兼CEO、リアン・チーウェイ氏(公開名:ソウルフレーム)がXに長文の声明を投稿した。制作への真摯な思いを綴ったその文章は、ある一文に向かって収束していた。

「私たちのゲームのコンテンツはすべて、実在のアーティストの手によって作られています。私たちは、アーティスト本来の創造的意図を変えるようなAI視覚技術は使いません。」

Phantom Blade ZeroはNVIDIADLSS 5対応を表明した最初期のゲームの一つで、「Assassin's Creed Shadows」「Starfield」「The Elder Scrolls IV: Oblivion Remastered」などと並んで公式リストに掲載されていた。今日の声明で、その立場を取り下げた格好だ。

DLSS 5採用リストのタイトルが、思想的な理由から対応を撤回した例は現時点ではこれが初とみられる。

ここまで徹底した「人の手」への信念

NVIDIAが2026年3月のGTC 2026で発表したDLSS 5(Deep Learning Super Sampling 5)は、従来のアップスケーリングとは一線を画す技術だ。ゲームの映像データをAIモデルに通し、照明・素材・質感をリアルタイムで書き換えてフォトリアルな映像を生成する。最終的な絵作りの一部をAIが担う、という構造だ。

S-GAMEの制作アプローチを知ると、その衝突は必然だったとわかる。キャラクターモデルは俳優の3Dスキャンで構築し、日中英2言語のフルリップシンクは声優と演出家が仕上げた。戦闘アニメーションは20人以上の武術家によるモーションキャプチャで収録し、剣術シーンには峨眉山の剣の達人を招いて指導を受けている。

誘導マップも中央美術学院(CAFA)の学生が中国筆と宣紙で手描きしたものだ。AIが生成した映像素材は一切ないと明言した上で、ソウルフレーム氏はこう語った。

「人間のアーティスト性は、価値を生み出すための手段に過ぎないのではなく、それ自体が価値なのだ。」

これほどの積み重ねの末に完成する映像に、最後の出力段階だけAIが介在するとしたら。S-GAMEにとってそれは技術の問題ではなく、制作哲学そのものへの矛盾だったのだろう。

この撤回が業界に問うもの

この撤回がNVIDIAに直接的なダメージを与えるかといえば、そこは疑問だ。他の採用タイトルは変わらずDLSS 5対応を進めており、リスト全体への影響は限定的だろう。

技術の採否が「機能とコスト」だけの問題ではなくなりつつある状況を、今回の撤回は静かに象徴している。映像の最後の一手をAIに任せることを、すべての開発者が許容するわけではない。

Wccftechの取材に応じた「Samson」開発スタジオのLiquid Swordsは、イデオロギー的な議論には踏み込まなかったものの、DLSS 5が実際に機能するには「対象プラットフォーム全てへの対応とキャラクター制作パイプライン全体への統合」が必要だと指摘した。前者は実現可能でも、後者は現時点では高いハードルだという見方を示している。

NVIDIAが描くDLSS 5エコシステムの完成には、思想面だけでなく技術的な課題もまだ多く残っていることが浮き彫りになる。

哲学がブランドの声明になる時代

Phantom Blade Zeroは2026年9月9日にPC・PlayStation 5向けに発売予定で、現在は開発の最終段階にある。

今回の公式声明は、発売前のマーケティングとしても機能しうる。生成AIへの不信感が根強い層にとって、このスタジオの姿勢は何よりの信頼の証になりうるからだ。

DLSS 5への批判は広くあった。だが「使わない」と名前をつけて言う開発者が現れたのは、今日が初めてだ。


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