WordPress創設者がEmDashに反論——「精神的後継」を名乗るなら覚悟しろ
CloudflareのCMS「EmDash」に、WordPress生みの親が沈黙を破った。称賛と牽制が入り混じるその言葉の裏には、24年間ウェブを支えてきた者の矜持がある。
CloudflareのCMS「EmDash」に、WordPress生みの親が沈黙を破った。称賛と牽制が入り混じるその言葉の裏には、24年間ウェブを支えてきた者の矜持がある。
「WordPressの名前を勝手に使うな」
WordPressの創設者マット・マレンウェッグが、CloudflareのCMS「EmDash」に対する詳細なフィードバックをブログで公開している。
EmDashは2026年4月上旬にCloudflareが発表した新しいオープンソースCMSで、自らを「WordPressの精神的後継者」と位置づけた。マレンウェッグの結論は明快だった。「いつか、WordPressよりもさらにオープンな精神的後継者が現れるかもしれない。そのときは共に学び、共に成長したい。だがそれまでは、WordPressの名前を口にするな」。
穏やかな文体で始まりながら、末尾でここまで鋭く突き放す。WordPress共同創設者でAutomattic CEOでもある人物の言葉は、ただの感想文ではない。これは宣戦布告に近い声明だ。
「民主化」をめぐるすれ違い
マレンウェッグが最も強く異議を唱えているのは、EmDashが「WordPressの精神を継いでいる」という主張そのものだ。
彼が描くWordPressの精神とは「パブリッシングの民主化」だ。Raspberry Piでも、インドネシアの月額99セントのホスティングでも、AWSの大規模クラスタでも、まったく同じコードが動く。WhiteHouse.govで毎秒1,000回の攻撃を受けているのと同じコードを、誰でも手元にダウンロードして使える。それが「民主化」だと彼は言う。
一方でEmDashについては、こう指摘した。「EmDashはCloudflareのサービスをもっと売るために作られたと思う。それ自体は問題ない」。技術的にはNetlifyやVercelでも動くが、真価を発揮するのはCloudflareの上だけだ。プラグインのサンドボックスもCloudflare環境でしか機能しない。
EmDashとWordPressの対立軸は「新旧」ではない。「どこでも動く」対「特定のインフラで最も輝く」という設計思想の根本的な違いだ。
ここが核心だ。EmDashのアーキテクチャはCloudflare Workersに最適化されており、セルフホスト環境ではサンドボックスによるプラグイン隔離が使えない。マレンウェッグにとって、特定のベンダーに最適化されたCMSは「精神的後継」ではなく「優れた競合製品」でしかない。後継を名乗るなら、まず精神を理解しろ——そういうメッセージだろう。
マレンウェッグにとって、特定のベンダーに最適化されたCMSは「精神的後継」ではなく「優れた競合製品」でしかない。後継を名乗るなら、まず精神を理解しろ——そういうメッセージだろう。
「プラグインの自由は機能であり、バグではない」
EmDashの最大の売り文句は、WordPressのプラグインセキュリティ問題を構造的に解決した点にある。Patchstackの調査によれば、WordPressのセキュリティ問題の96%はプラグインに起因する。EmDashはプラグインをサンドボックス内で隔離実行し、マニフェストで宣言した権限のみを許可するアーキテクチャを採用している。
マレンウェッグはこの点について、意外にも「それは仕様だ」と言い切った。プラグインがWordPressのあらゆる側面を変更できることは脆弱性ではなく、機能そのものだと。6万2,000本のプラグインの品質にはばらつきがあるが、それはエコシステムの豊かさの代償であって、設計の欠陥ではないというスタンスだ。
さらに興味深いのは、AIによるプラグインセキュリティの解決に言及した点だ。「ところで、18ヶ月以内にAIでこの問題を解決できると思う」と付け加えている。CloudflareがEmDashという新しいCMSで問題を解決しようとしている間に、WordPressは既存のエコシステムを維持したまま同じ問題をAIで解決する——その自信は、4割以上のウェブを動かしている者ならではの余裕だ。
率直すぎる7つの指摘
マレンウェッグの反応が単なる防衛でないことを示しているのが、EmDashへの具体的なフィードバックだ。Cloudflareとは3月下旬に直接電話で話しており、そのときは製品名も発表タイミングも明かされなかったという。ブログには「あのとき言いたかったこと」として7項目のフィードバックが並んでいる。
その内容は驚くほど率直だ。「製品はとても堅実だと思う。優れたエンジニアリングがある」「数万サイトが使っても不思議ではない」と、技術力は素直に認めている。
しかし批判も遠慮がない。UIについては「WordPressっぽいのにWordPressじゃないという不気味の谷にいる」と評した。
エディタにTinyMCEを採用したことは「退化だ」と断じ、WordPressが開発し他のCMSでも使えるようライセンスしたブロックエディタ「Gutenberg」を使うべきだという。
一方で、EmDashの「Skills」機能については「素晴らしい、天才的な戦略だ。我々もすぐに同じことをやる必要がある」と絶賛しており、実際にWordPress側での開発をにおわせている。
EmDashから学ぶべき点は学ぶ。だが精神の継承は認めない。この使い分けこそが、マレンウェッグの立場を端的に示している。
| 項目 | 判定 | コメント要旨 |
|---|---|---|
| 技術力 | ○ | 「堅実で優れたエンジニアリング」 |
| 普及見込み | ○ | 数万サイトが使っても不思議ではない |
| Skills機能 | ◎ | 「天才的な戦略」。WordPress側も追随を宣言 |
| UI設計 | △ | WordPressに似て非なる「不気味の谷」 |
| エディタ | ✕ | TinyMCE採用は「退化」。Gutenbergを推奨 |
| プラグイン思想 | ✕ | 全権限アクセスは機能であり設計の欠陥ではない |
| ベンダー依存 | ✕ | プラグイン隔離はCloudflare環境でのみ機能 |
| 「精神的後継」 | ✕ | WPの精神は「どこでも動く」。CF最適化では後継を名乗れない |
※マレンウェッグのブログ投稿(2026年4月)に基づく。◎=高評価 ○=評価 △=指摘あり ✕=否定的
「マット」だらけの奇妙な構図
マレンウェッグが冒頭で触れた余談も、この騒動の妙味を物語る。EmDashの発表を行ったCloudflareのマット・テイラー(プロダクトマネージャー)とマット・ケイン(エンジニア)。電話を設定したのはCloudflare CEOのマシュー・プリンス。マレンウェッグ自身もマット。そして右腕であるマティアス・ベントゥーラ。
「ウェブを作り変えようとする人間にはなぜか全員"マシュー"の名前がついている」という皮肉は笑えるが、名前の問題はもう一つある。マレンウェッグの同僚にEmdashという名の人物がおり、WordPressとAIの分野で活躍しているという。「5年後にはうちのEmのほうがウェブに大きなインパクトを与えるだろう」と付け加えている。
偶然か挑発か。いずれにせよ、CMS業界でもっとも影響力のある人物が、真っ向から名前の衝突にまで言及したことは、EmDashにとって想定外だった可能性がある。
Cloudflare側の論理——そしてWP Engine騒動の残響
EmDashの開発者マット・ケインは、The Registerの取材に対して「名前はジョークだが、プロジェクトは本物だ」と答えている。MITライセンスを選んだ理由について「GPL準拠のコストは、弁護士代が無料でない限りタダではない」とも語った。これはWordPressのGPLライセンスへの暗黙の批判であり、エンタープライズ市場を意識した布石でもある。
この発言が意味を持つのは、2024年のAutomattic対WP Engine訴訟の文脈だ。マレンウェッグがWP EngineのWordPress商標使用をめぐって激しく対立し、企業ユーザーの間に「WordPressは一人の人間に支配されすぎている」という懸念が広がった。Computerworldの取材では、IT調査会社のアナリストが「昨年の法的な騒動で、エンタープライズのIT担当者が不安を感じた」と指摘している。
EmDashの登場は、技術的な必然であると同時に、WordPressコミュニティ内部の摩擦が生んだ「隙間」を突く動きでもある。
もっとも、その同じアナリストは「エンタープライズ環境がWordPressをすぐに捨てることはない」とも述べている。EmDashのv0.1.0プレビューは、まだ企業が賭けられる段階ではない。
競争が生む進化のほうが面白い
マレンウェッグは別のブログ記事で、EmDash発表とほぼ同時に「Taxonomist」というプロジェクトを公開している。AIエージェントを使って自身の5,600件以上のWordPress投稿のカテゴリを再構築したという。EmDashが「AI時代のCMS」を謳うなら、WordPressだってAIと共に進化できる——そう示すかのようなタイミングだった。
EmDashのSkills機能を「すぐに真似する」と公言したこと、プラグインセキュリティをAIで解決すると宣言したこと。マレンウェッグの反応は、単なる拒絶ではなく、競合から触発された加速宣言だ。
24年間ウェブの4割を支えてきた巨人と、インフラの覇者が送り出した新参者。名前も精神も争いながら、両者が互いの存在によって進化を加速させていく。CMS市場にとって、これ以上の刺激はない。
結局のところ、最も得をするのはサイトを作る人間だ。
参照元
他参照
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