カリフォルニア州が3Dプリンタに「検閲AI」搭載を義務化へ――EFFが警鐘

カリフォルニア州の法案AB 2047は、3Dプリンタに銃器検出AIの搭載を義務づけ、回避を犯罪にする。だがEFFは「オープンソースが違法になり、監視が合法になる」と警告している。

カリフォルニア州が3Dプリンタに「検閲AI」搭載を義務化へ――EFFが警鐘

カリフォルニア州の法案AB 2047は、3Dプリンタに銃器検出AIの搭載を義務づけ、回避を犯罪にする。だがEFFは「オープンソースが違法になり、監視が合法になる」と警告している。


「印刷許可制」という発想

カリフォルニア州で、3Dプリンタの在り方を根本から変えかねない法案が前進している。

2026年2月に提出されたAB 2047カリフォルニア銃器印刷防止法)は、州内で販売されるすべての3Dプリンタに、州が認証した「銃器検出アルゴリズム」の搭載を義務づける内容だ。デザインファイルを印刷前にスキャンし、銃のパーツと判定されたジョブを自動でブロックする。2029年3月からの施行を目指しており、法案は3月24日に州下院の公共安全委員会を賛成6・反対0で通過、4月14日には司法委員会での審議が予定された。

背景にあるのは、追跡不能な「ゴーストガン」の急増だ。Everytown for Gun Safetyが米国20都市のデータを分析したところ、3Dプリンタ製の銃器の押収数は2020年の約30丁から2024年には325丁へ、 約1000% の増加を記録した。

数字だけではない。カリフォルニア州サンタローザでは2026年2月、3Dプリンタ3台とともに167丁の銃器が押収される事件も起きている。幼い子どもの手が届く場所に銃が放置されていたという。

法案提出者のレベッカ・バウアー=カーン(Rebecca Bauer-Kahan)州議員は「3Dプリンタが追跡不能な武器の新たな供給源になることを許すわけにはいかない」と述べた。

銃規制の強化を求める声には切実な理由がある。だが、このやり方で本当に犯罪者を止められるのか。副作用は誰が引き受けるのか。


EFFが突きつけた「3つの欠陥」

電子フロンティア財団EFF)は4月にブログシリーズを公開し、AB 2047を3つの観点から批判した。

技術的に機能しない

EFFの政策担当クリフ・ブラウン(Cliff Braun)は、3Dプリンタの仕組みそのものがブロッキングと相性が悪いと指摘する。多くのプリンタはCAMソフト(スライサー)でG-codeに変換されたデータを受け取るだけの、比較的シンプルな機械だ。銃器パーツの3Dモデルをわずかに変形させるか、G-codeを直接編集すれば、検出アルゴリズムは簡単に回避できる。

これはカラーコピー機の偽札防止技術とは本質的に異なる。紙幣のパターンは固定だが、銃のパーツは「大きなばらつきがあっても機能する」からだ。

オープンソースが犯罪になる

法案はさらに踏み込んで、検出アルゴリズムの無効化や回避を軽犯罪として処罰する。これが意味するのは、サードパーティ製のオープンソースファームウェアやスライサーの使用が事実上違法になるということだ。メーカー純正ソフトウェアへのロックインが法的に強制され、ユーザーは部品も消耗品も純正品を使わざるを得なくなる。

ブラウンは2Dプリンタ業界の前例を引き合いに出した。HPが互換インクを締め出してきた構造と同じだと。メーカーがサポートを終了すればプリンタは「非準拠」となり、中古市場での転売すら軽犯罪に問われるリスクがある。

監視インフラへの転用リスク

EFFのロリー・ミル(Rory Mir)は、「拡大し続けるブラックリスト」に歯止めをかける仕組みが法案にないことを問題視する。銃器パーツ検出のために構築されたスキャン基盤は、著作権侵害の取り締まりにも転用できる。

任天堂がピカチュウの玩具をブロックし、John Deereが交換部品をブロックし、パテントトロールがハードウェア企業を動かす――そうした未来が見える」とミルは書いた。クラウド接続を前提としたスキャンシステムは、ユーザーの印刷内容を常時収集する監視インフラになりかねない。


銃規制派も擁護派も反対する奇妙な構図

AB 2047が異例なのは、通常は対立する勢力が同時に反対していることだ。

EFFはデジタルの自由の観点から批判する一方、Gun Owners of Californiaは「犯罪者ではなく一般消費者と企業を標的にしている」と反発している。3Dプリンタメーカー側も警戒を隠さない。Prusa Researchのコミュニティマネージャー、トミー・ムジンスキー(Tommy Muszynski)はRedditで「私たちはオープンソースの理念と、購入した機械を自由に使う権利を信じてきた」と述べた。

プリンタはユーザーの創造性のための道具であり、監視されるデバイスであってはならない、というのがPrusaの立場だ。

法案を支持しているのはEverytown for Gun Safetyと法案提出者のバウアー=カーン議員を中心とした銃規制推進派だが、技術コミュニティとの溝は深い。もっとも、3Dプリンタ製の銃器が 実際に増えている という事実は、反対派にとっても無視できない重さを持つ。


「道具」を規制するという選択の代償

カリフォルニアだけの話ではない。ワシントン州やニューヨーク州でも同様の法案が提出されている。カリフォルニアが先行すれば、プリンタメーカーは州ごとに異なるソフトウェアや在庫を維持するコストを避けるため、最も厳しい基準をグローバルに適用する可能性が高い。EFFが「カリフォルニアで起きたことはカリフォルニアにとどまらない」と警告する理由はここにある。

本来なら、3Dプリンタで銃を製造すること自体はカリフォルニア州法で既に違法だ。AB 2047は「結果」ではなく「道具」を規制する道を選んだ。その道具が教育現場にも、図書館にも、小さなガレージにもある汎用機械だという事実が、この法案の射程を際限なく広げている。

3Dプリンタ製の銃が増えているのは事実であり、対策の必要性そのものを否定する声は少ない。焦点は「正しい対策かどうか」にある。

EFFの指摘が正しければ、この法案は犯罪者には効かず、一般ユーザーの自由だけを奪う構造になっている。技術で問題を解決しようとするなら、少なくともその技術を理解した上で法案を書くべきだろう。


参照元

関連記事