X所有のマスクがTikTokに登場、SpaceX上場前の矛盾

認証済みの@elonmusk TikTokアカウントが初投稿で210万回再生を記録した。かつて「脳を腐らせる」と切り捨てた本人が、今度は自分でそこに立っている。

X所有のマスクがTikTokに登場、SpaceX上場前の矛盾
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認証済みの@elonmusk TikTokアカウントが初投稿で210万回再生を記録した。かつて「脳を腐らせる」と切り捨てた本人が、今度は自分でそこに立っている。


かつて批判した場所に、本人らしき人物が現れた

イーロン・マスクTikTokに現れている。しかも、自分で「使うのをやめた」と公言したはずのプラットフォームに、だ。

ニューヨーク・タイムズによれば、認証バッジ付きの@elonmuskアカウントが先週水曜日にTikTokへ初投稿した。動画は1分を超える長さで、すでに210万回再生に達している。内容はマスク本人が未来を語る映像に、SpaceXTesla、さらにNeuralinkやThe Boring Companyといった彼の事業群のハイライトを重ねたプロモーション映像だ。キャプションは「Ad Astra」──ラテン語で「星々へ」を意味する。

同じ@elonmuskのハンドルを持つ認証済みアカウントはInstagramにも姿を見せた。こちらは非公開で投稿はゼロ、1万8000人近いフォロワーだけが静かに膨らんでいる。プロフィール欄にはただ一言、「I like building things(私はものを作るのが好きだ)」とある。

マスク本人、TikTok、そしてInstagramを運営するMetaのいずれも、これらのアカウントが本物かどうかについて取材に答えていない。NYTも独自には確認できていないとしている。

つまり公式な「イエス」はまだどこにもない。しかし、状況証拠はそれなりに揃っている。

Xに2億3800万人のフォロワー。それでも足りない相手がいる

Xに2億3800万人近いフォロワーを持ち、毎日何時間もそこに書き込む人物が、今さら別のSNSを触る理由は多くない。Xだけでは届かない相手がいる、と考えるのが素直だ。

その「何か」はほぼ特定されている。SpaceXの新規株式公開だ。

Bloombergなどの報道によれば、マスクはSpaceXを2兆ドル(約319兆円)超と評価させようと動いており、調達額は最大750億ドル(約12兆円)に達する可能性がある。さらに目を引くのは、株式の最大30%を個人投資家に振り向ける方針だという点だ。通常のIPOで個人投資家枠は5〜10%程度にとどまる。

ここで、先ほどの「Ad Astra」というキャプションが別の意味を帯びてくる。あの動画は、マスクの功績をたたえるファンムービーというより、個人投資家向けの非公式プロスペクタスに近い。

過去の発言と並べると、矛盾が浮き上がる

マスクはTikTokInstagramを、これまで一貫してけなしてきた人物だ。

2018年、Facebookのデータ取り扱いに批判が集まったとき、彼はTeslaSpaceXの公式ページを削除し、自分の個人Instagramアカウントも消したと説明している。Joe Roganのポッドキャストでは、Instagramについて「幸福を増やすどころか、むしろ不幸を増やしている気がする」と語った。

2023年、NYT主催のDealBookカンファレンスでは、TikTokをやめた理由を「アプリのAIに頭の中を探られている感じがした」と述べ、中毒性があり、反ユダヤ的な内容にも満ちていると切り捨てた。

「Instagramは人をより不幸にしている」──2018年、Joe Roganとの対談にて。 「TikTokのAIが自分の頭の中を探ってくる」──2023年、DealBookカンファレンスにて。

そして2026年4月、SpaceXの上場準備が本格化したタイミングで、その2つのプラットフォームに「本人らしきアカウント」が同時に現れる。偶然と呼ぶには、タイミングが良すぎる。


2024年からの「空き家」に、今になって電気が通った

TikTokの@elonmuskというハンドル自体は、実は2024年頃から存在していた。ただし当時は投稿もなく、認証バッジもついていなかった。TikTokの認証バッジは、なりすまし防止のために著名人へ付与されるものだ。

先週の時点で状況は変わった。投稿ゼロだった空き家に、認証と初投稿と210万再生が一気に揃った。2024年から寝ていたアカウントを、誰かが目覚めさせた。その「誰か」が本人かどうかはまだ確定していないが、認証を通せる立場の人間が関与していることだけは確かだ。

一方で、TikTok側の動画はX本体には投稿されていない。今年2月にSpaceXxAIを買収し、そのxAIがXを傘下に収めている以上、Xもまた広義ではSpaceXの身内だ。自社経済圏で流さず、批判してきた敵陣で流す。露出戦略としてはちぐはぐに見えるが、届けたい相手がXの外にいるのだと考えれば筋が通る。

個人投資家のための「Ad Astra」

SpaceXの上場は、規模の面でも性格の面でも、普通のIPOとは違う。

2兆ドル超という評価額は、実現すれば史上最大級のIPOになる。最大30%を個人投資家に充てる方針は、機関投資家の審査眼ではなく、一般大衆の熱気を資金源にするという宣言にほぼ等しい。MarketWatchが伝えたところでは、一部のアナリストはこれを「ミーム株」と同じ文脈で論じ始めている。

ミーム株が必要とするのは、決算資料ではない。物語だ。ロケットが打ち上がる映像、人型ロボットがぎこちなく歩く映像、「星々へ」というラテン語。TikTokのアルゴリズムは、まさにそれを拡散するために設計されている。

かつて「脳を腐らせる」と呼んだ装置を、今度は自分の資金調達のために使う。皮肉なのか合理的な判断なのかは、読み手の評価に委ねられる。

ひとつ確かなことはある。マスクにとってSNSはもはや自己表現の場ではなく、資本市場に接続された配信インフラになっているということだ。

残る問い

本人の関与が公式に認められていない以上、この記事が扱えるのは「認証済みの@elonmuskアカウントが存在し、動いている」という事実までだ。その先にある「マスク本人が運用しているのか」「代行か」「外部の代理店が請け負っているのか」という問いには、今のところ答えがない。

ただし、真偽が確定する前にすでに210万人が動画を見てしまった、という事実だけは残る。広告効果の大半は、動画が拡散した時点で発生している。

星々へ、と口にするにはあまりにも地上的な光景ではある。上場を控えたCEOが、かつて批判した場所で視聴回数を数えている。


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