EGS総責任者「8年経って辛うじて黒字」元従業員も告白

8年戦って、ようやく赤字を脱した。Epic Games Store総責任者の言葉と、元従業員の告白が、ほぼ同じ時期に表に出た。

EGS総責任者「8年経って辛うじて黒字」元従業員も告白
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8年戦って、ようやく赤字を脱した。Epic Games Store総責任者の言葉と、元従業員の告白が、ほぼ同じ時期に表に出た。


「辛うじて黒字」と総責任者が語った日

Bloombergが報じたEpic GamesDisneyの提携記事の中に、見逃せない一節がある。Epic Games Storeの総責任者Steve Allisonは、2026年2月にPolygonのインタビューで「ローンチから8年経って、ストアは辛うじて黒字なだけだ」と語っていた。それを受ける形で2人の元従業員が、Bloombergにもう一段踏み込んだ証言を寄せている。ユーザーは無料ゲーム配布のたびにEGSを訪れるが、すぐにSteamへ戻っていく、と。

Epic Games Storeは2018年12月にローンチされた。当時Tim Sweeney CEOは、Valveの取り分30%を時代遅れの搾取だと切り捨て、開発者の取り分を88%まで引き上げる仕組みを打ち出している。大型タイトルの独占契約、毎週の無料ゲーム配布、派手なセール。あらゆる手札を切って、PCゲームの勢力図を塗り替えにいった戦略だった。

「自社タイトルとサードパーティを合算した場合、自社タイトルの売上の12%をストアの手数料として計上したと仮定しても、辛うじて黒字、といった水準だ」(Steve Allison、Polygonインタビューより)

8年かけて到達したのが、自社の貢献を会計上の前提として組み込んでようやく黒字、というぎりぎりのラインだった。

数字が示す「来場者」と「住人」の落差

EGSは決して停滞しているわけではない。2025年実績ではPC支出総額は11億6000万ドル(約1853億円)に達し、月間アクティブユーザーのピークは7800万人と過去最高を更新した。サードパーティ製ゲームへの支出も4億ドル(約639億円)と前年比57%の伸びで、累計PCユーザーは3億1700万人を超えている。数字の流れだけ見れば、衰退している事業には見えない。

ただし内訳を見ると、別の物語が浮かび上がってくる。11億6000万ドルのうち、サードパーティ製ゲームへの支出は全体の3分の1ほどにとどまる。残りの大半を稼いでいるのは、FortniteやRocket LeagueといったEpic自身のタイトルだ。EGSが「ストアフロント」として他社製ゲームをどれだけ売ったかという観点で見ると、本質的にはまだFortnite経済圏の付属物に近い。

Steamは同じ時期の2026年3月22日、同時接続約4232万人という過去最高を記録している。Crimson DesertやDeath Stranding 2の発売週末と春セールが重なったタイミングだ。一企業の自社タイトルで稼ぐEGSと、プラットフォーム全体で常時4000万人超を抱えるSteam。両者が戦っているのは、もはや同じ土俵ではない。

そして2025年、Epicは従業員1000人超のレイオフを発表した。Fortniteエンゲージメント低下が経営を圧迫し、「支出が収入を上回っている」とSweeney自身が社内メモで認めている。2026年3月にはFortniteの通貨V-Bucksを史上初めて値上げした。8.99ドルのパックの中身を1000V-Bucksから800V-Bucksに減らす、実質値上げである。Circanaの調査では、PlayStationでのFortnite月間プレイ時間は前年の21時間から16時間に落ちている。

戻っていく背中の理由

興味深いのは、TechPowerUpの記事に集まったコメント欄のほうだ。読者の声は、Bloombergの記事本体より饒舌にEGSの問題を語っている。「自分もまさにそうだった。無料ゲームを受け取って、ランチャーを閉じた」「Alan Wake 2のためだけにアカウントを残している」「hCaptchaを何度も解かされて嫌になった」「Linuxでの体験が比較にならないほど悪い」。

これらの声に共通しているのは、技術的な批判ではない。Steamが完璧だから戻っているのではなく、長年かけて染み付いた習慣から離れる理由が、EGSには用意されていなかった、ということだ。あるユーザーはこう書いている。WindowsAndroidを使い続けるのと同じで、人は慣れたものから離れない、と。

ここに、Epicの戦略の根本的な誤算があるように思える。無料ゲームは「来てもらう」ための手段としては機能した。しかし「居着いてもらう」ための理由にはならなかった。レビュー機能もフォーラムもショッピングカートさえ初期にはなかった軽量なクライアントは、「不要な機能がない」というより「立ち寄る理由がない」空間として受け止められた。

かつてValveのGabe Newell CEOは、ゲームの不正コピー問題について「あれは価格の問題ではなく、サービスの問題だ」と語ったことがある。十分に良いサービスを提供すれば、人は正規のルートを使う、という思想だ。

その言葉を借りるなら、Epicが直面しているのは独占タイトルの不足でも無料ゲームの金額でもなく、「戻ってくる理由」の不在なのだろう。

それでも、無意味だったわけではない

ここで注意したいのは、Epic Games Storeの存在が業界にとって無意味だったわけではない、ということだ。Valveの取り分30%という業界標準に対して、開発者取り分88%という提案は確実に市場へ圧力をかけた。Steamが2025年6月から導入した「初年度100万ドルまで100%」というルールは、EGSがいなければ生まれなかった可能性が高い。

競争があるからこそ、独占は甘えられない。EGSに辛辣なコメントを書いているユーザーでさえ、その多くはEpicの無料ゲームを毎週受け取り続けている。嫌いだと言いながら、使っている。サードパーティ売上が前年比57%伸びたという事実は、無料客の一部が買い物客へ転換し始めている兆候とも読める。競争相手としてのEGSは、その程度には機能している。

問題は、Epic自身がそれを「敗北ではない」と呼べるかどうかだ。Disneyからの15億ドル出資による評価額225億ドル(約3.59兆円)は、2022年の315億ドルから3割近い目減りで成立した。コスト削減のための1000人超レイオフFortnite値上げ、そして総責任者自身が認めた「辛うじて黒字」という表現。客は来た。ただ、Epicが期待した規模の住人にはならなかった。

8年前にSweeneyが業界に仕掛けた戦いは、ようやく赤字を脱したところで、まだ何も終わっていない。


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