クマ撃退ロボ「モンスターウルフ」注文3倍、町工場が手作り

クマ撃退ロボ「モンスターウルフ」注文3倍、町工場が手作り
太田精機

赤い目を光らせ、うなり声でクマを追い払うオオカミ型ロボット「モンスターウルフ」に、いま全国から注文が殺到している。作っているのは北海道の小さな町工場。なぜ、いま製造が追いつかないほど求められているのか。


クマ被害が過去最多、その先で起きていること

クマが人里に下りてくる。その状況が、いまも各地で続いている。

2025年度、クマによる人的被害は全国で 238人 、うち13人が命を落とした。出没件数は5万件を超え、いずれも過去最多を更新した。これまで最悪だった2023年度の被害219人・死者6人を、人数でも死者数でも大きく上回っている。

クマによる人的被害 ── 前回の最多記録と2025年度
項目 2023年度
(前回の最多)
2025年度
被害者数 219人 238人
うち死者 6人 13人
※ 環境省の2025年度速報値。死者数は前回最多の2倍超で、2025年度は出没件数も5万件を超え過去最多を更新した。

数字だけ見ると、遠い話に思えるかもしれない。だが内訳をたどると、被害の中身が見えてくる。クマは住宅地に入り、学校の近くを歩き、スーパーやゴルフ場にまで現れた。「山にいる動物」という前提が、もう成り立たなくなっている。

そんな中で注目を集めているのが、オオカミ型ロボットだ。北海道奈井江町の機械部品加工会社、太田精器が作る「モンスターウルフ」。クマを殺すのではなく、近づけないための装置である。

モンスターウルフは赤外線センサーで動物を感知すると、約50種類の大音量と、LEDライトの強い光で威嚇する。音はオオカミの声や人の声を含み、半径およそ1キロまで届く。

殺さずに守る。その考え方が、クマと人の距離が縮みすぎた今の日本で、現実的な選択肢として受け止められ始めている。


注文は例年の3倍、製造が追いつかない

太田精器の現場は、いま製造作業に追われている。

今年の注文はすでに約50台。例年なら1年かけて作る量を、年の途中で超えてしまった。読売新聞の取材に対し、太田裕治社長は注文が例年の3倍以上に達したと語っている。設置までの待ち時間は、現時点で2〜3か月だ。

「手作業で作っています。今は作るのが追いつきません」。太田社長はAFPの取材にそう答えている。巨大メーカーの量産ラインではなく、町工場が一台ずつ組み立てている装置だからこそ、需要の急増がそのまま納期の遅れに直結する。

注文の出どころも変わってきた。これまで多かったのは農家だ。だが今は、工事現場やゴルフ場、屋外で働く人たちからの依頼が増えている。

「以前は農家などの使用先が多かったが、工事現場やゴルフ場にも広がっている。人里にクマが下りてきている状況がうかがえる」(太田社長)

どこから注文が来ているか。その内訳が、クマがどこまで下りてきているかを示している。農地の話だったものが、人の働く場所すべての話になりつつある。

・ ・ ・

「子どもだまし」と言われた装置だった

いま注目されているこのロボットは、最初から評価されていたわけではない。

太田精器はもともと金属の精密加工を手がける会社だ。太田社長は新事業としてLED照明への参入を試み、一度は挫折している。その頃、地元の獣害の悩みを聞き、光で動物を追い払う装置を思いついた。

2012年ごろ、光と音だけで威嚇する「モンスタービーム」を製品化する。だが動物はすぐに光に慣れてしまう。野生動物は知能が高く、同じ刺激には反応しなくなる。販売は苦戦した。

転機は、大学教授からの助言だった。「野生動物の天敵はオオカミだ」。見た目をオオカミに近づければ、効果も、買う人への説得力も増すのではないか。こうして2016年から販売が始まったのがモンスターウルフである。

オオカミの姿にしたのは、動物への効果だけが理由ではない。「これなら効きそうだ」と買い手に思わせる狙いもあった。装置の見た目は、説得の道具でもある。

発売当初、その異形の姿は奇抜な装置として受け止められ、ギミックだと揶揄されることもあった。それが今、製造が追いつかないほど求められている。装置の仕組みは当時のままだ。求める側の切迫感だけが、大きく変わった。


4000ドルのロボットに、何が組み込まれているか

モンスターウルフは、安い買い物ではない。

日本での販売価格は、本体に加えてバッテリーやソーラーパネル、設置作業まで含めて 60万5000円 (税込)から。海外向けには4000ドル(約63万円)以上で案内されている。月額制のレンタルにも対応している。決して手軽な金額ではないが、それでも注文は伸び続けている。

中身を見ると、価格の理由が見えてくる。組み立てたパイプの骨組みに人工の毛皮をかぶせ、口を開けた威嚇する顔を載せる。首は左右に動き、赤いLEDの目が強く点滅する。下杖部分のLEDは、地面にオオカミのシルエットを浮かび上がらせる。

太田精機

電源は12Vのバッテリー。太陽光パネルでの充電にも対応し、屋外に置きっぱなしで動く。タイマーで時間を指定して鳴らすこともできる。

太田精器は次の段階に進んでいる。車輪を付けて動物を追いかけたり、決まった経路を巡回したりする改良型「ウルフムーバー」を開発中だ。さらに、ハイカーや釣り人、子ども向けの小型版「モンスターウルフミニ」も用意している。

装置はいま、その場に立つだけのものから、自ら動いて見回るものへ姿を変えようとしている。クマと人の境界線を引き直すための道具が、少しずつ進化している。

太田社長は、こう語っている。「私たちのものづくりを、クマ対策に役立てたい」。金属加工の町工場が長年積み重ねてきた技術が、いまクマと人の暮らしを分ける現場で使われている。装置が売れ続ける状況は喜べる話ではない。それでも、殺さずに距離を保つ手立てが地方の現場から出てきたことには、確かな意味がある。


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