Google AI、Redditの書き込みを「専門家」と呼び始めた
GoogleがAI概要とAIモードを更新し、Redditやソーシャルメディアの投稿を「Expert Advice(専門家のアドバイス)」として表示し始めた。「ピザに接着剤を塗れ」と答えたあの仕組みの延長線で、出力に「専門家」のラベルが貼られる。
GoogleがAI概要とAIモードを更新し、Redditやソーシャルメディアの投稿を「Expert Advice(専門家のアドバイス)」として表示し始めた。「ピザに接着剤を塗れ」と答えたあの仕組みの延長線で、出力に「専門家」のラベルが貼られる。
「専門家のアドバイス」と書かれた箱の中身
Googleは現地時間5月6日、検索の生成AI機能を5項目にわたって更新したと発表した。その発表を担当したのは、検索担当プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのヘマ・ブダラジュ(Hema Budaraju)である。
5項目のうち世界の関心を最も集めているのは3番目、「経験者からアドバイスを得られる」とされた機能である。AIの回答に、Reddit、X(旧Twitter)、フォーラムなどの公開オンライン議論からの「視点のプレビュー」が並ぶようになる。投稿者のハンドルネーム、コミュニティ名、引用元のコメントが、AI概要の本文の中に直接埋め込まれる仕組みだ。
公式ブログには、北極光の撮影方法を尋ねた検索結果のスクリーンショットが添えられている。そこには「Expert Advice」という見出しの箱があり、その中にDPReviewのコメント、Aurora Service Toursの発言、そしてr/photographyのRedditユーザーの投稿が並んでいる。
「多くの検索で、人々は他者からのアドバイスをますます求めている。最も役立つ知見をさらに探究するための助けとなるよう、AIの回答には今後、公開オンライン議論、ソーシャルメディア、その他の一次情報源からの視点のプレビューを含める」
ブダラジュの公式ブログからの抜粋である。文面だけ見れば、検索体験の改善案として違和感はない。
「専門家」という呼び名
ただし「専門家のアドバイス」という呼び名には、引っかかる点がある。
この箱に入る情報源は、AIによる検索結果の信頼性を疑わせた、まさにその素材だ。2024年5月、Googleが鳴り物入りで投入したAI概要は、ピザのチーズが滑り落ちる問題への解決策として「無毒のボンドを8分の1カップ、ソースに加える」と回答して世界中から失笑を買った。引用元は、11年前にRedditで「fucksmith」という名のユーザーが冗談で書き込んだコメントだった。
u/fucksmithが「My cheese slides off the pizza too easily(ピザからチーズが滑り落ちる)」というスレッドへの返信で書いた言葉を、AI概要は11年後に料理アドバイスとして提示した。当時のコメントには8票しか「いいね」が付いていなかった。
同じ騒動の最中、AI概要は 「1日に小石を1個食べる」 ことを推奨するとも答えた。出典はパロディ専門のニュースサイト、ジ・オニオン(The Onion)である。
これらの事故を受けて、GoogleはAI概要の表示頻度を一時的に絞り、ガードレールを強化したとされる。それから2年。同じ仕組みが今度は「Expert Advice(専門家のアドバイス)」のラベルとともに戻ってきた。
引用元の質が劇的に変わったわけではない。むしろRedditやソーシャルメディアを引用元として明示的に取り込むよう設計を進めたのが、今回のアップデートだ。呼び名だけが変わった。
なぜGoogleはRedditに執着するのか
背景には2024年2月の契約がある。GoogleとRedditが結んだコンテンツライセンス契約だ。年間6000万ドル(約94億円)でGoogleはRedditの全投稿データへアクセスでき、Vertex AIなどの訓練に利用できる。Reddit側はこの契約を起爆剤として同月に新規株式公開(IPO)の手続きを始めた。
契約以降、Google検索結果におけるRedditの可視性は急上昇した。SEO業界の観測では、Reddit由来のURLがGoogleにインデックスされる数は、契約前後の1年で2200万から4100万へとほぼ倍増している。そしてPew Research Centerが2025年7月に発表した調査では、AI概要が引用するソースの上位3つはWikipedia、YouTube、そしてRedditで、この3つで全引用の15%を占めた。
Reddit側の動機ははっきりしている。AI訓練データという新しい収益源を確保しつつ、Google経由の流入も増やせる。
Google側の動機もはっきりしている。「Reddit」をクエリの末尾に付け加える検索行動はずっと前から観測されており、ユーザーが「人間の生の意見」を求めていることはGoogleも把握していた。契約済みのデータベース から、その需要に直接応えに行く——それが今回の「Expert Advice」だ。
出版社にとっての風景
検索結果に変化を加えるたび、Googleは「ウェブ全体への送客を維持する」と繰り返す。今回の発表でもブダラジュは「ウェブの豊かさを発見してもらう」「クリエイターと直接つながってもらう」と書いている。
しかし数字は別の話を語っている。
Pew Research Centerが2025年3月の検索行動を実測した調査によれば、AI概要が表示された場合のクリック率は8%で、表示されなかった場合の15%から大きく落ちている。AI概要内に埋め込まれた引用リンクが押される確率はわずか1%だった。
つまりAI概要が登場した瞬間、そこにリンクされた出版社が実際にトラフィックを得られる可能性はほぼ消える。Ahrefsが30万のキーワードを調べた調査でも、AI概要が表示された検索結果のオーガニッククリック率は34.5%下落していた。Authoritasの個別事例ではAI概要表示時のトップ枠クリック率が約79%下落したケースもある。
そんな環境のもと、AI概要に「Expert Advice」枠が新設された。AIが要約し、本文中の脚注代わりに引用箇所が並び、ホバーするとサイトのプレビューが表示される。従来の検索結果ページ にわざわざ降りる理由が、また一つ減ったことになる。
「Expert」という言葉の重さ
ジャーナリズム的に問題があるのは、引用元の質ではなく「Expert Advice」という呼称そのものだ。
Redditの投稿者は専門家ではない。匿名で発言する一般人であり、その中に医師や研究者が混じっていることもあるが、ハンドルネームから判別する手段は読者には基本的にない。fucksmithが11年前にピザにボンドを塗れと書いたとき、そのコメントは「専門家の意見」として書かれていなかったし、誰もそう読まなかった。
ところがGoogleがそれを「Expert Advice」というUIラベルの中に並べた瞬間、検索結果に流れ着いた読者にとって、その投稿は「検索エンジンが選んだ専門家の助言」になる。GoogleのAIが選んだ、と言い換えてもいい。
専門家による匿名の助言と、匿名の一般人の意見を、UI上で同じ箱に放り込む。これが今回の設計判断の核心だ。表示の仕組みを変える前に、UIの語彙を変える必要がなかったか——という問いは、TechCrunchのアマンダ・シルバリング(Amanda Silberling)の取材記事でも投げかけられている。シルバリングは「AI概要の役割は質問に答えることなのか、それとも情報源を提示することなのか。後者なら、それは普通のGoogle検索とどう違うのか」と書いた。
Googleが「Expert Advice」のラベルを貼ったことで、ピザに接着剤を塗れと書き込んだ11年前の名もなきユーザーは、UI上で晴れて「専門家」に格上げされた。読者がその肩書きの軽さを毎回見抜けるかどうかが、これからの検索体験の質を決めることになる。
参照元
他参照
- TechCrunch - Google updates AI search to include 'expert advice'
- Pew Research Center - Do people click on links in Google AI summaries?