Microsoft 365、Windows 10で機能凍結へ
Officeアプリの開発凍結と聞くと穏やかではないが、失われるものの正体を見れば、この「圧力」がどれほど空振りかがわかる。
Officeアプリの開発凍結と聞くと穏やかではないが、失われるものの正体を見れば、この「圧力」がどれほど空振りかがわかる。
Officeアプリ、Windows 10では「現状維持」へ
Microsoft 365のOfficeアプリが、Windows 10上で機能凍結に入る。
Microsoftが公開したサポートドキュメントによれば、2026年8月にリリースされるバージョン2608が、Windows 10向けの最後のフィーチャーアップデートになる。以降はセキュリティ更新のみが2028年10月10日まで提供され、新機能はWindows 11かmacOSでしか受け取れない。
Windows 10上のMicrosoft 365アプリはバージョン2608にとどまり、2028年10月10日までセキュリティ更新のみを受け取る。
バージョン2607は現地時間8月11日にリリース済みで、2608は約2週間後に配信される見込みだ。つまり、Windows 10ユーザーにとってのOfficeアプリは、今月を境に「動くが進化しない」状態に固定される。
凍結されるのは「Copilot」だけだった
では、Windows 10ユーザーは何を失うのか。
Officeアプリの最近のリリースノートを振り返ると、主要な新機能のほぼすべてがCopilot関連だ。4月にはPowerPointにCopilotによるプレゼン編集機能が追加され、2月にはWordにエージェント機能が実装された。どちらもCopilotのサブスクリプションが前提の機能であり、無料で使えるものじゃない。
文書作成、表計算、プレゼン作成というOfficeの根幹機能は、もうとっくに完成している。企業も個人も、いま使っている機能で十分に仕事が回っている。Microsoftがどれだけ新機能の「不在」を強調しても、ほとんどのユーザーにとっては影響が限定的だと考えていい。
凍結されるのは機能ではなく、Copilotという名の実験場へのアクセス権だ。
皮肉なことに、Officeアプリで最近もっとも話題になった「新機能」は、Excelのセルを覆い隠すCopilotボタンだった。ユーザーの反発を受けてMicrosoftは撤回に追い込まれたが、もしWindows 10がこの凍結ルールの対象だったなら、そもそもこのボタンが表示されることもなかった。
機能凍結が「保護」として働く可能性があるというのは、なかなかの逆説だ。
OneDriveはどうなるのか
OneDriveについては、Windows 10 22H2を使っていれば2028年10月まで更新が続く。それより古いバージョンでは、デスクトップアプリのアップデートが停止する。
Windows 10 22H2上のOneDriveデスクトップアプリは、2028年10月10日まで更新を受け取り続ける。
大多数のWindows 10ユーザーはすでに22H2を使っているため、OneDriveが突然使えなくなる事態にはならない。ただ、今後Windows 11向けに新機能が追加された場合にWindows 10が取り残される可能性は残る。
気になるのは、MicrosoftがOneDrive Photosアプリをめぐる反発で、Windows 11ユーザーにアンインストールの選択肢を提供せざるを得なくなった経緯があることだ。こちらもCopilot同様、AI関連の機能が摩擦を生んでいる。
Windows 10ユーザーは動かない。動けない
HPの調査では、PCの3台に1台がいまだにWindows 10を使っている。IT管理会社のデータでもWindows 10のシェアは約17%を維持しており、Windows 11への移行ペースは鈍化している。StatCounterの2026年7月のデータでは、世界のWindowsデスクトップシェアでWindows 10が約30%を占めている。
2025年10月 Windows 10通常サポート終了 無償セキュリティ更新が終了。ESU(延長セキュリティ更新)が開始 2026年7月 OEMライセンス料を7〜10%値上げ PC価格にさらなる上昇圧力。メモリ高騰と合わせて移行コストが増大 2026年8月 バージョン2608配信 Windows 10向けMicrosoft 365の最後の機能更新 2026年8月以降 セキュリティ更新のみに 以降は新機能なし。Windows 11かmacOSのみ 2028年10月 セキュリティ更新も終了 Windows 10上のMicrosoft 365アプリへの全サポートが終了 |
Microsoft自身も、Windows 10のサポート終了がWindows 11のPC販売を押し上げる効果が薄れてきたことを認めている。
移行を阻むもうひとつの壁
そして、この話にはもうひとつの文脈がある。2026年7月から、MicrosoftはWindows 11のOEMライセンス料を 7〜10% 引き上げた。従来の値上げ幅が1桁台だったことを考えると、かなり大きな増額だ。
メモリ価格の高騰、SSD価格の急上昇、そしてOEMライセンス料の値上げ。IDCは2026年のPC平均販売価格が前年比18.3%上昇すると予測している。PCを買い替えてWindows 11に移行するコストは、1年前とは比較にならない。
Windows 10にとどまっているユーザーの多くは、単に「新しいものに興味がない」のじゃない。移行する経済的合理性がない。いまのPCが動いている。いまのOfficeが使える。新しいPCは高い。この三拍子が揃えば、人は動かない。
Microsoftの本当の狙いと、その限界
Microsoftの意図は読みやすい。Windows 10の体験を少しずつ削り、「このままでは取り残される」という不安を醸成する。FOMO(取り残される恐怖)と呼んでもいい。
だが、削られるものが「Copilotの新機能」である限り、その恐怖は発動しない。ほとんどのユーザーはCopilotを使っていないし、使いたいとも思っていない。
懸念があるとすれば、MicrosoftがOfficeアプリの新機能をWindows 11の他の機能と深く統合し始めた場合だ。新機能そのものではなく、既存の機能が「Windows 11でないと正常に動かない」状態が意図的に作られるシナリオ。これは現時点では起きていないが、2028年10月の最終期限に向けて、可能性としてはゼロではない。
Windows 10ユーザーにとって、今回の凍結は「脅し」であって「被害」じゃない。ただ、脅しには期限がある。2028年10月、セキュリティ更新が止まる日。その日が近づくにつれて、「動かない」という選択肢は少しずつ重くなっていく。
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