HPのBIOSアップデートが高級ノートPCを起動不能に

30万円超のモバイルワークステーションが、ある朝突然起動しなくなる。原因は自動適用されたBIOSアップデート。HPは調査中と認めたが、被害の全容はまだ見えていない。

HPのBIOSアップデートが高級ノートPCを起動不能に
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30万円超のモバイルワークステーションが、ある朝突然起動しなくなる。原因は自動適用されたBIOSアップデート。HPは調査中と認めたが、被害の全容はまだ見えていない。


BIOSアップデートが「重要」として自動適用される

HPのモバイルワークステーションZBook Ultra G1aと、法人向けノートPCEliteBook X G1aで、BIOSアップデート後に起動できなくなる問題が拡大している。

問題のBIOSはWindows Updateを通じて 「重要」に分類され、自動的に適用 された。ユーザーの同意も、事前の通知もない。夜間にアップデートが完了し、翌朝電源を入れるとHPロゴの画面で回転するインジケーターが止まり、そのまま起動しない。再起動を繰り返してもブートループが続く。

影響を受けるBIOSバージョンは、ZBook Ultra G1aが01.04.03と01.04.05、EliteBook X G1aが01.03.11と01.05.00だ。

HPは「報告されているBIOSの問題を認識しており、調査を進めている」と認め、影響を受けたユーザーにはサポートへの問い合わせを案内した。

ZBook Ultra G1aは日本HPのダイレクト価格で63万9760円(税込)から、EliteBook X G1aは44万110円(税込)からという高価格帯の製品だ。業務の中核を担うワークステーションが、メーカー自身が配信したアップデートで使用不能になる事態は深刻としか言いようがない。

起動不能の原因はオーディオ初期化のタイムアウト

コミュニティが集約した技術分析によれば、原因はPOST(起動時の自己診断プロセス)中に発生するオーディオハードウェアの初期化タイムアウトだ。BIOSが設定したタイムアウト値が一部のハードウェア個体に対して短すぎるため、応答を待ちきれずにフリーズする。

興味深いのは、同じモデルでも症状が出る個体と出ない個体がある点だ。内部情報として共有された分析では 「シリコンロッタリー」 ——半導体チップの個体差——が原因とされている。わずかに高速なハードウェアが、BIOSの想定より速い応答時間を要求し、タイムアウトに引っかかる。

起動不能になった端末のユーザーからは、共通してHynix製メモリが搭載されていたという報告も上がっている。Samsung製メモリの端末では報告がないことから、メモリチップの個体差との相関も疑われている。

復旧手段は限られている

起動不能に陥った端末を復旧する手段は存在するが、ハードルが高い。

ネットワーク経由のBIOSダウングレード機能を使い、問題のバージョンから安全なバージョンへ段階的に戻す方法がある。ただし、この方法はHP純正の USB-Cイーサネットドングル でしか動作しないとの報告が複数ある。サードパーティ製のアダプタではBIOSが認識しない。Wi-Fi経由のアップデートも機能しない。

EliteBook X G1aについては修正版BIOS 01.05.01がすでに公開されている。一方、ZBook Ultra G1aの修正版はまだ提供されていない。

ダウングレードに成功した後は、BIOS設定で「OSによるBIOSアップデートを許可」を無効化し、同じ問題が再発しないようロックすることが推奨されている。だが、この設定の存在を知っているユーザーがどれだけいるかは疑問だ。

起動不能だけではない——ファンの異常動作とブルースクリーンも

問題はブートループだけにとどまらない。

BIOS 01.03.00以降では、アイドル状態でもファンが突然100%回転に達し、数秒後に停止するスパイクが報告されている。01.04.03でこの挙動は緩和されたものの、今度は 低回転でのオン・オフ を1分間に何度も繰り返すサイクルが発生するようになった。モーターのクリック音が毎回鳴り、ファンの寿命への影響が懸念されている。

128GBメモリ搭載モデルでは、初日からエラーコードの異なるブルースクリーンが毎日発生するという報告もある。HPは2月に修正BIOSを公開したが一度取り下げ、再公開した。それでも解消しなかったユーザーは端末の返品を余儀なくされている。

修理を依頼したユーザーからは、マザーボード交換に2か月を要したとの報告が出ている。ファームウェアの問題でハードウェア交換が必要になること自体、対応としての妥当性が問われる。

HPにとって「初めて」ではない

HPのBIOSアップデートがノートPCを起動不能にする事例は、今回が初めてではない。

2024年にはProBookシリーズで同様の問題が発生し、完全に復旧不能となった端末のユーザーが高額な修理費を請求される事態に発展した。コミュニティがまとめた記録によれば、2021年のVictus F.10、2023年のTG01デスクトップ、2024年のProBook/EliteBook、2025年のEliteBook、そして2026年の今回と、BIOSアップデートによる起動不能は 毎年のように繰り返されている

2024年のProBook問題は、メディアで報じられた後にようやく対応が進んだ経緯がある。今回も同じパターンをたどるのだろうか。

ファームウェア品質とLVFSスポンサーシップの皮肉な同時性

5月20日、Linux向けファームウェア更新基盤 LVFS (Linux Vendor Firmware Service)のプロジェクトを率いるリチャード・ヒューズ(Richard Hughes)氏が、HPがLenovo、Dellに続くプレミアスポンサーとして参加したことを発表した。

LVFSはLinux環境でのファームウェアアップデートを安全かつ確実に行うためのオープンソース基盤であり、これまでに1億4500万件以上のファームウェアアップデートを配信してきた。HPの参加は、ファームウェアのエコシステムを強化する前向きな動きだ。

ただ、そのタイミングがWindows側で自社BIOSの品質問題を抱えている最中というのは、何とも皮肉な巡り合わせではある。HPがLVFSに持ち込むのが資金だけであり、Windows Updateで起きているような品質問題ではないことを願いたい。

BIOSはPCの土台であり、ここが崩れれば何も動かない。「重要」と銘打ったアップデートが端末を使用不能にし、復旧に純正ドングルが必要で、修正版は片方の機種にしか出ていない。同じ失敗を何度繰り返せば、品質管理の仕組みは変わるのだろうか。


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