Linux Foundation、AIコスト標準化団体を30社で正式発足

AIに2.59兆ドルが注ぎ込まれようとしている。その経済を動かす「トークン」の計り方が、まだどこにもない。

Linux Foundation、AIコスト標準化団体を30社で正式発足

AIに2.59兆ドルが注ぎ込まれようとしている。その経済を動かす「トークン」の計り方が、まだどこにもない。


物差しのない2.59兆ドル

2026年の世界のAI支出は2.59兆ドルに達するとガートナーは予測している。ゴールドマン・サックスの試算では、トークンの消費量が2030年までに現在の24倍、月間120京に膨らむ。

「1トークンにいくらかかり、何を生み出したのか」を横断的に測れる共通の尺度は、まだない。

企業の予算はすでに崩れ始めている。FinOps Foundationが1,192人の実務者を対象にまとめた年次報告(State of FinOps 2026)によれば、73%の企業がAIコスト計画を超過した。エージェント型のプロジェクトでは超過幅が予算の2.4倍に達している。

トークンの単価自体は下がっている。2025年初頭から2026年初頭にかけて、100万トークンあたりの加重平均価格は18.40ドルから6.07ドルへ、67%下落した。それでも請求額は増え続けている。単価の低下を消費量の爆発が上回り、予算管理の前提が崩れた。

AIコスト管理を担当する実務者の割合は、2024年の31%から2026年には98%に跳ね上がった。2年で3倍。AIの請求書は、ほぼすべてのFinOpsチームの仕事になった。

30社で始まった「度量衡」づくり

Linux Foundationは現地時間8月4日、Tokenomics Foundationの正式発足を発表した。AIの経済性に関するオープンな業界標準、ベンチマーク、ベストプラクティスを策定する。6月3日のFinOps Xカンファレンスで設立意向を示してから2か月での始動になる。

Linux Foundation

創設メンバーは30社。Accenture、BNY、Broadcom、IBM、JPMorganChase、Lenovo、Oracle、SAP、ServiceNowといった大手に加え、Cast.ai、DoiT、Finout、Pay-i、Pointfiveなどクラウドコスト管理に特化した企業が名を連ねる。理事会は7月30日に初会合を終えており、技術運営委員会の発足も控えている。

FinOps Foundationの創設者であるJ.R.ストーメント(J.R. Storment)氏が、Tokenomics Foundationのエグゼクティブディレクターを兼任する。クラウド時代に「変動するIT費用をどう管理するか」という規律を作った人物が、同じ手法をAIトークンに持ち込もうとしている。ストーメント氏自身、FinOps Xの基調講演で「成熟したFinOpsチームはクラウド予算を誤差1〜3%で着地させるが、AIコストでは2〜3倍外す」と語っていた。

その規律をAIに適用するロードマップは5つの軸からなる。

まず用語の定義。トークノミクスとは何か、入力・出力・推論・キャッシュそれぞれのトークン価値をどう測るかを標準化する。次にAIの全コストの参照モデル。トークンの請求はAIコスト全体の一部にすぎず、計算資源、ストレージ、データベース、人件費を含む全体像を共通言語で描く。

3つ目は提供コストの標準化(cost to serve)。トークン単価ではなく、1回の呼び出しあたりのコストとして表現し、実際の作業量と費用を対応させる。4つ目は価値測定の枠組み。AIが人の関与なしに完了した作業の割合を、既存の業務コストと照合する方法を定める。

最後に教育と認定。実務者が上記を使いこなすための研修と資格を整備する。

すでに動いているプロジェクトもある。AI処理の種類ごとにトークンコストの複雑度を分類するBig-T Frameworkや、クラウド課金のオープン規格FOCUS(FinOps Open Cost and Usage Specification)のv1.5以降にトークンコストの報告項目を追加する取り組みが始まっている。

Foundation乱立が映すもの

Linux Foundationにとって、Tokenomics Foundationは半年間で4つ目のAI関連Foundation発足になる。

2月にはAnthropicのMCPやOpenAIのAGENTS.mdを収容するAgentic AI Foundation(AAIF)が立ち上がった。3月にはAI生成の低品質バグ報告からオープンソースを守るAkritesに1,250万ドルの助成金が集まった。7月にはAIエージェント向けの決済規格x402 Foundationが正式稼働している。

そして8月、AIの経済性そのものを扱うTokenomics Foundation。

Linux FoundationのAI関連Foundation(2026年)
2026年2月
エージェント規格の標準化団体を発足
MCP(Anthropic)やAGENTS.md(OpenAI)を収容
2026年3月
AI生成バグ報告への防御に1250万ドルの助成金
OSSを守るAkritesに助成金
2026年7月
AIエージェント向け決済規格が正式稼働
Coinbase開発のx402プロトコルをLinux Foundation傘下に
2026年8月
AIコストの標準化団体を正式発足
30社の創設メンバーでTokenomics Foundation発足
※各団体はLinux Foundation傘下のプログラムとして運営。Akritesは助成金プログラム名

4つは一見独立しているが、根っこでつながっている。AIエージェントが自律的にタスクを実行し(AAIF)、その過程で決済を行い(x402)、生成したコードがオープンソースに流れ込む(Akritesが防御する)。消費したトークンのコストを測定するのがTokenomics Foundationの領域になる。

AIが経済活動の主体になる未来を、Linux Foundationはインフラの各層ごとにFoundation化している。

ジム・ゼムリン(Jim Zemlin)Linux Foundationエグゼクティブディレクターは、発表の中でこう述べている。

オープンソースは共有基盤が独占に勝ることを証明し、オープンウェイトモデルはその教訓をAIに広げつつある。だがオープンなAIの連携基盤には、オープンモデルだけでは足りない。オープンな経済学が必要だ

トークンはAI経済の商業的な単位になった。支出と価値を結びつける共通の方法だけが、まだ追いついていない。

ただ、30社のメンバーリストを見ると、トークンを大量に供給する側(フロンティアモデルの提供者)の姿がない。OpenAI、Anthropic、Google、Metaといったモデル提供者が不在のまま、消費者側だけで「度量衡」を決めようとしている。供給側の価格設定に標準が及ばなければ、測る道具はあっても交渉の材料にはならない。

度量衡を手にすることと、値札を動かすことの間には、まだ距離がある。

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