Microsoft、32GBのRAM推奨記事を全削除。8GB最適化を公式表明
Microsoftが自社の推奨から「32GB」を消した。目指すのは、8GBでも快適に動くWindows。
Microsoftが自社の推奨から「32GB」を消した。目指すのは、8GBでも快適に動くWindows。
消えた「推奨」
Microsoftが、Windows 11ゲーミングPCに32GBのRAMを推奨していた公式ドキュメントを、すべて削除した。
対象は2本ある。1本目は2025年11月にWindows Learning Center(学習センター)で公開された記事だ。ゲーマーに向けて16GBでも十分だが、32GBが「シリアスなプレーヤーにとって理想」だと述べていた。URLは現在、Learning Centerのトップページにリダイレクトされる。
2本目は5月に削除が確認されている。同じくLearning Centerに掲載されていた別の記事で、32GBを「no-worries zone」(心配無用の領域)と呼び、Copilot+ PCを購入手段として紹介していた。メモリ価格の高騰が話題になった直後に消された。
いずれもアナウンスなく、リダイレクトに置き換えられている。
DRAMが市場を変えた
背景にあるのは、2026年に入って加速したメモリ価格の高騰だ。
調査会社TrendForce(トレンドフォース)の2月時点の予測では、2026年第1四半期のDRAM契約価格が前期比で90〜95%上昇する見通しだった。実際、SigmaIntel(シグマインテル)が6月に公開した第2四半期のデータでは、LPDDR5Xがさらに89%上昇し、DDR4も最大51%値上がりしている。
原因はAIだ。AIデータセンターが大量の高帯域幅メモリ(HBM)を必要とし、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロンテクノロジーの3社がHBM製造にウエハー容量を優先配分した結果、一般消費者向けのDRAMとNANDフラッシュの供給が慢性的に不足している。
日本国内でも影響は深刻で、DDR5-5600 16GB×2枚組の価格が一時10万円近くに達した。およそ1年前の4倍前後だ。DDR4も値上がりしており、旧世代への退避すら容易ではない。円安も重なり、輸入部材の価格は構造的に高止まりしている。
この状況で「32GBが理想」と推奨し続けることは、現実的ではなくなった。
PC市場が縮んだ
メモリ価格の高騰は、PC市場全体を直撃している。
IDC(International Data Corporation)の7月の発表によれば、2026年第2四半期の世界PC出荷台数は前年同期比4.9%減の6820万台だった。9四半期連続で成長を続けてきたPC市場が、初めて前年割れに転じた。
IDCのジテシュ・ウブラニ(Jitesh Ubrani)氏は6月の分析で、PCメーカーは新しいチップとMicrosoftのより効率的なOSの組み合わせで対応するだろうと述べている。
IDCは2026年通年のPC出荷台数を11.3%減と予測しており、メモリ不足は2027年末まで続くと見込んでいる。出荷台数は減る一方で、値上がりにより市場全体の売上額はむしろ増えるという構造が生まれている。台数が減り、金額が増える。安いPCを気軽に買える時代は、当面戻ってこない。
Surfaceが8GBに戻った
Microsoftは自社製品でもメッセージを転換した。
2026年6月、Surface Pro 12インチとSurface Laptop 13インチに、8GB RAMの構成が追加された。価格はそれぞれ849ドルと949ドルからで、搭載チップは旧世代のSnapdragon X Plusだ。
この8GBモデルはCopilot+ PCの要件を満たさない。Copilot+ PCの認定には16GB以上のRAMが必要で、Microsoftは自社のAI PC基準を下回るSurfaceを自ら販売する形になった。
その直後、Surface Laptopの製品ページに新しい説明が加わった。8GBのRAMは「ブラウジング、ストリーミング、学校の課題、生産性アプリなど日常使いに最適」だという。1年近くにわたって「シリアスなユーザーには32GBが必要」と言い続けてきた企業が、8GBを「十分」と再定義した。
Windowsが痩せる
最も大きな転換は、7月31日に来た。
パヴァン・ダヴルリ(Pavan Davuluri)氏が、3月に約束した品質改善の経過報告を公開した。Windows & Devices担当の責任者である同氏は、8GB以上のPCを対象としたメモリ最適化を2026年後半の重点項目に挙げている。
Memory optimization for 8GB and above. Reducing Windows memory footprint to deliver a fast and responsive Windows experience across the PCs customers use every day.
(8GB以上のメモリ最適化。顧客が毎日使うPC全体で、高速かつ応答性の高いWindows体験を提供するため、Windowsのメモリ使用量を削減する)
具体的な手法として、メモリの割り当て方式の効率化、ネイティブUI基盤WinUI 3のチューニング、ChromiumベースのWebView2のメモリ使用量削減が挙げられている。ただ、どこまで削減されるかの数値目標は示されていない。
2025年11月 32GB推奨の公式記事を公開 Learning Centerのゲーミング向け記事 2026年2月 DRAM契約価格が前期比90〜95%上昇 TrendForce予測。第1四半期の見通し 2026年5月 32GB推奨記事の2本目を削除 「no-worries zone」の表現が批判を受けた直後 2026年6月 Surface 8GBモデルを追加、849ドルから Copilot+ PC基準(16GB)を下回る構成 2026年6月 8GBを「日常使いに最適」と再定義 製品ページの説明文を変更 2026年7月 OS自体の8GBメモリ最適化を表明 年末までの重点項目。数値目標は未公表 2026年8月 1本目の推奨記事も削除を確認 両方ともリダイレクトに置き換え済み |
Windows 11はウィジェット、検索、設定画面など多くのシステムコンポーネントにWebView2を採用してきた。WebView2はChromiumベースのブラウザエンジンで、各コンポーネントが実質的にブラウザのタブと同じ量のメモリを消費する。8GBのPCでは、アプリを1つも開いていない状態で約6GBが使用済みになるという報告もある。
Microsoftは現在、このWebView2依存を見直し、より軽量なWinUI 3への移行を進めている。Build 2026では開発者に対し、Electronやウェブラッパーではなくネイティブアプリの構築を促すセッションが複数設けられた。OSを重くしてきた設計判断を、自ら巻き戻す作業だ。
退路を断った理由
32GBの推奨を残しておく選択肢は、もうなかった。
メモリ価格は高騰し、自社のSurfaceは8GBで売り始めた。32GBを推奨し続ければ自社製品を否定することになる。推奨を下げればCopilot+ PC戦略と矛盾する。残された手段は、推奨そのものを消すことだった。
その代わりにMicrosoftが選んだのは、OSを軽くするという方向転換だ。ユーザーにメモリを買い足させるのではなく、Windows自身のメモリ消費を減らす。
ウブラニ氏が予測した「より効率的なOS」が、これだ。ハードウェアの要件を上げ続けてきた企業が、初めてソフトウェアで譲歩した。メモリ不足が2028年まで解消しない見通しの中で、Windows 11を8GBで動かすことは、もはやコスト削減の手段ではなく生存戦略になった。
ただし、具体的な数値目標も明確なスケジュールもまだない。約束は出た。あとはコードで証明する番だ。