グロキペディア、4月から編集を処理せず。3か月以上、誰にも通知なし
xAIのAI百科事典が更新を止めている。1万3000件の提案が宙に浮き、編集ログは遡って書き換えられた。
xAIのAI百科事典が更新を止めている。1万3000件の提案が宙に浮き、編集ログは遡って書き換えられた。
止まった百科事典
xAIが運営するAI百科事典グロキペディアが、現地時間4月24日を最後に記事の更新を停止している。
Lawfareのルネ・ディレスタ(Renée DiResta)氏とロナルド・ロバートソン(Ronald Robertson)氏が報じたところによると、3万4519ページ、計22万5496件の編集提案を分析した結果、直近3か月で承認・却下された修正はゼロだった。
グロキペディアは2025年10月にマスク氏がWikipediaの対抗として立ち上げたサービスで、記事の生成・編集をAI(Grok)が担う。読者はフォームから修正を提案でき、提案は「審査中」「承認」「却下」「実装済み」の段階を経て処理される。
コロンビア大学のデジタルジャーナリズム研究所(Tow Center for Digital Journalism)が公開した調査によれば、開始後の数か月は提案の処理が速く、提出から判定までの中央値は約3分だった。2025年12月には、Grokが自ら投稿する編集がユーザーの投稿を上回り、全編集リクエストの4分の3以上をAIが占めるようになっていた。
4月24日を境に、その処理が完全に止まった。ChatGPTの記事では、同日に提出された12件は当日承認されたが、翌日以降の5月・6月・7月の全提案が「審査中」のまま残っている。政治、スポーツ、エンターテインメント、どのジャンルでも同じ状態にあり、特定のトピックを避けているわけではないという。
著者らは検証のために、SpaceXのIPO(現地時間6月12日)という議論の余地のない事実をSpaceXのページに提案した。処理されなかった。他のユーザーによる同様の提案も、IPO翌日から「審査中」のまま放置されている。
グロキペディア側の自動システム「grok」と「Grok Editor」は、全編集リクエストの57.8%を占めていた。この2つのシステムが3月から4月中旬にかけて段階的に投稿を止め、4月下旬以降は提出の100%がユーザーからのものになった。それを処理する自動システムは動いていない。
現在、1万3002件の提案が未処理のまま滞留している。
書き換えられた記録
停止だけではない。編集ログそのものが信頼できなくなっている。
3月14日に百科事典全体の大規模な書き換えがあったとみられる。ユーザーの編集提案は記事本文の特定箇所(「Highlighted sections(ハイライト箇所)」)に紐づけられていたが、書き換えによってその紐づけが壊れた。
グロキペディアのログシステムは、紐づけ先を失った編集を遡って「却下」に再分類し、「Highlighted section not found」というエラーメッセージを付けた。
Tow Centerのアーカイブと突合すると、かつて「承認」と記録されていた大量の編集が、現在のサイト上では「却下」と表示されている。たとえば女優プルネラ・スケールズ(Prunella Scales)のページでは、開始直後の10件の編集がTowのアーカイブでは承認済みだったが、ライブサイトでは9件が却下と表示されている。それでいて、編集の内容自体は記事に反映されている。
承認したのに却下と表示する。内容は反映されているのにログは拒否を示す。編集の記録が後から書き変わるシステムを、監査に耐えうる仕組みとは呼べない。
ユーザーから見れば、自分の正当な修正が受け入れられたはずなのに「却下」の通知を受け取る。そのユーザーは次の提案をする気になるだろうか。
かつて編集プロセスをリアルタイムで表示していた公開フィード(grokipedia.com/live)も、1月中旬から3月初旬の間に機能を停止した。ウェブページの過去の状態を保存するWayback Machineで確認すると、1月12日時点ではフィードが稼働していたが、3月5日にはエラーページに変わっていた。
著者らはWayback Machineのスナップショットを使い、4月24日前後の約480ページを比較した。本文に変更があったページは1つもなかった。
2025年10月 約88万5000件で公開 Wikipediaの対抗として開始 2025年12月 AIの編集がユーザーを超える 全リクエストの4分の3以上をAIが占有 2026年1〜3月 ライブフィードが機能停止 1月12日稼働→3月5日にエラー 3月14日 百科事典全体の大規模書き換え 編集ログが遡って「却下」に再分類 3〜4月中旬 自動システムが段階的に投稿を停止 全リクエストの57.8%を占めていた2システムが沈黙 4月24日 編集処理が完全停止 以降の承認・却下はゼロ 4月下旬〜 1万3002件の提案が未処理で滞留 xAIからの説明なし |
置き去りにされた投稿者
グロキペディアには、小さいが熱心な投稿者コミュニティが存在する。
投稿者の半数以上が1回しか編集を提案していない一方、わずか13人のパワーユーザーがユーザー編集リクエスト全体の42.6%(約4万件)を占めている。最も活発な投稿者は4000ページにわたって8000件以上の修正を提出した。
その投稿者たちが、4月下旬から宙に浮いている。
あるパワーユーザーは6月中旬、レビューが50日以上停止していると報告した。xAIのチームメンバーと称する人物が苦情を認めたが、状況の説明はできなかったという。
Reddit(r/grokipedia、r/antiai)やXでも、編集が「審査中」のまま溜まっている、サイトのトップページから編集フィードが消えた、プロジェクトが凍結または放棄されたように見える、という投稿が相次いだ。
マスク氏は2月以降、グロキペディアについて発信していない。
閉じたシステムの代償
グロキペディアの影響はサービス単体にとどまらない。
Similarwebの推定では、グロキペディアは2026年6月に670万の訪問を記録し、世界のウェブサイトランキングで1万1022位に入っている。開始から1年に満たないサービスとしては、無視できない規模だ。
グロキペディアの内容は外部のAIシステムにも波及している。Ahrefsが2026年3月に公開した分析では、ChatGPTやGoogleのAI Modeをはじめ複数のAIサービスで約35万6000件の引用にグロキペディアの記事が出現していた。Wikipediaの約2500万件と比べれば小さいが、ゼロではない。
記事の内容は凍結され、編集記録も正確ではない。この参照先から、古い情報や不正確な情報が他のAIの回答に流れ込む可能性がある。
経歴に誤りのあるグロキペディアの人物記事を修正しようとしても、編集提案が処理されない。その誤った記述がChatGPTやGeminiの回答に引用される。修正の手段を持たない個人にとって、これは実害になりうる。
PNAS(米国科学アカデミー紀要)に掲載された研究は、Wikipediaとグロキペディアの構造的な違いを指摘している。Wikipediaでは編集履歴や差し戻し、トークページの議論がすべて公開されている。偏りは可視化され、異議を唱える仕組みがある。グロキペディアはそのプロセスを、不透明な自動執筆に置き換えた。
2026年3月には、英語版WikipediaがAI生成テキストによる記事の作成・書き換えを禁止した。44対2の投票で可決されたこの方針は、AIが生成したテキストが検証を経ずに百科事典に入り込むリスクへの、コミュニティによる回答だった。
グロキペディアの構造は対照的だ。Grokが書き、Grokが審査し、Grokが承認する。読者はフォームから修正を提案できるが、その裏側でシステムが動いているかどうかは外から判別できない。そして今、3か月以上にわたって何も動いていない。
xAIが大規模な改修を準備しているのか、プロジェクトの開発を事実上放棄したのか、外部からは分からない。ただ、AIが自律的に公共知識を生成・管理するシステムが停止しても、それを知らせる仕組みはどこにもなかった。