Osmo Pocket 4発表、米国では正規販売されず
DJIが1インチセンサー搭載ポケットジンバル「Osmo Pocket 4」を正式発表した。日本では税込7万7,660円から4月22日発売。一方で米国では正規ルートで買えない。技術と政治が、同じ製品ページに並んでいる。
DJIが1インチセンサー搭載ポケットジンバル「Osmo Pocket 4」を正式発表した。日本では税込7万7,660円から4月22日発売。一方で米国では正規ルートで買えない。技術と政治が、同じ製品ページに並んでいる。
何が新しいのか、まず事実から
Osmo Pocket 4の目玉は、4K/240fpsのスローモーション撮影と、カメラ本体に組み込まれた107GBの内蔵ストレージだ。先代のPocket 3が4K/120fps止まりだったことを考えると、スロー撮影の天井が一気に倍になった。内蔵ストレージの方は、microSDカードを差し忘れて現場に着く、というVloggerの悪夢をほぼ無効化する仕様変更と言っていい。
センサーは1インチCMOS、レンズは20mm相当F2.0で、ここは前モデルを踏襲している。ただし中身は別物で、DJIは2段分の低照度性能向上と、合計14ストップのダイナミックレンジを謳う。10-bit D-Logにもフル対応した。Pocket 3が搭載していたのは軽量版のD-Log Mで、カラーグレーディングで粘れる範囲が明確に違う。
| 項目 | Osmo Pocket 3 | Osmo Pocket 4 |
|---|---|---|
| センサー | 1インチCMOS | 1インチCMOS |
| 最大スロー | 4K/120fps | 4K/240fps |
| 内蔵ストレージ | なし | 107GB |
| D-Log | 10-bit D-Log M | 10-bit D-Log |
| バッテリー | 1,300mAh | 1,545mAh |
| 最大撮影時間 | 166分 | 240分 |
| 80%充電 | 16分 | 18分 |
日本での価格と構成はこうなっている。
Osmo Pocket 4 エッセンシャルコンボ:税込7万7,660円
Osmo Pocket 4 スタンダードコンボ:税込7万9,200円
Osmo Pocket 4 クリエイターコンボ:税込9万9,880円
クリエイターコンボにはPocket 3 広角レンズ、DJI Mic 3トランスミッター、補助ライト、ミニ三脚、キャリーバッグなどがまとめて含まれる。本格的にVlogを始めるなら、バラで買い足すより安上がりになる構成だ。エッセンシャルコンボはジンバルクランプとリストストラップを省き、価格を絞った最小構成になっている。
ハードの細かい改良が効いてくる
2インチの回転OLEDディスプレイの下に、新しいボタンが2つ追加された。ひとつはズーム専用ボタンで、4K時は1倍・2倍のロスレスズーム、1080pなら4倍まで一気に切り替えられる。もうひとつはカスタムプリセットボタンで、ジンバルモード切り替えや録画プリセットなど、よく使う機能を割り当てられる。
バッテリーは1,545mAhに増量され、Pocket 3の1,300mAhから約20%の容量増となった。DJI公称値では1080p/24fpsで最大240分、18分で80%まで充電できる。昼休みにコンセントに差しておくだけで午後の撮影分をほぼ賄える計算で、外で1日撮る人間には効く数字だ。Engadgetのレビューでは4K撮影時に約2時間半回ったという。
撮影機能の側では、ActiveTrack 7.0による被写体追尾が4倍ズーム時でも機能する点、それから動画モードでシャッタースピードを手動調整できる「低速シャッター動画」モードの追加が目立つ。後者は、ネオン街の車のテールランプを光跡として流す、といった絵作りを手のひらサイズの機材でやれるようにする機能だ。三脚に一眼を載せる代わりに、Pocket 4を片手で構えて同じ絵が撮れるとすれば、これは小さい話ではない。
本題はここから――米国では発売されない
ここまでは普通の製品発表だ。しかし今回のPocket 4には、スペック表に書かれていない重大な事実がある。米国では正規販売されない。
DJIは米Gizmodoに対し、Pocket 4を米国で発売しない理由を「認証申請が審査中のため」とメールで回答した。同じ理由で、すでにOsmo NanoとOsmo Mobile 8も米国市場をスキップしている。米Gizmodoは今回の発表を、「また一つ、涎が出るほど欲しいのに買えないDJI製品が増えた」という皮肉な見出しで報じた。
背景にあるのは、昨年末の規制決定だ。2025年12月22日、米連邦通信委員会(FCC)は「カバードリスト」に外国製ドローンと主要部品を追加した。このリストに載った機器は、FCCから新規の機器認証を受けられない。認証がなければ、新製品を米国で販売も輸入もできない。DJIは名指しされていないが、世界ドローン市場の支配的プレーヤーである以上、実質的な標的はDJIだと見る向きが多い。
カバードリスト追加の根拠は、2025会計年度の国防権限法(NDAA)だ。法律はDJIとAutel Roboticsについて、連邦機関が安全保障上の脅威でないと判定しない限りリストに載せる、と定めていた。その審査は結局、期限までに行われなかった。
「脅威ではない」と証明する機会がないまま期限切れを迎え、自動的にリスト入りが確定した――これがDJI側の言い分だ。
DJIはFCCを提訴した、が決着はついていない
DJIは2026年2月20日、カバードリスト決定の取り消しを求めて第9巡回区連邦控訴裁判所に提訴した。訴状でDJIは、FCCが「DJI製品と結びつく脅威を一度も特定していない」まま規制を発動したことを「手続き的にも実質的にも欠陥がある」と主張している。修正第5条のデュー・プロセス違反も論点に挙げた。
この裁判は数ヶ月で決着する類のものではない。弁論、判決、上訴、再審理、最高裁への上告――フル回転すれば1〜3年、短くても半年以上はかかる。その間、Pocket 4のようなDJIの新製品は、ひとつまたひとつと「米国で公式には買えないモデル」のリストに加わっていく。Avata 360ドローンが米国発売にこぎ着けたのは、FCC認証がリスト期限の34日前に降りたからだ。Pocket 4にはその猶予がなかった。
影響を最も強く受けるのは、ドローン本体を使う業界――測量、農業用散布、警察の捜索救助など――だが、Pocket 4のようなカメラ製品も同じ網の目に引っかかっている。Pocket 4はドローンではない。ジンバルカメラだ。それでも「通信機器」としてFCC認証が必要で、認証が通らなければ米国では売れない。規制の射程が製品カテゴリを超えて広がっていることが、今回の発表で改めて見えてきた。
日本ユーザーにとっての意味
日本市場から見ると、今回の発表は普通にポジティブなニュースだ。予約は既に開始され、正規販売代理店のセキドは発売日当日に東京・虎ノ門でタッチ&トライイベントを組んでいる。価格設定も興味深い。スタンダードコンボの7万9,200円は、欧州の499ユーロ(本日のレートで約9万3,000円換算)より1万円以上安い。日本ユーザーは少なくとも価格面では優遇された側にいる。
一方で、米国で売れないという状況は日本のクリエイターエコシステムにも影を落とす。YouTubeで英語のPocket 4レビューがほとんど出ない可能性があるということであり、米国発のチュートリアルやワークフロー情報が細る可能性があるということでもある。DJI製品の学習リソースは、これから数年かけて少しずつ重心を欧州・アジアに移していくことになるだろう。
米国の買い手はどうするのか。Pocket 3のときと同様、Amazon Germany経由の並行輸入が現実的な選択肢になる。ただしその場合は関税書類と保証の扱いという別の問題が降ってくる。
政策論としての「国家安全保障」と、現場での「カメラが買えない」という結果。この落差の中に、いま米国のクリエイターは置かれている。
ガジェット好きが見落とすべきでない論点
Pocket 4そのものは、カテゴリを定義したPocket 3の正統進化だ。低照度性能とスロー撮影、そしてストレージの拡充という実利的な三点セットで、Vlogの現場仕事をそのまま楽にする。6万円台〜10万円弱という価格帯で、これだけの映像品質を手のひらで得られるデバイスは依然として他に少ない。
しかし今回の発表で考えるべきは、カメラのセンサーサイズやfps値だけではない。どこで作られたかが、どこで売れるかを決める時代になった、という現実だ。製品は良くなる、しかし地図上の特定の場所からは、その製品がそもそも見えなくなる。グローバル市場という言葉が、この10年で少しずつ意味を変えていく。Pocket 4の価格表に「US」の欄がない、その一事実が現実を示している。
日本ユーザーは、普通に買える立場にいる。ただし、その「普通」が世界のどこでも成り立つ「普通」ではなくなっていることは、記憶に留めておいていい。
参照元
他参照
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