Anthropic CEOが西棟へ、ペンタゴン飛び越えた和解の道
ダリオ・アモデイが今日、ホワイトハウス首席補佐官と会う。ペンタゴンとの法廷闘争とは別レイヤーで、政治ルートの突破口が開きつつある。Mythosの重力が、誰の頭越しに意思決定を動かしているのか。
ダリオ・アモデイが今日、ホワイトハウス首席補佐官と会う。ペンタゴンとの法廷闘争とは別レイヤーで、政治ルートの突破口が開きつつある。Mythosの重力が、誰の頭越しに意思決定を動かしているのか。
ホワイトハウス西棟に入るAI企業CEO
アントロピックのダリオ・アモデイ(Dario Amodei)が今日17日、ホワイトハウス首席補佐官スージー・ワイルズ(Susie Wiles)と西棟で会談する。Axiosが関係筋の話として、ペンタゴンとの争いを解決する突破口になると報じた。
これは、2月末から続くペンタゴンとの激しい対立にとって明確な転換点だ。法廷での勝ち負けとは別の次元で、政治的な和解の線が引かれ始めている。ペンタゴンを迂回する交渉路が、今日の会談でようやく表に出た格好になる。
アモデイにとって、今年トランプ政権の高官と顔を合わせるのは 2度目。前回の相手は、自社を「サプライチェーンリスク」に指定した張本人のピート・ヘグセス(Pete Hegseth)国防長官だった。今回は政権の中枢にいる首席補佐官である。相手が変われば、会話の前提も変わる。
2月の最後通牒から始まった消耗戦
経緯を整理しておく。2月24日、ヘグセスはアモデイに最後通牒を突きつけた。2月27日金曜の夕方5時1分までに、「あらゆる合法的な目的」にアントロピックのAIを使わせるよう譲歩しろ、というものだった。アントロピックは譲らなかった。
同日、トランプ大統領はTruth Socialで連邦機関に対し、アントロピックの技術使用を即座に停止するよう指示した。数時間後にはヘグセスがX上で同社を「サプライチェーンリスク」に指定し、米軍と取引する契約業者、サプライヤー、パートナーは一切アントロピックとの商業活動を行えない、この決定は最終的なものと投稿した。
この指定は歴史的に外国の敵対的事業者に適用されてきたもので、米国企業への適用は前代未聞だった。
アントロピックは3月9日、ペンタゴンを提訴した。争点は二つの「越えられない線」だ。米国市民への大規模監視への協力拒否、そして完全自律型兵器への組み込み拒否。どちらも、同社が2021年にOpenAIから分岐して創業した時点から掲げている原則だ。
3月26日にはカリフォルニアのリン判事が予備的差止命令を出し、これらの広範な措置は政府が掲げた国家安全保障上の利益に向けられたものではなく、アントロピックへの処罰を目的としたものに見えると指摘した。ただし4月8日、ワシントンD.C.の控訴裁判所は一時差止の申立てを却下している。勝ったり負けたりの消耗戦が、今日まで続いてきた。
Mythosが政治地図を書き換えた
この膠着状態を動かしたのは、皮肉にもアントロピック自身の新製品だ。
同社は4月7日、未公開のフロンティアモデル「Claude Mythos Preview」を発表した。このモデルは主要OS・ブラウザのほぼすべてでゼロデイ脆弱性を自律的に発見し、エクスプロイトまで作成できる。27年間OpenBSDに潜んでいたバグや16年物のFFmpeg欠陥を掘り起こす能力を、社内評価で示している。
危険すぎるという判断から一般公開はされず、「Project Glasswing」という枠組みで、AWS、Apple、Google、Microsoft、NVIDIA、JPMorgan Chase、Cisco、CrowdStrike、Broadcom、Linux Foundation、Palo Alto Networksなど、米国の基幹インフラを支える12社に限定提供された。
Axiosが引用した交渉関係者の発言が、この状況の政治力学を的確に表している。
新モデルがもたらす技術的飛躍を米政府自ら手放すのは、途方もなく無責任な判断になる。それは中国への贈り物になってしまう。
同じ記事のなかで、別の政権高官はもっと直接的にこう述べている。すべての情報機関はアントロピックを使っている。省を除けば、あらゆる機関が使いたがっている。エネルギー省は中国による送電網への攻撃を気にしている、だからアントロピックを欲しがる。
エネルギー省、財務省、CISA(サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)、情報機関群——民間インフラを守る責任を負う連邦機関から、Mythosへのアクセスを求める圧力が強まっていた。Mythos発表に先立つ時期には、バンス副大統領とベセント財務長官がアモデイ、イーロン・マスク(xAI)、サム・アルトマン(OpenAI)、スンダー・ピチャイ(Google)、サティア・ナデラ(Microsoft)らを集めた電話会議を開き、AIモデルのセキュリティと対応策を議論していたとCNBCが報じている。
さらに4月7日、Mythosの発表当日には、ベセントとFRB議長ジェローム・パウエル(Jerome Powell)がシティグループ、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックスのCEOを財務省本部に急遽呼び集め、Mythosがもたらすサイバーリスクへの備えを確認した。Mythos発表と同日の緊急会合——この連動は偶然ではなく、政権の金融インフラ防衛ラインが明確にMythosを軸に回り始めた徴候だ。
その後4月14日にはベセントがWSJのイベントで、Mythosについて米国のAI優位性を保つ「革命的な一歩」と評し、米国は対中国で3〜6か月先行していると述べた。サプライチェーンリスク指定を受けた企業の最新モデルを、同じ政権の財務長官が公然と称賛する——この捻れこそが、今のワシントンでアントロピックが置かれている特異な立ち位置を示している。
製品の能力が、政治の配線を書き換えたのだ。
ペンタゴンと政権の温度差
興味深いのは、ここにきてトランプ政権のなかでも温度差が露骨になってきたことだ。
ホワイトハウスとは進展がある。戦争省(Department of War)との進展はない。
これは匿名の政権高官の発言としてAxiosが報じた言葉だが、関係の形を端的に示している。ペンタゴンとアントロピックの紛争は、政権内部でさえ「もはや非生産的だ」と見る向きが出てきている。
一方、アントロピックはペンタゴンを提訴したのとほぼ同じ3月9日、ボラード・パートナーズ(Ballard Partners)というトランプ陣営に深いコネクションを持つロビー会社を起用した。しかも、このボラード・パートナーズには今日会うワイルズ自身が以前在籍していた。司法の場と政治の場、二方向で同時に攻める——そう読み取れる戦略配置が、今日の会談で一つの結実を見せる。
ただし、これを単純な勝利の物語として描くのは早計だ。アントロピックは依然としてペンタゴン関連の契約からは締め出されたままで、サプライチェーンリスクの指定自体はまだ生きている。今日の会談はあくまで和解に向けた扉を開く行為であって、扉の向こうに何があるかは誰にも確定できない。
問われているのは「AI企業と国家の距離」
この一件全体を貫いている問いは、結局のところ「どこまでAI企業が自社製品の使途を決められるか」という統治の問題だ。
ペンタゴンの立場は、私企業が政府のAI利用条件を一方的に決めるべきでない、というものだ。アントロピックの立場は、大量監視と自律兵器だけは譲れない赤線であり、そこは最初から譲るつもりがなかった。両者とも、一定の論理的筋は通っている。
しかし、今起きているのは、その論理闘争とは別のレイヤーで、Mythosという具体的な製品の能力が「無視できない実存的な非対称性」を生み出し、政権の非ペンタゴン勢力がアントロピックを守りに動かざるを得なくなっている、という現象だ。守るべきは企業ではなく、企業が持っている能力そのもの。これは、これまでのテック企業と政府の関係とは違う種類の構造に見える。
AIがここまで強力になると、企業と国家の力関係は、契約や規制だけでは整理しきれない領域に入っていく。今日のワイルズとの会談は、その新しい地形のごく一部を覗かせるに過ぎない。けれど、その断片からも読み取れるものは少なくないはずだ。
西棟の扉が閉まったあと、誰がどんな顔をして出てくるのか。続報を待ちたい。
参照元
他参照
- CNBC - Vance, Bessent questioned tech giants on AI security before Anthropic's Mythos release
- Bloomberg - Bessent Calls Anthropic's Mythos a Breakthrough in AI Race Against China
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