アメリカ

建国250年。アメリカが忘れた哲学者の警告

アメリカ

建国250年。アメリカが忘れた哲学者の警告

2026年7月4日、アメリカは建国250周年を迎えた。全米が祝賀ムードにある一方で、この国の基盤に何が起きているのかを問い直す論考が出ている。メイン大学のロバート・A・バリンゴール(Robert A. Ballingall)准教授が注目したのは、三権分立の父として知られるモンテスキューの「忘れられた自由論」だ。 聖書の次に引用された哲学者 1787年の憲法制定会議で、フランスの哲学者モンテスキューは聖書に次いで多く引用された。ジェームズ・マディソンは彼を「常に参照され引用される神託」と呼んだ。1760年から1805年にかけてのアメリカの政治著作で、彼より頻繁に言及された著者はいない。 歴史家フォレスト・マクドナルドによれば、アメリカの共和主義者たちはモンテスキューの教説を「教理問答のように暗唱できた」。 三権分立の提唱者としてモンテスキューは広く知られている。立法・行政・司法の三権を異なる機関に分け、権力の集中を防ぐ。日本の読者にとっても中学校の教科書で馴染みの深い概念だろう。 バリンゴール氏が発表した論考は、三権分立よりも深い層にあるモンテスキューの自由論に焦点を当ててい

ゲーミングPCが隣室からの銃弾を遮断 米国で報告された事例

PC

ゲーミングPCが隣室からの銃弾を遮断 米国で報告された事例

真夜中、大きな衝撃音とともに顔に降りかかる強化ガラスの破片で目が覚める。何が起きたのか分からないまま部屋を見回すと、デスクの上のゲーミングPCが破壊されている。壁には穴。枕の下からは、変形した弾丸が見つかった。 壁を貫いた一発 米国の掲示板Redditに投稿されたこの体験談が、PCコミュニティで大きな反響を呼んでいる。 Neighbour shot my PC through the wall by u/angelbabyzz in pcmasterrace 投稿者のangelbabyzz氏によると、深夜、轟音とガラスの破片で目を覚ました。混乱のさなか、隣人の女性が泣き崩れながら駆けつけてきた。彼女の説明は「飼い犬が誤って銃を暴発させた」というものだった。 弾丸は壁を貫通し、ゲーミングPCを直撃していた。PCはangelbabyzz氏が眠るすぐ隣に置かれていた。angelbabyzz氏によれば、警察はPCが弾道を逸らしたと説明したという。PCがなければ弾は就寝中の本人に命中していた、と。 メモリが弾丸を受け止めた 投稿された写真を見ると、被害の中心はマザーボード

H-1Bビザ10万ドル手数料、連邦判事が差し止め

移民政策

H-1Bビザ10万ドル手数料、連邦判事が差し止め

昨年9月、トランプ政権がH-1Bビザ申請に課した約1,600万円の手数料が、連邦判事によって違法と判断された。課税権は議会にのみある、という憲法の原則が政権の移民政策に直撃した。 「これは税だ」 2026年6月8日、ボストンの連邦地裁でレオ・T・ソロキン(Leo T. Sorokin)判事が42ページの判決文を出した。結論は明快だった。 政権が導入した手数料は 税 であり、議会の承認なしに大統領が課すことはできない。 それまで雇用主に課されていた10万ドル(約1,600万円)の上乗せ手数料は、その根拠ごと無効とされた。判決は全国に効力を持つ。 H-1Bビザ申請費用と実績 項目数値旧手数料(上限)5,000ドル新手数料10万ドル(約1,600万円)旧比の倍率最大20〜50倍年間発給枠(通常)6万5,000件実際の支払い件数85件(2月15日時点) もともとH-1Bビザの申請費用は1件あたり2,000〜5,000ドルほど。それが昨年9月の大統領布告一本で20〜50倍に跳ね上がった。トランプ氏は「H-

Amazonの配達ドライバー39万人は誰の「従業員」なのか

労働問題

Amazonの配達ドライバー39万人は誰の「従業員」なのか

Amazonの荷物を届けるドライバーたちは、Amazonの制服を着て、Amazonのルートを走り、Amazonのアプリで管理されている。しかしAmazonは、彼らを自社の従業員だと認めたことがない。 連邦政府が用意した「答え」は、なぜ消えたか 米国で2年近く続いた画期的な訴訟が、事実上の幕引きを迎えた。 全米労働関係委員会(NLRB)がAmazonの「共同雇用主」責任を問う訴訟を進めていた。5月、行政法判事のラミレス(G. Rebekah Ramirez)氏がNLRBの法律顧問とAmazonの間で成立した和解を承認した。Amazonが支払うのは、対象ドライバー最大84人に対する2週間分の給与、総額約25万ドル(約4,000万円)。時価総額約2.65兆ドル(約424兆円)の企業にとっては、端数にもならない金額だ。 そして何より重要なのは、Amazonが 「共同雇用主」であるという認定も、不当労働行為の認定も 一切含まれていないことだ。 この訴訟は、Amazonの配達モデルの根幹を揺るがしかねないものだった。もし「共同雇用主」の判断が確定すれば、全米で約39万人のラストマイル配

グリーンカード「国内申請」廃止へ、トランプ政権が政策転換

移民

グリーンカード「国内申請」廃止へ、トランプ政権が政策転換

合法的に在米中の外国人でも、永住権を取得するには原則として一旦帰国しなければならなくなる。数十万人規模の申請者を直撃する、移民政策の根幹が変わろうとしている。 申請ルールが変わる グリーンカード(米国永住権)の申請方法が、大きく転換しようとしている。 米国移民局(USCIS)は2026年5月21日、政策メモ「PM-602-0199」を発行した。その内容は端的に言えば、「在米申請(adjustment of status)は原則廃止、国外での領事審査を標準とする」というものだ。これまで数十年間、合法的なビザで米国に滞在しながら永住権を申請する「在米身分調整」の手続きは、多くの外国人にとって事実上の標準ルートだった。 2024年だけで、約82万件以上のグリーンカードが在米申請(adjustment of status)で承認されている。この規模の申請者が影響を受けうるルール変更だ。 グリーンカード取得経路の推移(FY2014–2024) 在米申請(国内) 国外申請(領事館) ※FY2

トランプ大統領、AI安全審査の大統領令を直前撤回

AI

トランプ大統領、AI安全審査の大統領令を直前撤回

署名式の数時間前、「文言が気に入らない」と突然の延期。その言葉の裏に、矛盾を抱えた政権の本音が透けて見える。 署名式はセッティング済みだった 2026年5月21日の午後、ホワイトハウスでは大統領令の署名式が予定されていた。招待状も送付済みだった。 だが数時間前、ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は報道陣にこう告げた。「内容のいくつかの点が気に入らなかった」。「中国にも世界中の誰にも勝っている。その優位を損なうようなことはしたくない」とも述べた。 署名が見送られたのは、AIモデルの公開前に政府が安全審査を行う仕組みを定める大統領令だった。中心的な仕組みは、AIフロンティアモデルの開発企業が公開の14〜90日前にモデルを政府へ提出し、安全保障とサイバーセキュリティの観点から審査を受けるというものだ。 国家サイバー長官室(Office of the National Cyber Director)、NSA、財務省などが評価機関として列挙されており、NSAはモデルの機密評価を、財務省は金融や医療などの重要インフラ向けにAIの脆弱性情報を共有する枠組みを設ける計画だ

ディープフェイク画像の48時間削除義務が始動、米国の新法に賛否

セキュリティ

ディープフェイク画像の48時間削除義務が始動、米国の新法に賛否

AIが作った性的な偽画像を「報告から48時間以内に削除」しなければ巨額罰則。被害者が長年訴えてきた仕組みがついて動き出した。ただし同じ法が、誰かの投稿を消す道具に使われる可能性も専門家は指摘している。 削除義務が発効した日 2026年5月19日、米国で「テイク・イット・ダウン法」(TAKE IT DOWN Act)の核心部分が動き始めた。SNSや動画・画像共有サービスに対し、本人の同意なく公開された性的な画像や映像を「報告から48時間以内に削除する」義務を課す規定だ。違反した場合、1件あたり最大 5万3,088ドル(約838万円)の民事制裁を連邦取引委員会(FTC)が科すことができる。 この法律は2025年5月19日にトランプ大統領が署名して成立しており、プラットフォームには準備のために1年間の猶予が設けられていた。5月19日がその期限だ。FTCはこの日をもって取り締まりを正式に開始した。 何が義務になるのか 対象は「NCII(Nonconsensual Intimate Imagery)」と呼ばれる非同意性的画像全般だ。実際に撮影・録画されたものだけでなく、AIやソフト

テキサスの小さな郡が、データセンター建設を1年止めた

AI

テキサスの小さな郡が、データセンター建設を1年止めた

ダラスの南、人口8千人の町に8件のデータセンター計画が押し寄せた。ヒル郡は権限がないと知りながら建設禁止を可決し、判事はこう言った。「訴えられるだろう」。 訴訟を覚悟のうえで、郡は建設を止めた データセンターの建設を1年間止める。テキサス州ヒル郡の郡委員会が、その決定を下している。可決は5月12日、賛成3・反対2の僅差だった。 注目すべきは、決定の内容よりも、決定したときの空気のほうだ。郡を率いるシェーン・ブラッセル(Shane Brassell)判事は、賛成票を投じながら「訴えられるだろう」と口にしている。違法かもしれないと分かったうえで、それでも止めた。郡政府がこういう振る舞いをするのは、めったにあることではない。 ヒル郡はダラス・フォートワースの南、車で1時間ほどの農村地帯にある。ここに、最大8件のデータセンター計画が同時に持ち込まれた。多くは自前の発電所を併設する構想で、対象地はどれも 千エーカー規模 。郡全体が、データセンターと発電所で埋まりかねない数字だ。 凍結が適用されるのは、市に属さない「非法人地域」に限られる。ヒルズボロのような町の中ではなく、郡が直接管理

米国民7割がAIデータセンターに反対、原発より嫌う

AI

米国民7割がAIデータセンターに反対、原発より嫌う

自宅の近くに建ててほしくないものリストの上位に、AIのための巨大施設が滑り込んできた。原子力発電所より嫌われる位置に。これは少数の活動家の声ではなく、米国民7割の総意だ。 「裏庭にデータセンターは要らない」が多数派になった 米調査会社Gallupが2026年5月13日に公表した世論調査で、米国民の71%が「自宅の近くにAIデータセンターを建設することに反対」と答えた。うち48%は「強く反対」と回答している。 賛成はわずか4分の1で、「強く賛成」はたった7%だった。 数字の異常さは、比較対象を並べると一段はっきりする。同じ調査で「自宅の近くに原子力発電所を建てること」への反対は53%だった。AIデータセンターは原発より 18ポイント も嫌われている計算になる。 Gallupが原発の同じ質問を始めた2001年以降、原発反対の最高値は 63% 。AIデータセンターはその記録すら超えてしまった。 調査は2026年3月2日から18日にかけて、全米50州とコロンビア特別区に住む18歳以上の成人1000人を対象に電話で実施された。標本誤差はプラスマイナス4ポイント。Gallupがこの設

金融アドバイスが政治化する時代、フィンフルエンサーが変えた常識

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金融アドバイスが政治化する時代、フィンフルエンサーが変えた常識

TikTokで若い弁護士が「今年は連邦所得税を払わない」と宣言し、数百万再生を叩き出している。お金の話は、いつの間にか政治的な立場表明の舞台になっていた。 税金の不払いが「声明」になった日 「こんにちは、レイチェルです。今年、連邦所得税は払いません」。そう切り出す弁護士のTikTok動画が、2026年に入って数百万回再生されている。投稿主のレイチェル・コーエン(Rachel Cohen)は、ざっと8,800ドル(約140万円)分の納税を拒否する理由として、連邦移民政策への反対と「軍産複合体」への異議を挙げた。 4月15日、彼女は視聴者にこう報告している。申告書自体は提出した。ただし納付するはずだった金額は、高金利の普通預金口座に移した。動画の締めくくりは「逮捕されるかどうか、お楽しみに」。 これは一人の突飛な行動ではない。ザ・カンバセーション(The Conversation)に寄稿したバージニア大学のマクシミリアン・ブリヒタ(Maximilian Brichta)によると、「税金ストライキ」や「納税抵抗」と題した動画は、TikTok上で延べ数百万人に視聴されている。