テキサスの小さな郡が、データセンター建設を1年止めた
ダラスの南、人口8千人の町に8件のデータセンター計画が押し寄せた。ヒル郡は権限がないと知りながら建設禁止を可決し、判事はこう言った。「訴えられるだろう」。
訴訟を覚悟のうえで、郡は建設を止めた
データセンターの建設を1年間止める。テキサス州ヒル郡の郡委員会が、その決定を下している。可決は5月12日、賛成3・反対2の僅差だった。
注目すべきは、決定の内容よりも、決定したときの空気のほうだ。郡を率いるシェーン・ブラッセル(Shane Brassell)判事は、賛成票を投じながら「訴えられるだろう」と口にしている。違法かもしれないと分かったうえで、それでも止めた。郡政府がこういう振る舞いをするのは、めったにあることではない。
ヒル郡はダラス・フォートワースの南、車で1時間ほどの農村地帯にある。ここに、最大8件のデータセンター計画が同時に持ち込まれた。多くは自前の発電所を併設する構想で、対象地はどれも 千エーカー規模 。郡全体が、データセンターと発電所で埋まりかねない数字だ。
凍結が適用されるのは、市に属さない「非法人地域」に限られる。ヒルズボロのような町の中ではなく、郡が直接管理する農地や原野が対象になる。建設中の案件は除外され、健康や安全に影響しないと郡が判断すれば、途中で解除される余地も残されている。
止めたというより、「立ち止まる時間を確保した」というほうが近い。
「住民が、助けてくれと言っている」
なぜ郡は、訴訟リスクを承知で踏み込んだのか。ブラッセル判事の言葉が、その理由を一番はっきり示している。
知事や州議会に盾突くつもりはない。でも、私の住民たちは今まさに助けを求めて懇願している。私にはこれ以外の手段がない。
判事が「これ以外の手段がない」と言うのには、制度上の裏付けがある。テキサスの郡政府は、原則として「ゾーニング(土地利用規制)」の権限を持たない。何をどこに建てるかを郡が決める仕組みが、そもそも用意されていない。建築規制も、公共安全と洪水対策に関わる限られた範囲しか手が出せない。
データセンター事業者は、この空白地帯を正確に突いてきた。規制が緩い農村部を狙えば、市の厳しい審査もゾーニングもかわせる。郡委員会の一人は、事業者の動きを「速すぎて追いつけない」と表現している。
火曜の委員会には数十人の住民が詰めかけた。井戸の水位がすでに下がっている、井戸を掘り直すか使うのをやめるかの選択を迫られている。そんな声が次々と上がった。発電所建設中の写真が添えられた今回のニュースは、その切迫感を伝えている。
夜空が見えなくなるのを心配する人もいた。提案された施設から約335メートルの場所に住む男性は、裏のポーチから星が見える暮らしを失うのか、と問いかけたという。データセンターの議論が、最後は「どんな土地で生きたいか」という話に行き着いた瞬間だった。
水をめぐる「中間のどこか」
住民の懸念で最も大きいのは、やはり水だ。ブラッセル判事は、議論が極端な二択に陥っていると指摘している。
事業者は「家のトイレ1個分しか水を使わない」と言う。反対派は「水を全部使い果たす」と言う。真実はその中間のどこかにある。けれど、その中間がどこなのかを、誰も知らない。1年の凍結は、その「実際の数字」をつかむための時間でもある。
数字の不在は、ヒル郡だけの問題ではない。テキサス大学オースティン校の研究者は、データセンターの水使用が州全体の水供給に占める割合について試算を出している。今年は1%未満だが、2040年には最大9%に達しうるという。州の製造業全体(7%)を上回る規模だ。あくまで推計であり、産業の成長度合いによって幅は大きい。
ヒル郡が1年かけて調べようとしているのは、交通量、環境影響、緊急対応の能力。自分の郡の地面で何が起きるかを、推計ではなく実測で知ろうとしている。
反対は、党派を越えて広がっている
ヒル郡の決定を「一つの農村の話」で終わらせると、見えなくなるものがある。データセンターへの反発は、もはや党派を選ばない。
ミズーリ州のある小さな町では、市議会がデータセンターを承認したことに住民が怒り、先月の選挙で再選を狙った現職4人全員を落選させた。ノースカロライナ州では、知事がデータセンター向けの売上税免除が州に年間5700万ドル(約88億円)の負担をもたらしていると問題視している。民主党が率いる地域でも、共和党が率いる地域でも、同じ反発が出てくる。
数字も、その空気を裏付けている。3月に実施された世論調査では、回答者の71%が「データセンターの近くには住みたくない」と答えた。 48%は強く反対 している。同じ調査で原子力発電所への反対は53%。アメリカ人は今、原発よりもデータセンターを嫌っている。
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