量子コンピュータ

シリコン量子プロセッサが自律で誤り訂正。HRL、Natureに発表

量子コンピュータ

シリコン量子プロセッサが自律で誤り訂正。HRL、Natureに発表

室温の制御装置なしで量子コンピュータの誤り訂正を完結させるシステムが、初めて実証された。 配線の壁 量子ビットの数が増えるほど、それを制御するための信号線と外部電子機器が膨張する。 現在の研究室では、大型ラックに積まれた電子機器から何千本ものケーブルを冷凍機の中の量子ビットへ引き込むのが一般的だ。冷凍機の内部は宇宙空間より低い温度に保たれている。だが外から伸びるケーブルが熱を持ち込み、量子ビットの状態を乱す。 量子ビットが数十個の段階ではこの力業で何とかなる。だが数百万個が必要とされる実用機では、物理的に破綻する。 HRL Laboratoriesが現地時間7月29日にNatureへ掲載した論文は、この問題に対する具体的な回答を示した。 冷凍機の中で完結する制御 HRLが開発したのは、量子ビットチップ、極低温CMOSコントローラ、超伝導リボンケーブルの3つを一体化した量子処理装置(QPU)だ。 核になるのはカスタム設計の制御チップで、約マイナス268℃(4ケルビン)の冷凍機内部で動作する。通常のCMOSプロセスで製造されているが、消費電力が極めて低いため冷凍機の中に

ノートPCが「量子超越」を覆した2026年、量子コンピュータの現在地

量子コンピュータ

ノートPCが「量子超越」を覆した2026年、量子コンピュータの現在地

2026年は国連が定めた国際量子科学技術年にあたる。量子コンピュータをめぐる期待と現実の距離が、この1年半で急速に変わり始めている。 量子超越はどこへ行ったのか 2019年、Googleは量子プロセッサSycamoreが古典的なスーパーコンピュータで1万年かかる計算を200秒で終えたと発表した。量子コンピュータが古典コンピュータに対して圧倒的な計算能力を示す「量子超越(quantum supremacy)」の実証とされ、世界的なニュースになった。 ところが2026年5月、その前提を揺るがす論文がScienceに掲載された。 サイモンズ財団フラットアイアン研究所とボストン大学の研究チームが、量子コンピュータでしか解けないと主張されていた数百量子ビットの相互作用シミュレーションを、古典コンピュータで解いてみせた。テンソルネットワークと呼ばれる数学的圧縮技術と、1980年代の「ビリーフ・プロパゲーション(belief propagation)」アルゴリズムを組み合わせた手法だ。 驚くべきは、初期計算の一部が個人用のノートPCで実行されたという点にある。スーパーコンピュータですらな

Microsoft、重要製品の暗号を2029年までに量子耐性へ移行

セキュリティ

Microsoft、重要製品の暗号を2029年までに量子耐性へ移行

量子コンピュータが既存の暗号を破る日は、もう「遠い将来」ではない。Microsoftが現地時間6月30日、重要な製品とサービスの暗号を2029年までにポスト量子暗号(PQC)へ切り替えると発表した。同じ6月にホワイトハウスも大統領令で連邦政府の移行期限を設定しており、PQCは備えの段階を終えて期限つきの実装作業に入った。 2029年という期限の意味 Azure CTOのマーク・ルシノビッチ(Mark Russinovich)氏が公式ブログで発表した。Microsoft Quantum Safeプログラム(QSP)のタイムラインを前倒しし、重要な製品とサービスを2029年までにPQCへ移行する。PQCへの対応要件は、同社のセキュリティ強化プログラムセキュア フューチャー イニシアティブ(SFI)にも組み込まれる。 従来、Microsoftは組織にPQCへの備えを促しつつも、具体的な移行期限は示していなかった。今回初めて年限を切った。 Microsoftだけではない。6月に入ってから、PQCをめぐる期限の設定が各所で同時に動いた。 ホワイトハウスは6月22日、大統領令14409

米国、量子コンピュータの開発加速と暗号移行を同時に命令

量子コンピュータ

米国、量子コンピュータの開発加速と暗号移行を同時に命令

量子コンピュータを国家事業として造り、同時に量子コンピュータから国を守れ。トランプ大統領が6月22日に署名した2本の大統領令は、同じ技術の「攻め」と「守り」を一つのパッケージにまとめた、率直に言って野心的な文書だ。 「造る」と「守る」を束ねた理由 量子コンピュータは、従来のコンピュータが数千年かかる計算を短時間で解く可能性を持つ。創薬、新素材開発、気候モデリング、金融最適化。恩恵のリストは長い。だが同じ計算能力は、今のインターネットを支える暗号をも破壊しうる。銀行取引、軍事通信、個人情報。デジタル社会の安全は、量子コンピュータがまだ「十分に強力でない」という事実の上に載っている。 この二面性に対し、米国はこれまで「開発促進」と「暗号防御」を別々の政策文書で扱ってきた。2018年の国家量子イニシアチブ法は開発側、2022年のバイデン政権NSM-10は防御側。今回の2本同時署名は、両者を初めて一つの政策判断として結びつけた。 背景には、中国の量子分野への集中投資がある。そしてもう一つ、量子コンピュータの性能向上によって「暗号が破られる日」(Q-Day)の推定時期が繰り上がり続けて

量子コンピュータが暗号を破る日。その時計は確実に早まっている

量子コンピュータ

量子コンピュータが暗号を破る日。その時計は確実に早まっている

量子コンピュータが「いつか来る未来の技術」だった時代は終わりつつある。商用化の兆しと暗号解読の脅威が同時に加速している。問題は「来るかどうか」ではなく「いつ来るか」に移り、その「いつ」が、ここ1年で大きく前倒しされた。 「2030年までに商業利用」。楽観と冷笑のあいだで 大手テクノロジー企業、スタートアップ、各国政府が、2030年までに商業的に有用な量子コンピュータの実現に賭けている。医薬品、金融、暗号通貨に大きな影響があるとみられる一方、懐疑論者は誇大広告だと警告する。 数字は楽観を裏づけている。マッキンゼーが2026年4月に公開した第5回「Quantum Technology Monitor」によると、量子コンピューティングの導入に取り組む企業は世界で300社を超えた。量子コンピューティング企業の売上高は2025年に10億ドル(約1600億円)に達し、2028年には44億ドル(約7000億円)まで伸びると予測されている。2035年までに最大2兆7000億ドル(約430兆円)の経済価値を生むとの試算もある。スタートアップへの民間投資は2025年に126億ドル(約2兆円)を記録

量子コンピュータ9社に20億ドル、米政府が株式も取得

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量子コンピュータ9社に20億ドル、米政府が株式も取得

米商務省が量子コンピュータ関連企業9社に総額 20億ドル(約3200億円)を投じる。補助金ではなく株式取得を条件に据えた異例の直接出資で、IBMはこの機を捉えて米国初の量子専業ファウンドリー設立に動いた。 9社への配分と株式取得という条件 2026年5月21日(現地時間)、商務省は量子コンピューティング関連企業9社と意向表明書(LOI)を締結した。根拠は2022年のCHIPS・科学法の研究開発枠。各社への資金提供の条件として、政府が少数・非支配持分を取得する。 最も大きい配分はIBMで10億ドル(約1600億円)、次いで半導体ファウンドリーのグローバルファウンドリーズ(GlobalFoundries)が3億7500万ドル(約600億円)。上場している D-Wave Quantum、Rigetti Computing、Infleqtion は各社約1億ドル。スタートアップのDiraqは約3800万ドルだ。Atom Computing、PsiQuantum(サイクォンタム)、クオンティニュアムへの個別配分額は現時点で公表されていないが、各社約1億ドルとの報道も出ている。 対象9社