海底データセンター、中国が本格稼働させた

サーバーを海に沈め、海水で冷やし、洋上風力で動かす。Microsoftが撤退したこの分野で、中国が商用施設を立ち上げた。

海底データセンター、中国が本格稼働させた

サーバーを海に沈め、海水で冷やし、洋上風力で動かす。Microsoftが撤退したこの分野で、中国が商用施設を立ち上げた。


海底に沈んだ2000台のサーバー

上海・臨港新片区の沖合約10キロメートルの海底で、約2000台のサーバーが稼働している。中国が「世界初」と称する、洋上風力発電で動く海底データセンターだ。

運営する海兰云(HiCloud Technology)は、親会社の海兰信(Highlander)が2020年に設立した海底データセンター専業の企業。2025年6月に臨港新片区の行政委員会および上海臨港投資ホールディングとの三者協定を結び、同年10月に第1期の建設を完了した。2026年2月の試験運用を経て、先週、全面的な商用稼働に入った。

投資額は約16億元(約2億2600万ドル、約359億円)。総電力容量は24MWで、第1期のデモ施設2.3MWから段階的に拡張する計画になっている。

サーバーは耐圧密封型のモジュールに収められ、水深約10メートルの海底に設置されている。洋上風力タービンに隣接する配置で、電力の約95%を洋上風力から直接調達する。

なぜ海の底なのか

データセンターにとって、冷却は電力消費の最大の敵だ。陸上の一般的な施設では、冷却だけで全消費電力の40〜50%を使う。AI時代のGPUラックは1本で数百キロワットを食い、ほぼ全量が熱に変わる。冷却の負担は増す一方だ。

海底データセンターでは、周囲の海水がそのまま巨大なヒートシンクになる。海兰云の設計では、198基のラジエーター付きラックに海水を循環させ、冷却にかかる電力比率を10%以下に抑えた。

中国情報通信研究院との共同評価によれば、従来の陸上施設と比べて総消費電力は 22.8% 削減。水の使用量はゼロ、土地利用は90%以上の削減になる。データセンターのエネルギー効率を示すPUE(電力使用効率)は 1.15以下 で、中国政府が2025年に定めたグリーンデータセンター基準の1.25を大きく下回り、世界の大手ハイパースケーラーの平均と比べても高い水準にある。

PUEは「データセンター全体の消費電力 ÷ IT機器の消費電力」で算出される指標。1.0に近いほど効率が高く、冷却や照明など非IT部分の電力消費が少ないことを意味する。

Microsoftが撤退した道を、中国が進む

海底にデータセンターを沈めるアイデアは中国が最初ではない。Microsoftが2013年に始めたProject Natickが先駆けだった。

2018年、スコットランド・オークニー諸島沖の水深35メートルに855台のサーバーを沈め、約2年間の無人運用を実施した。結果は興味深い。陸上に配置した135台のうち8台が故障したのに対し、水中の855台では故障はわずか6台。故障率にして約8分の1だった。

密封環境に不活性窒素ガスを充填し、温度変動の少ない海水に囲まれることで、サーバーの寿命が延びる。技術的にはうまくいった。

だがMicrosoftは2024年6月にProject Natickの終了を公表した。理由は経済性とメンテナンスの問題だ。密封された耐圧カプセルの中にあるサーバーを修理・交換するのは、コストも時間もかかる。

実験としては成功でも、商用展開には課題が多すぎた。Microsoftはその後、Project Natickで得た知見を液浸冷却など陸上施設の改善に応用する方針を示している。

中国が選んだ「力業」

海兰云が直面する課題も基本的には同じだ。塩水環境での腐食対策にはガラスフレークを含む特殊コーティングを施している。だが耐圧カプセル内の機器を現場でアップグレードする手段は、Microsoftと同じく限られている。

それでも中国が踏み込んだ背景には、国策としてのAI計算基盤整備がある。上海市は2027年までにAIクラウド産業の規模を2000億元(約3兆1800億円)に拡大し、計算能力を200EFLOPSに引き上げる目標を掲げている。臨港新片区はその拠点のひとつだ。

既に中国電信のGPUクラスターや、地元のクラウドサービス事業者であるLinkWiseの計算クラスターが稼働しており、ビッグデータのアノテーションや国産大規模言語モデルの開発に使われている。海兰云は将来、500MWの大規模海底データセンターの構想も示している。

海は万能の冷却装置ではない

課題がないわけではない。

英ハル大学の海洋生態学者アンドリュー・ウォント氏は、海底データセンターからの継続的な排熱が海洋環境に与える影響について十分な研究がないと指摘する。海兰云はデモフェーズでの独立評価で温度変化が許容範囲内だったと主張するが、24MWから500MWへのスケールアップとなれば話は変わる。

海上データセンターへの挑戦は中国だけの話ではない。ピーター・ティール氏が出資するスタートアップのPanthalassaは、波力発電で動く洋上データセンターを開発中。サンフランシスコのAikido Technologiesは、洋上風力タービンの脚部にデータセンターを組み込む設計で、2026年末にノルウェー北海でのプロトタイプ稼働を計画している。

調査会社Dell'Oro Groupのアレックス・コルドビル氏は、海兰云の展開を「概念実証型のデモ、あるいはマーケティング施策に近い」と評している。海底データセンターが大規模に経済合理性を持つかどうかは、まだ証明されていない。

「世界初」の意味

海兰云は、海南島沖で2022年12月から中国初の商用海底データセンターを運用している。今回の上海プロジェクトは、洋上風力発電との直結という要素が加わった点で「世界初」を名乗る。

Microsoftは技術的成功と商業的断念を同時に残した。中国は国家資本と政策目標を背景に、Microsoftが手放した道を商用化へと押し進めている。

ただし、独立した検証はまだ少なく、500MW構想の実現性も見通せない。海底データセンターが本当にAI時代のインフラになるのか。答えが出るのは、もう少し先になりそうだ。


参照元:

中国特集:中国が世界初の風力発電式水中データセンターを完成させる


海底データセンター, 海兰云, HiCloud, 洋上風力発電, データセンター冷却, PUE, 上海臨港, Project Natick, Microsoft, AI計算基盤, 海水冷却, 中国AI, グリーンコンピューティング

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