Windows 11最強の防御、メモリの「嘘」で崩壊。物理アクセス不要

あなたのPCに刺さっているメモリが、Windowsに嘘をついている可能性がある。その嘘を突けば、Microsoftが「管理者権限でも破れない」と約束した防壁が、スクリプト1本で消し飛ぶ。

Windows 11最強の防御、メモリの「嘘」で崩壊。物理アクセス不要

あなたのPCに刺さっているメモリが、Windowsに嘘をついている可能性がある。その嘘を突けば、Microsoftが「管理者権限でも破れない」と約束した防壁が、スクリプト1本で消し飛ぶ。


ネットのジョークが、現実の攻撃になった

「RAMをダウンロードする」というインターネットの古典的なジョークがある。2004年にAppleのフォーラムで「メモリをどこからダウンロードできますか」と真顔で質問した人がいて以来、技術に疎い人を揶揄するネットミームとして20年以上生き延びてきた。

そのジョークの名前を、セキュリティ研究者が攻撃手法の正式名称に使った。

バーミンガム大学とダラム大学の研究チームが、2026年USENIX Security Symposiumで「Download More RAM」と名付けた攻撃を発表した。Distinguished Paper Award(最優秀論文賞)を受賞している。

攻撃の要点はこうだ。メモリモジュール(DIMM)には、PCに「自分は何GBのメモリか」を申告する小さな設定チップが載っている。このチップに書き込み保護がない製品が、市場に大量に出回っている。

攻撃者はソフトウェアからこのチップを書き換え、PCに「実際の2倍のメモリが載っている」と思い込ませる。すると本来存在しないアドレス空間が出現し、それが実在するメモリ領域の「分身」になる。OSもプロセッサも気づかない裏口が、メモリの中にできあがる。

従来の同種の攻撃は、ドライバーを手にPCの筐体を開ける必要があった。この攻撃に必要なのは、スクリプトだけだ。

バーミンガム大学サイバーセキュリティ教授、トム・チョシア(Tom Chothia)氏はそう述べた。物理アクセスが不要になった時点で、攻撃のスケーラビリティがまったく変わる。1台のPCに忍び込んだマルウェアが、リモートで防御を崩壊させられる。


崩れたのは、Windowsの「最後の砦」

この攻撃が深刻なのは、Windowsの周辺的な防御ではなく、最も強固な防御を破るからだ。

Windows 11には、VBS(Virtualization-based Security、仮想化ベースのセキュリティ)という仕組みがある。ハイパーバイザーと呼ばれる仮想化層の中に「セキュアカーネル」を隔離し、通常のOSカーネルが乗っ取られても機密情報は守られる、というMicrosoftの看板技術だ。Windows 11がTPMやSecure Bootを要件にしたのも、この防御を成立させるためだった。

研究チームはメモリの分身を使い、そのセキュアカーネルの内部を読み書きすることに成功した。VBSだけでなく、HVCI(Hypervisor Enforced Code Integrity、ハイパーバイザーによるコード整合性保護)も突破されている。

Windowsは強い約束をしている。管理者権限を持つ攻撃者ですら、セキュアカーネルには触れないと。しかしその約束は、メモリが自分自身について正直であるという前提の上に成り立っていた。市場に出回っているメモリの多くは、正直である必要がない。

バーミンガム大学助教のマリウス・ミュエンチ(Marius Muench)氏はそう指摘する。Microsoftが築いた防壁は、その足元にあるハードウェアの信頼性を検証していなかった。

攻撃で実証された被害

研究チームは、メモリの分身を利用して以下を実演した。

過去にマルウェアやランサムウェアで悪用されブロック済みだった数百の脆弱ドライバを、再び有効化できた。ウイルス対策ソフトやEDR(Endpoint Detection and Response、端末の挙動を常時監視するセキュリティソフト)を無効化し、検知を回避できた。VBSエンクレーブに保存されている機密情報を読み取れた。企業のグループポリシーで厳格にロックダウンされたPCを侵害できた。カーネルレベルのゲーム用アンチチート機能も、検知フックを無効化して回避できた。

しかも、研究チームはこれら一連の工程をワンクリックで自動実行するスクリプトも作成している。メモリの分身を作り、再起動し、アンチウイルスを無効化する。ユーザーの操作は一切不要だ。大規模な自動化攻撃キャンペーンに転用できる状態にある。


あなたのメモリは該当するか

影響範囲は、ニッチな製品の話じゃない。

研究チームが市販のDDR4・DDR5メモリモジュールを調査したところ、Corsair、G.Skill、ADATAの3社が、少なくとも1つの製品ラインで設定チップの書き込み保護を一切施していないことが判明した。JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council、半導体技術の業界標準団体)のガイダンスに反する状態だ。

この3社は、ハイパフォーマンス消費者向けメモリ市場の約55%、ゲーミングセグメントでは70%超を占める。自作PCやゲーミングPCのメモリとして、最も選ばれているブランドだ。

RAMの設定ミスは元々、信頼性の問題だった。しかしこの攻撃は、悪用の経路がベンダーに見えていなくても、安全機能を導入し検証することの重要性を示している。MicrosoftのVBSは、自分が立っている地面の脆さに気づいていなかった。

筆頭著者のサム・コリンズ(Sam Collins)氏(バーミンガム大学、研究員)は、問題の構造をそう表現した。

メモリベンダー別 SPD書き込み保護の状況
ベンダー保護備考
保護なし(攻撃対象)
Corsair×iCUEで後付け保護が可能
G.Skill×一部ラインは部分保護あり
ADATA×対策ツール未提供
部分保護あり(攻撃ブロック可)
Crucial部分的な書き込み保護を実装
KingstonHyperXブランド含む
G.Skill一部ラインのみ
※保護なし3社はゲーミングメモリ市場の70%超を占める。HWiNFOを使えばCorsair以外の製品にもSPD書き込み保護を適用できる

一方、Crucial、Kingston、HyperX、およびG.Skillの一部ラインは部分的な書き込み保護を実装しており、この攻撃をブロックできる。1社の中でも、製品ラインによって安全性が分かれる。


対策は存在する。ただし条件付き

Microsoftは研究チームからの事前通知を受け、CVE-2026-23670を割り当て、2026年4月のセキュリティ更新で緩和策をリリースしている。Secure Bootが有効なマシンは、現在の形態の攻撃から保護される。

ただし、Secure Bootが無効なマシンは依然として脆弱だ。研究チームはSecure Bootの有効化を推奨している。

ハードウェア側の対策

メモリベンダーも動き始めている。今回の攻撃で悪用されたメモリの設定チップは、SPD(Serial Presence Detect)と呼ばれる。Corsairは自社のiCUEソフトウェアに、このSPDの書き込み保護を事後的に有効化する機能を追加した。ハードウェアレベルで穴を塞ぐ措置だ。

さらに無料ツールのHWiNFOも同様の機能を実装し、Corsair以外のメモリモジュールにも書き込み保護を適用できるようにしている。一部のマザーボードは、BIOSの設定でメモリ設定チップへの書き込みをブロックするオプションを提供している。

対策を整理すると、OSではSecure Bootの有効化と最新のWindows更新プログラムの適用、ハードウェアではiCUEやHWiNFOによるSPD書き込み保護の有効化、またはBIOSでの書き込みブロックが推奨されている。

Microsoftが見落としたもの

チョシア教授は、Microsoftがこの攻撃経路を完全に見落としていたと述べている

VBSの設計思想は合理的だ。CPUの仮想化機能を使い、OSカーネルからも隔離された安全な領域を作る。理論上は、管理者権限すら突破できない。Windows 11がTPM 2.0やSecure Bootを必須要件にして批判を浴びてまで導入したのは、この防御を機能させるためだった。

だが、その防御は「メモリが正直である」という前提に立っていた。メモリモジュールの設定チップが改ざんされる可能性を、設計に織り込んでいなかった。

ミュエンチ氏の言葉を借りれば、下位レイヤーが侵害されれば、上に積み上げたすべてが崩れる。Microsoftが築いた精巧なセキュリティアーキテクチャの足元に、メモリベンダーが放置した保護なしの設定チップがあった。

信頼の連鎖の弱さ

セキュリティの世界では、信頼の連鎖(Chain of Trust)という概念がある。ハードウェアからファームウェア、ブートローダー、OS、アプリケーションへと、下から上に信頼を積み上げていく構造だ。Secure Bootはこの連鎖の一部を担っている。

今回の攻撃は、その連鎖の最も下層(メモリモジュールが自己申告する情報)が検証されていなかったことを突いた。JEDECのガイダンスは書き込み保護を推奨していたが、強制ではなかった。コストや利便性(オーバークロック設定の書き込みなど)を理由に、保護を省略するベンダーが少なくなかった。

結果として、Windows 11の最も強い防御は、メモリチップの設定値を無条件に信じるところから始まっていた。


メモリが嘘をつく時代

自分のPCのメモリが該当するか、確認する価値はある。Corsair、G.Skill、ADATAのメモリを使っているなら、iCUEやHWiNFOでSPD書き込み保護の状態を確認し、有効化できるか試す。Secure Bootが有効かも確認する。Windows 11の「デバイスセキュリティ」からコア分離の状態を見れば、VBSとHVCIが動作しているかわかる。

技術的には、Microsoftのパッチとベンダーの対応で現在の形態の攻撃は塞がれつつある。だが、研究チームが示した構造的な問題は残る。OSのセキュリティが、ハードウェアの自己申告を信じて成り立っている点は変わらない。

「RAMをダウンロードする」は、20年間ジョークだった。メモリは物理的な部品であり、ソフトウェアで増やせるはずがない。しかし、設定チップの内容をソフトウェアで書き換えることで、OSに「メモリが増えた」と信じ込ませることは、できてしまった。

ジョークが現実になったとき、笑えなかったのはMicrosoftだけではない。

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