AIへの不信感、原発より嫌われるデータセンター。米国で「反AI」が選挙を動かし始めた

ピュー・リサーチ・センターの最新調査でアメリカ人の52%がAIに「期待より不安」と回答。データセンター反対運動は全米に拡大し、共和党がAI企業に異例の警告メモを送る事態に発展している。

AIへの不信感、原発より嫌われるデータセンター。米国で「反AI」が選挙を動かし始めた

ピュー・リサーチ・センターの最新調査でアメリカ人の52%がAIに「期待より不安」と回答。データセンター反対運動は全米に拡大し、共和党がAI企業に異例の警告メモを送る事態に発展している。


数字が示す「嫌われるAI」

AIの性能は上がり続けている。だが、使う人の印象は悪化し続けている。

ピュー・リサーチ・センターが2026年6月22〜28日に実施した調査によると、AIの普及に対して「期待より不安が大きい」と答えたアメリカ人は52%に達した。2021年の37%から15ポイント上昇している。「期待のほうが大きい」と答えた人はわずか9%で、2021年の18%から半減した。

AIへの態度(米国成人)2021〜2026年
不安同等期待
202137%45%18%
202238%46%15%
202352%36%10%
202451%38%11%
202550%38%10%
202652%37%9%
※「不安」=期待より不安が大きい、「同等」=同程度、「期待」=期待のほうが大きい。無回答は含まず。ピュー・リサーチ・センター調査(2026年6月22〜28日実施)

注目すべきは若年層の変化だ。18〜29歳で「不安が大きい」と答えた割合は55%に達し、初めて過半数を超えた。2021年には31%だった。かつてAIに最も前向きだった世代が、今では30〜40代と同程度の警戒感を示している。

雇用への懸念も深まっている。AIが今後20年で雇用を減らすと考えるアメリカ人は71%に上る。2024年の64%から7ポイント上昇した。18〜29歳に限ると73%で、2年前の61%から12ポイント跳ね上がっている。

5月のエコノミスト誌とYouGovの共同調査では、AIの発展速度が「速すぎる」と答えた人が全体の71%。18〜29歳でも64%がそう答えた。年齢に関係なく、速度そのものへの不安が広がっている。

原発より嫌われる施設

この不信感がはっきり形になったのが、データセンター反対運動だ。

ギャラップが2026年3月に実施した調査で、自宅近くへのAIデータセンター建設に反対するアメリカ人は71%に達した。強く反対が48%、やや反対が23%。原子力発電所の建設反対は53%であり、データセンターのほうが嫌われている。

近所への建設に反対する割合(2026年3月)
※ギャラップ調査(2026年3月2〜18日、米国成人1,000人対象)

ギャラップがデータセンターについて調査したのはこれが初めてだが、気候・エネルギー専門メディアHeatmapが2025年に実施した調査では賛成43%、反対42%でほぼ拮抗していた。わずか9か月で世論が大きく反対側に傾いた。

反対の理由は具体的だ。ギャラップが別途実施した自由回答調査では、反対派の半数が水やエネルギーなど地域資源への負荷を挙げた。生活の質への懸念や電気料金の上昇も上位に入っている。データセンター賛成派が挙げる最大の理由は雇用創出だが、巨大な建物にサーバーが並ぶだけのデータセンターは工場ほど人を雇わない。賛成派の中でも、グローバル競争力を理由に挙げた人はわずか3%にとどまった。

反対運動は法的な力を持ち始めている。全米で120以上の自治体がデータセンター建設のモラトリアム(一時停止措置)を提案し、2026年1〜3月だけで少なくとも75件、総額1,300億ドル規模のプロジェクトが遅延または中止に追い込まれた。ニューヨーク州知事キャシー・ホークル(Kathy Hochul)氏は現地時間7月14日、大規模データセンターの新設を1年間停止する全米初の行政命令に署名した。

選挙を動かす「反データセンター」

政治の世界では、データセンターが選挙の争点として浮上している。

共和党の上院選挙対策委員会(NRSC)は現地時間8月19日までに、AI企業の幹部に宛てた内部メモを送付した。Axiosが入手したこのメモの表題は「オハイオ データセンター・リスク」。オハイオ州の上院補欠選挙で、データセンターへの反感が共和党現職のジョン・ヒューステッド(Jon Husted)上院議員の足を引っ張っていると警告する内容だった。

メモにはこう書かれている。ヒューステッド氏の対抗馬である民主党のシェロッド・ブラウン(Sherrod Brown)元上院議員は、データセンターを選挙戦の「事実上の対立候補」に仕立てている。Fox Newsの世論調査(8月6〜10日実施)では、ブラウン氏が8ポイントのリード。2024年にトランプ大統領が11ポイント差で制したオハイオ州で、この差は大きい。

NRSCのメモは、AI企業に対して「データセンターの恩恵を住民に説明し、認識を変える」よう求めた。そして警告を加えた。ヒューステッド氏が敗北しデータセンターが原因とみなされれば、全米の政治家がデータセンター誘致から距離を置くようになると警告している。

オハイオ州だけの話ではない。ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ(Josh Shapiro)知事(民主党)は現地時間8月18日、データセンター開発に厳格な基準を課す行政命令に署名した。開発事業者は、電力コストを住民に転嫁しないこと、環境保護基準を満たすこと、地元の承認を得ることを法的に約束しなければ、州の許認可審査すら始まらない。全AIデータセンター計画を優先許可プログラムから除外し、開発に関する機密保持契約の使用も禁止した。シャピロ知事は2028年の大統領選への出馬が取り沙汰されており、データセンター規制は政治的にも追い風になる。

アリゾナ州ではケイティ・ホッブズ(Katie Hobbs)知事がデータセンターへの税制優遇を3年間停止する予算に署名。シアトル、デンバー、オクラホマシティなどの大都市でも建設モラトリアムが相次いでいる。

コストを払うのは誰か

消費者がAIに反発している理由を、AI業界の一部は「説明不足」だと考えている。AIの恩恵を正しく伝えれば、人々は理解するはずだという発想だ。

Airbnbのブライアン・チェスキー(Brian Chesky)CEOは最近のポッドキャストで、AIへの反発は現実のものだと認めた。業界が「普通の人」が喜ぶ製品を出していないことが原因だという。

Anthropicのダリオ・アモデイ(Dario Amodei)CEOは現地時間8月15日、Xへの投稿でより踏み込んだ認識を示した。投資家のギャビン・ベイカー(Gavin Baker)氏が「アモデイ氏のAIリスクに関する警告が反発を煽っている」と批判したのに対し、アモデイ氏はこう反論した。

普通の人は企業も政府もテック業界も信用していない。自分たちを搾取する新しい方法を考え出しているのだろうと、常に疑っている

アモデイ氏はこの状況を「信頼の危機」と呼んだ。そして、AI企業への最も正確な批判は、世界を良くするという大きな約束をまだ果たしていないことだと述べた。がんを治すと約束するだけでは決まり文句にすぎず、実際にがんを治すことが必要だと述べた。

消費者の不信は、抽象的な恐怖から来ているわけではない。メールにもテレビにも検索にも、頼んでもいないのにAI機能が入ってくる。学校ではAIがカンニングの手段になっている。AIが著作権のあるアート、動画、音楽、文章を学習データに使っていることも広く知られるようになった。

AIの恩恵は将来の約束として語られるが、コストは今すぐ届く。電気料金の上昇、水資源の消費、雇用への不安。恩恵が見えない人にとって、約束は約束でしかない。

「普及」と「受容」は別のものだった

シリコンバレーには暗黙の前提があった。テクノロジーは普及すれば受け入れられる。iPhoneがそうだったように、パソコンがそうだったように、インターネットがそうだったように。

AIは確かに普及した。だが受け入れられなかった。

ピュー・リサーチの調査が示す5年間の推移は、使えば使うほど不安が増す構造を映し出している。普及と受容を同一視した前提が崩れたとき、残るのは数千億ドルの設備投資と、それを歓迎しない社会だ。

若い世代が「レトロテクノロジー」に向かっている兆候がある。ガラケー、フィルムカメラ、カセットテープ、CDプレーヤー。アルゴリズムもAIも入っていないiPod classicがeBayで高値で取引されている。編み物やジグソーパズルのような手作業の趣味が急速に広がっている。対面の集まりやランニングクラブが、マッチングアプリより選ばれている。

テクノロジーへの反発がテクノロジーそのものの拒絶に向かうのか、それともAI業界が約束を果たすことで信頼を取り戻すのか。アモデイ氏の言葉を借りれば、答えはマーケティングの中にはない。

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