GoogleとSpaceX、軌道データセンターで協議
GoogleとSpaceXが、AI計算用のデータセンターを地球軌道に打ち上げる協議に入っている。WSJが5月12日に伝えた。1.75兆ドル規模の上場を控えるSpaceXは、宇宙を次のAI計算の主戦場として売り込みにかかる。
ライバル同士の宇宙での合流
Googleは自社のAI計算インフラを地球の外に置こうとしている。WSJの報道によれば、SpaceXとの間で軌道データセンター向けのロケット打ち上げ契約の協議が進んでいる。Google本体も12日に「SpaceXほか複数社と、Project Suncatcherの将来の打ち上げについて話し合っている」と認めた。
ここで奇妙な再会が起きている。マスク氏とGoogleは古い因縁の関係だ。マスク氏は2015年にOpenAIをGoogleのAIに対抗する勢力として立ち上げ、自社の生成AIをGoogleやAnthropicへの牽制材料として使ってきた。そのマスク氏が今、Googleの宇宙計算インフラを請け負う側に回ろうとしている。
先週には、別の場面でも同じ構図が起きた。SpaceXは5月6日、テネシー州メンフィスのAIデータセンター「Colossus 1」の計算能力すべてをAnthropicに貸し出す契約を結んだ。マスク氏はかつてAnthropicを「西洋文明を憎んでいる」と公言し、Claudeを「人間嫌いで邪悪」と評していた人物だ。
マスク氏はX上で「彼らが人類のためにAIを善くしようと何をしているか理解するため、Anthropicの幹部と時間を過ごした。感心した。誰も邪悪検知器を作動させなかった」と書いた。
地上で戦うAI企業同士が、宇宙では同じ船に乗ろうとしている。
Project Suncatcherとは何か
Googleの軌道データセンター構想は、2025年11月にProject Suncatcherとして公表された。GoogleのCEOであるスンダー・ピチャイ氏(Sundar Pichai)が「ムーンショット」と位置づけた研究プロジェクトだ。
仕組みはこうだ。太陽光で発電する小型衛星に、Google独自のAI専用チップである TPU(Tensor Processing Unit、テンサー・プロセッシング・ユニット)を載せる。衛星同士は光通信で結び、軌道上で一つの分散AI計算クラスタとして動かす。地上のデータセンターと違って、太陽電池パネルが正しい軌道では地球上の8倍ほどの効率で発電できる。
最初の実機は2027年初頭。地球観測企業のPlanet Labsと組み、TPUを搭載した試作衛星2機を打ち上げる。Googleの研究論文では、最終的に1キロメートル四方に81機の衛星を並べる構成が想定されている。
Googleが11月にPlanet Labsを選んだ時点で、ロケット側のパートナーは明示されていなかった。今回の協議報道は、その空白が埋まりつつあることを示している。ただしGoogleは「他のロケット企業とも話している」と慎重に距離を保っている。
なぜ宇宙なのか、そして本当にペイするのか
軌道データセンターが急に話題になった背景には、地上の制約が限界に近づいているという認識がある。AIデータセンターは電力と水を大量に消費する。米国では送電網への接続待ち行列が2030年以降まで詰まり、大型施設の建設に地域住民が反発する事例が増えている。冷却用水の不足も深刻だ。
宇宙にはこれらの制約がない。地域住民もいなければ送電網との取り合いもない。冷却は真空に向けて放射するだけだ。マスク氏は「3年以内に、AIを置く最も安い場所は宇宙になる」と公言してきた。
ただし「最も安い」は現時点ではまだ嘘に近い。Varda Space Industriesの研究開発責任者であるアンドリュー・マッカリップ氏(Andrew McCalip)が公開した試算機によれば、1ギガワット級の軌道データセンターの建設費は約424億ドル(約6兆6,600億円)にのぼる。同等の地上施設のおよそ3倍だ。衛星の製造費と打ち上げ費が前払いで重くのしかかる。
「数字を正直に計算すれば、物理法則がこれを即座に殺すわけではない。だが経済性は残酷だ。一致するのは積極的な前提を置いた場合だけで、それを試せる組織は実質的に一社しかない」(マッカリップ氏の分析より)
Project Suncatcherの研究論文はこの「経済性の壁」を打ち上げコストで定義している。現在、再使用型Falcon 9で軌道に物を送るコストは1キログラムあたり約3,600ドル。Googleの試算では、軌道計算が地上と並ぶには1キログラムあたり200ドル以下まで下がる必要がある。18分の1の水準だ。
その値を出せそうな唯一の機体がSpaceXのStarship、つまり次世代の大型再使用ロケットだ。Googleが他のロケット企業を当て馬として並べていても、Project Suncatcherの計算がそもそもStarshipを前提に書かれている以上、SpaceXとの関係はほとんど構造的に決まっている。
SpaceXのIPO物語の中核に据えられた宇宙AI
時系列を並べると、なぜ今この報道が出たかが浮かび上がる。
SpaceXは2026年2月にxAIを買収し、社名を「SpaceXAI」と呼び始めた。マスク氏は4月、SpaceXのIPOを年内に1.75兆ドル(約275兆円)規模で実施する方針で機密申請書類を提出している。これは、現時点で世界最大級の新規上場となる。
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2025年
11月4日 GoogleがProject Suncatcherを発表
太陽光発電衛星にTPUを搭載し、軌道上でAI計算を行う構想。2027年初頭にPlanet Labsと試作衛星2機を打ち上げる計画。
2026年
2月2日 SpaceXがxAIを買収(1.25兆ドル)
マスク氏のAI企業を完全子会社化。AIと宇宙インフラの一体運営体制を構築。
2026年
2月12日 マスク氏がClaudeを「邪悪」と公言
AnthropicのSeries G発表(評価額3,800億ドル)に対し、X上で「misanthropic and evil」と批判。
2026年
4月1日 SpaceXがIPO申請書類を機密提出
評価額1.75兆ドル、調達額750億ドルで6月の上場を目指す。史上最大規模。
2026年
5月6日 Anthropic向けColossus 1全面貸出契約
テネシー州メンフィスのAIデータセンター(NVIDIA GPU 22万基、300MW超)の計算能力をすべてAnthropicに提供。
2026年
5月12日 Google×SpaceX 軌道DC打ち上げで協議
Project Suncatcher向けのロケット契約について両社が協議に入っているとWSJが報道。Google本体も認める。
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問題は、その評価額をどう正当化するかだ。アナリストのティム・ファーンホルツ氏らは、SpaceXの既存事業(打ち上げ、Starlink通信)の売上だけでは1.75兆ドルは説明できないと指摘してきた。残された道は、宇宙AIインフラという未来の物語を投資家に売り込むことだ。
Anthropic向けのColossus 1貸出も、Google向けの軌道データセンター打ち上げ話も、その物語の素材として並べられている。先週のAnthropicとの発表では、計算能力300メガワット超を貸し出すと同時に「複数ギガワット規模の軌道AI計算容量を共同開発する関心」も明記された。これは偶然ではない。
「これはIPO前の大きな目玉確認だ。短期的にはより信用できるビジネスにはなる。ただ、自社のGPUを貸し出すだけで自社のAIに使っていないとなると、革新企業として自社を位置づけるのは難しくなる」(TechCrunchのキルステン・コロセック氏ら)
xAIは事実上、フロンティアAIの自社開発を縮小しつつある。Grokの後継開発は停滞し、SpaceXAI内部では「いったんゼロからやり直す」とマスク氏自身が発言したとされる。社員すら他社のモデルを使っていたことが、内部の混乱の中で明らかになった。
IPOを目前にしたSpaceXにとって、ライバルだったAnthropicとGoogleへの計算貸出は事実上のニューラウド事業への転換だ。自社AIの行き詰まりを別の収益源に組み替える作業でもある。
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Googleにも事情がある。Google Cloudの2026年第1四半期売上は200億ドルを超えたが、同社自身が「容量制約で成長が抑えられている」と認めた。AI需要に対して、自社で地上に建てるデータセンターの増設速度は追いついていない。
地上で行き詰まったGoogleと、地上で持て余したSpaceX。両社の利害は、軌道という共通の逃げ場で一致する。Googleは2015年に9億ドル(約1,413億円)をSpaceXに出資した古い投資家でもある。当時の協業はStarlink向けだったが、10年越しで別の協業が形になろうとしている。
ただし2027年に飛ぶのは試作衛星2機にすぎない。ギガワット級の運用までには10年単位の時間がかかる。打ち上げコストが目標水準まで下がらなければ、軌道データセンターは投資家向けプレゼン資料の中で生き続けるだけだ。
宇宙にデータセンターを上げる話は、SpaceXのIPOの売り文句として今すぐ動いている。実際に試作機が飛ぶのは2027年で、ギガワット級が動くのは10年単位の先だ。
参照元
- TechCrunch - Report: Google and SpaceX in talks to put data centers into orbit
- Google Research - Exploring a space-based, scalable AI infrastructure system design
他参照
- TechCrunch - Why the economics of orbital AI are so brutal
- TechCrunch - We're feeling cynical about xAI's big deal with Anthropic