岬 徹

テクノロジー分野を中心に2024年からYouTubeで約3,000本の動画を制作。登録者4万5千人超、Xフォロワー1万人超、noteフォロワー千人超。AI、半導体、PC、ゲーム業界について、一次資料やデータを基に分析を続ける。

岬 徹
1996年のGIMP 0.54が2026年のLinuxで動く

オープンソース

1996年のGIMP 0.54が2026年のLinuxで動く

30年前の画像編集ソフトが、Flatpakパッケージとして現代のLinuxデスクトップに帰ってきた。GTKが生まれる前の、Motifツールキット最後のGIMPだ。 GTKが存在しなかった時代のGIMP GIMP 0.54をFlatpakに移植したプロジェクトが、GNOME.org GitLabで公開された。開発者がGNOMEの週報「This Week in GNOME #254」で紹介している。 GIMP 0.54は1996年2月にリリースされた、GIMPの最初の公開バージョンだ。開発したのはカリフォルニア大学バークレー校のスペンサー・キンボール(Spencer Kimball)氏とピーター・マティス(Peter Mattis)氏。コンパイラの授業で使っていたCommon LISPが17MBのメモリ確保に失敗してクラッシュし、「何でもいいからCで書こう」と始めたプロジェクトだった。 当時のGIMPが依存していたのはMotifツールキット。Open Software Foundationが開発した商用のGUIライブラリで、使うにはライセンス料が必要だった。Linuxユーザーの多

ワードアートを覚えているか。誰も使わないのに消えない機能の話

Microsoft

ワードアートを覚えているか。誰も使わないのに消えない機能の話

Wordの「挿入」タブの奥に、ワードアートはまだいる。虹色のグラデーション、立体の影、弧を描く文字列。1990年代に学校の課題でタイトルを飾り立てたあの機能を、今も使っている人がどれだけいるだろう。消されてもいない。廃止もされていない。ただ、誰にも開かれなくなっただけだ。 あの時間は、本文より長かった 課題の表紙を作るとき、本文より先に触るのはタイトルだった。Wordを開いて最初にやることが「ワードアートの選択」だった時代がある。 影を付ける。文字を弧に沿わせる。色を虹色に変える。3Dの角度を微調整する。中身の文章は3行で終わるのに、表紙のタイトルには30分かけた。隣の席のやつがもっと派手なエフェクトを見つけてくると、次の課題ではさらに上を狙った。あれは装飾ではなく競技だった。 Office 97で正式に搭載されたワードアート。PCが家庭に入り始めた頃の話だ。ワープロソフトが「文字を打つ道具」から「見た目を作る道具」に変わろうとしていた。プロ向けのデザインソフトなど持っていない。それでも文字に影を落とし、色のグラデーションをかけ、立体的に回転させることがワンクリックでできた。

Linuxカーネルからstrncpyが消えた。6年362コミットの結末

Linux

Linuxカーネルからstrncpyが消えた。6年362コミットの結末

C言語の標準ライブラリに含まれる関数が、Linuxカーネルから完全に姿を消した。strncpy()。文字列を指定バイト数だけコピーするこの関数は、1970年代のUNIXから受け継がれ、あらゆるCプログラマが一度は使ったことがあるだろう。だが、その挙動はバグの温床だった。 何が起きたのか 現地時間2026年6月19日、リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏がLinux 7.2のマージウィンドウでプルリクエストをマージした。strncpy()のAPI定義、5アーキテクチャ(alpha、m68k、powerpc、x86、xtensa)のアセンブリ実装、FORTIFY_SOURCEの防御コード、テストケースのすべてが削除され、19ファイルから346行が消えた。 この作業を率いたのは、Googleでカーネルセキュリティの強化に取り組むケース・クック(Kees Cook)氏だ。クック氏は2015年にKernel Self-Protection Project(KSPP)を立ち上げ、「バグを個別に潰すのではなく、バグが生まれる原因そのものを消す」という方針でカーネルの堅牢化を

「欧州2031」が描いた危機。フィクションより現実が速かった

AI

「欧州2031」が描いた危機。フィクションより現実が速かった

ブリュッセルのシンクタンクが5年後の欧州崩壊シナリオを書いた。AIで出遅れた欧州が米中に挟まれ、主権を失う。架空の未来が、公開翌日に現実に追いつかれた。 フィクションの翌日に現実が来た 欧州がフロンティアAIへのアクセスを米国に断たれる。そんな未来を描いた思考実験が6月11日に公開され、翌12日に現実になった。 「Europe 2031」と題されたこのシナリオは、ブリュッセルのシンクタンクArq Foundationを拠点に8人が執筆し、サイエンスライターのトム・チヴァーズ(Tom Chivers)が1万8000語の物語に仕上げた。主人公は欧州委員会で働く架空のフランス人職員、キャロリーヌ・デュボワ。2025年1月のDeepSeek R1公開から2031年3月まで、欧州がAI革命への対応を誤り続け、最終的に米国の保護領か中国への依存か孤立かの三択を突きつけられるまでを描く。 著者の一人はこう投稿している。「シナリオではフロンティアモデルの輸出規制は2028年の出来事だった。現実では2日で起きた」。 6月12日、米商務省がAnthropicのClaude Fable 5とMy

「AIは友だちではない」Signal代表が突きつけた問い

AI

「AIは友だちではない」Signal代表が突きつけた問い

「友だちではない。意識ある存在でもない。感覚を持った対話相手でもない」。暗号化メッセージアプリSignalの代表、メレディス・ウィテカー(Meredith Whittaker)氏がBloombergのインタビューでAIチャットボットについて語った言葉だ。ChatGPTやClaudeのプライバシーを問われての回答は、短く、率直だった。 AIを使う。でも、考えることは委ねない ウィテカー氏は、自分もAIを使うと認めている。書類のフォーマット調整くらいには手を借りる、と。ただし「質問はしない」と明言した。考えを練り、言葉を選ぶ過程を、すでにある情報の平均値を返すだけのシステムに奪われたくないからだという。 この区別は、読み流すには惜しい。 ドキュメントの整形は作業だ。一方、問いを立て、考えを巡らせ、言葉にする過程には、その人固有の判断が宿る。ウィテカー氏が引いた線は「便利さ」と「思考の主権」の境界であり、AIを全否定する立場ではない。使うが、考えることだけは渡さない。 「AIクリスマス」が意味すること 話題は、Microsoft AI CEOのムスタファ・スレイマン(Must

フアン氏の歴訪ルートは、AIの果実を食べるアジア。株と給与と金銭感覚が壊れていく

AI

フアン氏の歴訪ルートは、AIの果実を食べるアジア。株と給与と金銭感覚が壊れていく

半導体を作る国の株式市場が沸騰している。韓国、台湾、日本。タクシー運転手から小学生まで、かつてないマネーの熱狂に巻き込まれている。シリコンバレーがAIに年間100兆円超を注ぎ込む裏側で、その金はどこに着地するのか。チップを実際に作っている人々の懐だった。 数字が語る狂騒 KOSPIは2026年6月2日に過去最高値の8933を記録し、年初来の上昇率は80%を超えた。台湾の加権指数も史上最高値を更新。日本ではキオクシアホールディングスの時価総額が6月にトヨタ自動車を超え、一時は国内首位に立った。 3カ国に共通するのは、株式市場の主役が半導体に集中していることだ。KOSPIの構成比のおよそ半分をサムスン電子とSKハイニックスの2社が占め、台湾ではTSMC1社で加権指数の41%を握る。指数全体が沸騰しているように見えるが、実態は半導体セクターの爆発に指数が引きずられている。 背景にあるのは、シリコンバレーから流れ込むAI投資マネーの規模だ。アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、メタの米テック大手4社は、2026年の設備投資を合計約7250億ドル(約116兆円)と計画している。前年

Grantaが外部出版提携を全面停止。AI疑惑、決着なきまま賞が空洞化する

AI

Grantaが外部出版提携を全面停止。AI疑惑、決着なきまま賞が空洞化する

英文芸誌Grantaが、コモンウェルス短編小説賞の受賞作掲載を含む外部出版提携から全面撤退した。1カ月以上続くAI使用疑惑に決着がつかないまま、最終選考を9日後に控えた賞の運営基盤が揺らいでいる。 Granta Trust理事会が決断した 6月19日、Grantaはコモンウェルス短編小説賞の受賞作ページに声明を掲載した。Granta Trust理事会の名義で、「編集上の誠実さ」を理由に、自社が編集権限を持たない外部出版提携には今後一切関与しないと宣言している。 2012年から14年にわたって続いてきたGrantaとコモンウェルス財団の関係は、これで終わった。今年の受賞作はGrantaのサイトに残るが、来年以降の受賞作をGrantaが掲載することはない。 5月中旬からくすぶるAI使用疑惑が、この判断を動かした。カリブ地域受賞作「The Serpent in the Grove」を書いたナジール(Jamir Nazir)氏の作品にAI生成の痕跡があると指摘され、騒動は5つの地域受賞作のうち3作にまで波及した。だがGranta理事会は、どの作品がAI製かという判断には踏み込んでいな

Ubisoft共同創業者クロード・ギルモ氏、飛行機事故で逝去。69歳

ゲーム

Ubisoft共同創業者クロード・ギルモ氏、飛行機事故で逝去。69歳

クロード・ギルモ(Claude Guillemot)氏が、フランス西部での飛行機事故により亡くなった。69歳だった。 レンヌからの最後のフライト 現地時間6月19日午後、フランス・レンヌを離陸した双発のセスナ421が、大西洋岸のリゾート地ラ・ボールの飛行場付近で墜落した。搭乗していた2名が亡くなった。1名がUbisoftの共同創業者、クロード・ギルモ氏。もう1名はレンヌの飛行教官とされている。 ラ・ボール市長のフランク・ルーヴリエ(Franck Louvrier)氏によると、8人乗りの双発プロペラ機が着陸態勢に入った直後に旋回し、近くの野原に墜落した。機体は炎上し、消防隊60名が出動。ロワール=アトランティック県の消防当局SDIS 44が事故を確認した。フランス航空事故調査局BEAが技術的な原因調査を、検察当局が過失致死の捜査を、それぞれ開始している。 ギルモ氏はセスナ421の所有者だった。ラ・ボール飛行クラブのメンバーでもあり、この週末に100機以上が集まる航空イベントに参加する予定だったという。 Ubisoftは公式声明で「共同創業者であり、ギルモ・コーポレーション会長

RTX 5070を注文して届いたのは2000年代のAVレシーバー基板だった

Amazon

RTX 5070を注文して届いたのは2000年代のAVレシーバー基板だった

友人からの贈り物だった。MSI Ventus 2X GeForce RTX 5070、605ユーロ(約11万2000円)。箱の重量は正しい。封印も崩れていない。ただ、中にグラフィックボードは入っていなかった。代わりに収まっていたのは、2001年発売のKenwood VR-505(AVサラウンドレシーバー)から剥ぎ取られたロジックボードと、DVDリライターと、マウスパッド。約25年前の電子ゴミが、最新GPUの値札を背負っていた。 コミングリング終了後も止まらない Amazonで高額GPUを注文したら中身が別物だった。この手の報告はもう珍しくない。RTX 5090の箱にレンガ、RTX 5080の箱に石、RTX 5070 Tiの箱に食卓塩。被害はこの1年で何件も報告されている。 what i got sent instead of a 5070 by u/luutherr in pcmasterrace 今回の舞台はAmazon.de(ドイツ)

Zed 1.7.2、AIの文脈管理を自動化する

開発ツール

Zed 1.7.2、AIの文脈管理を自動化する

4月末に1.0へ到達したRust製エディタZedが、2か月足らずで1.7.2まで駆け上がった。週次リリースのたびにAIエージェント関連の機能が増えており、今回の目玉はエージェントとの会話履歴を自動で要約・圧縮する「オートコンパクション」の搭載だ。 コードより会話を管理する時代 AIエージェントをエディタに統合したとき、最初にぶつかる壁はコードの品質でもモデルの精度でもない。コンテキストウィンドウの枯渇だ。やり取りが長くなるほどトークンは膨らみ、上限に近づくとモデルは古い関数名を持ち出し始める。開発者は作業を中断してスレッドを立て直すか、手動で履歴を削るか、どちらにしても集中が途切れる。 Zed 1.7.2が導入したオートコンパクションは、この問題への直接的な回答だ。コンテキストウィンドウの使用量がしきい値(デフォルト90%)に近づくと、古いやり取りを自動で要約し、要約文だけをコンテキストに残す。任意のタイミングで /compact コマンドを打てば手動でも実行できる。要約内容はスレッド上にContext Compactedとして表示され、展開すれば中身を確認できる。 機能とし

オープンソースのNVKドライバがDLSSに対応。まだ実験段階だが意味は大きい

Linux

オープンソースのNVKドライバがDLSSに対応。まだ実験段階だが意味は大きい

NVIDIAのオープンソースVulkanドライバNVKが、DLSSの実行に必要なコードをMesa 26.2-develに統合した。環境変数を設定すれば、Linux上のゲームでDLSSが動く。ただし既知のバグがあり、すべてのGPUで使えるわけではない。「対応した」と「実用になる」のあいだには、まだ距離がある。 8か月かけて埋まった溝 2025年10月、Valveの開発者オータム・アシュトン(Autumn Ashton)が3日間の作業でDLSSをNVK上で動かしたと発表した。ゲーム「Control」の画面が960×540から1920×1080にアップスケールした画面がそのまま証拠になった。 DLSSの実体はCUDAカーネルの集合体だ。NVKにVK_NVX_binary_importとVK_NVX_image_view_handleという2つのVulkan拡張を実装すれば、ゲームが同梱するDLSSバイナリをGPU上で実行できる。DXVKとVKD3D-ProtonがDXVK-NVAPIを通じてこの仕組みを使い、Windows向けゲームのDLSSをLinux上で再現する。原理はシンプルだ

AIは「他者」になれるか。哲学が突きつける幸福の条件

AI

AIは「他者」になれるか。哲学が突きつける幸福の条件

AIチャットボットと友人になり、ホログラムと結婚する。笑い話ではない。もう現実だ。哲学者が問うのは、そこに本当の幸福はあるのか、という一点にある。 「親密さ」の急膨張 Replikaの累計ユーザーは4000万を超えた。Character.AIは月間2000万人が使っている。米Common Sense Mediaが2025年7月に発表した調査では、13〜17歳の米国の10代の72%がAIコンパニオンを少なくとも一度は利用し、52%が定期的に使っていた。 数字だけを見れば、AIとの「関係」はすでにニッチではない。友人、恋人、セラピスト。AIコンパニオンは求められるあらゆる役割を引き受け、24時間対応し、疲れず、怒らず、見捨てない。孤独を感じている人にとって、この摩擦のなさは強烈に魅力的だ。 だが、摩擦のない関係は関係と呼べるのか。南アフリカ・ノースウエスト大学のアンネ・H・フェルフーフ(Anné H. Verhoef)教授とエドマンド・テレム・ウガル(Edmund Terem Ugar)研究員が2026年5月に学術誌『

タクシー配車GO、886億円の上場資金でロボタクシーに賭ける

モビリティ

タクシー配車GO、886億円の上場資金でロボタクシーに賭ける

タクシーを呼べない。都心の雨の日も、地方の終電後も、アプリを開いて「付近に車両がありません」の表示を眺めた経験のある人は少なくないだろう。配車アプリGOが6月16日、東証グロース市場に上場した。2026年の国内IPO最大規模だ。公開価格2,400円に対して初値は2,910円、21%上回った。調達した886億円はロボタクシーの研究開発と、タクシー業界を軸にしたM&Aに充てるという。 運転手がいなくなる国で GOが上場資金を自動運転に振り向ける判断は、ひとつの数字から読める。 日本のタクシー運転手は、2019年の約29万人から2023年には約23万人へ、およそ20%減った。コロナ禍で高齢の乗務員が辞め、需要が戻っても人は戻らなかった。国土交通省のデータでは充足率が約80%にとどまる。足りない2割は、そのまま「乗りたいのに乗れない」体験として街に染み出している。 2024年4月に始まった日本版ライドシェアも、この穴を埋めるには至っていない。タクシー会社の管理下でしか運行できず、対象エリアも時間帯も限定される。海外のUberやLyftのような自由参入とはまるで違う。人口減少が止まらな

英国法務長官がXからの撤退を指示。暴動と偽情報が引き金に

SNS

英国法務長官がXからの撤退を指示。暴動と偽情報が引き金に

イングランド・ウェールズ法務長官のリチャード・ハーマー(Richard Hermer)氏が、法務長官府にXへの投稿を停止するよう指示した。現職の英国閣僚が省庁単位でXを離れるのはこれが初めてとなる。 「法の番人」が降りた 法務長官府のXアカウントは現地時間6月12日の投稿を最後に止まっている。それまでは政府の取り組みに関する情報を日に複数回発信していた。その発信が、突然途絶えた。 ハーマー氏は先週、職員に対しXへの投稿をやめるよう伝えたという。偽情報への対処に限って利用を認め、それ以外の投稿を停止する方針だ。 決定の直接の引き金は、6月に英国で相次いだ暴動にある。 サウサンプトンでは6月2日、ヘンリー・ノワク(Henry Nowak)氏の刺殺事件(2025年12月)をめぐる抗議が暴力に転じた。11人の警察官と1頭の警察犬が負傷し、13人が実刑判決を受けている。ベルファストでは6月8日のナイフ事件を機に大規模な反移民暴動が発生し、覆面の集団が移民の住居と信じた家屋に次々と火を放った。24人を超える住民が家を追われている。 いずれの暴動でも、事実と異なる情報がX上で広がった。