Beats Studio Buds、盗聴可能な脆弱性をAppleが修正
毎日使っているワイヤレスイヤホンが、Bluetoothの電波が届く距離にいる第三者の盗聴器に変わる。6月16日、AppleはBeats Studio Budsのファームウェアを更新し、そんな脆弱性を修正した。
Bluetooth圏内にいるだけで盗聴される
Appleが公開したセキュリティアドバイザリによると、Beats Studio Budsにはペアリング待機中にBluetooth通信圏内の攻撃者がマイクを通じて音声を盗聴できる脆弱性が存在していた。
脆弱性の識別番号はCVE-2025-20701。Appleはアドバイザリの中で「オープンソースコードに存在する脆弱性であり、Appleのソフトウェアは影響を受けるプロジェクトの一つ」と説明している。問題の根はApple独自の設計ではなく、採用しているチップのソフトウェアにある。
AppleはBeatsファームウェアアップデート1B211でこの修正を配信しており、Beats Studio BudsをiPhone、iPad、またはMacとペアリングしてBluetooth圏内に置いておけば自動で適用される。Androidの場合はBeatsアプリからアップデートできる。適用されたかどうかは、Bluetooth設定からイヤホンの情報ボタンをタップすれば確認できる。
根は1年前に見つかった「Airohaチップ問題」
この脆弱性を発見したのは、ドイツのセキュリティ企業ERNWのデニス・ハインツェ(Dennis Heinze)氏とフリーダー・シュタインメッツ(Frieder Steinmetz)氏。2025年6月、セキュリティカンファレンスTROOPERSで初めて公表した。
問題の核心は、台湾のMediaTek子会社Airoha製Bluetooth SoCにある。AirohaのSoCにはRACEと呼ばれるカスタムプロトコルが載っている。本来は工場での診断やファームウェア更新に使う内部機能だ。ところがこのRACEが、Bluetooth ClassicとBLEの両方で認証なしに外部からアクセスできる状態になっていた。
CVE-2025-20701はBluetooth Classic側の認証欠如、CVE-2025-20700はBLE側のGATTサービスの認証欠如、CVE-2025-20702はRACEプロトコル自体の持つ危険な機能に関するもの。3つを組み合わせると、攻撃者はイヤホンのRAMやフラッシュメモリを読み書きでき、ペアリング済みスマートフォンとの信頼関係を乗っ取ることすらできる。
研究者らは概念実証で、通話の盗聴、通話履歴や連絡先の取得、さらには任意の番号への発信まで成功させている。
Beats以外にも影響は広い
AirohaのSoCは完全ワイヤレスイヤホン市場で広く使われている。ERNWの調査では、ソニー(WF-1000XM5、WH-1000XM5など多数)、Bose(QuietComfort Earbuds)、JBL(Live Buds 3など)、Marshall、Jabra、Beyerdynamic、Teufelなど10社以上、少なくとも30モデル以上で脆弱性の影響が確認されている。実際に同じSoCを搭載する製品は他にも無数にあり、メーカー自身がAirohaチップの存在を把握していないケースすらある。
Airohaは2025年6月にSDKの修正版をメーカーに配布済みだ。JBLは2025年7月、Boseは同年9月にそれぞれファームウェアを修正。JabraはCVE番号をファームウェアのリリースノートに明記し、Marshall、Beyerdynamicもアップデートを配信した。
2025年3月 ERNWがAirohaに脆弱性を報告 Airohaへの連絡に2ヶ月以上を要した 2025年6月 Airohaが修正SDKを配布 TROOPERSで部分公表 2025年7月 JBLがファームウェア修正 OTA配信開始 2025年9月 Boseがファームウェア修正 QCE app v1.2.1で修正 2025年12月 ERNWがフルディスクロージャー 39C3で技術詳細とツールキットを公開 2026年6月 AppleがBeats Studio Buds修正 ファームウェア1B211を自動配信 |
一方でソニーは、研究者からの連絡に当初応答せず、公表の予定を知ってから初めて反応したと報じられている。修正ファームウェアの配信状況は製品ごとに異なるため、該当製品のユーザーはメーカーのアプリでファームウェアが最新か確認しておきたい。
Appleの対応は公表から約1年後。JBLやBoseが2025年中に修正を出したことを考えると、決して早いとは言えない。ただ、AirPodsシリーズはApple独自設計のSoCを使っており、今回のAirohaチップの問題は影響していない。あくまでBeats Studio Budsに限定された話だ。
「近づくだけ」の条件は軽くない
この脆弱性を悪用するには、Bluetooth通信圏内(おおむね10メートル以内)に物理的にいる必要がある。遠隔からインターネット越しに攻撃されるものではない。研究者自身も「実際の攻撃は技術的に複雑で、高度なスキルと物理的な接近が求められる」と述べており、現実的な標的はジャーナリスト、外交官、政治家、企業幹部など、狙う価値がある人物に限られるとしている。
それでも、「ペアリングしていないのに認証なしでマイクにアクセスできる」という設計上の欠陥は深刻だ。常に身につけ、通話にも使うデバイスだからこそ、認証の欠如は看過できない。
Beats Studio Budsのユーザーは、iPhone・iPad・Macとペアリングした状態でイヤホンをケースに入れ、充電しながらBluetooth圏内に30分以上置いておけばアップデートが適用される。他のAirohaチップ搭載イヤホンを使っている場合は、各メーカーのアプリでファームウェアの更新を確認してほしい。使っていない古いBluetoothデバイスのペアリングをスマートフォンから削除しておくことも、リスクを減らす一手になる。
参照元:About the security content of Beats Firmware Update 1B211 - Apple Support
他参照:Bluetooth Headphone Jacking: Full Disclosure of Airoha RACE Vulnerabilities - Insinuator.net(ERNW)
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