冷戦のウラン施設が1000億ドルのAIキャンパスに。専用発電4.6GW併設

冷戦のウラン施設が1000億ドルのAIキャンパスに。専用発電4.6GW併設

ケンタッキー州西部にある旧ウラン濃縮施設が、1000億ドル規模のAIデータセンターキャンパスに転用される。専用発電4.6ギガワットを併設し、住民の電気料金には「1ドルも転嫁しない」と約束した。


核兵器のための施設が、AIのための施設になる

米エネルギー省(DOE)は現地時間7月29日、ケンタッキー州西部マクラッケン郡のパデューカ施設をAIデータセンターキャンパスとして再開発すると発表した。投資規模は1000億ドル超(約16兆円)。ケンタッキー州史上最大級の民間投資になるという。

パデューカ施設はもともと、冷戦期のウラン濃縮工場だった。1950年に原子力委員会が立地を選定し、1952年に操業を開始。核兵器用の濃縮ウランを製造し、後に商業用原子炉の燃料供給にも使われた。

米国最後の政府所有ウラン濃縮施設だった。商業濃縮が終了したのは2013年5月。2014年10月にDOE環境管理局に正式返還され、それ以降は除染・解体が続いていた。

3,556エーカー(約14平方キロメートル)の敷地には500以上の施設があり、大容量の送電インフラ、水処理場、光ファイバー、道路が整備されている。70年前に核兵器のために建設されたインフラが、そのままAIの基盤になる。

パデューカ施設の70年
1950年
原子力委員会が立地選定
冷戦期にウラン濃縮工場として建設が決定
1952年
操業開始
核兵器用の濃縮ウランを製造。後に商業用原子炉の燃料も供給
2013年5月
商業ウラン濃縮が終了
米国最後の政府所有ウラン濃縮施設が操業を停止
2014年10月
環境管理局に正式返還
除染・解体が始まる
2025年7月
AIデータセンター候補に選定
DOEが4つの連邦施設をAIインフラ開発候補に
2025年11月
提案募集を発行
SMRを含む原子力技術の統合を明示的に要請
2026年7月
AIキャンパス計画を発表
1000億ドル超の民間投資。天然ガス+蓄電池で電力を自給
※DOE公式発表および連合プレスリリースに基づく

開発を担うのは投資大手ブルックフィールド(Brookfield)と電力大手ネクステラ・エナジー(NextEra Energy)。ブルックフィールドがDOEから土地をリースしてデータセンターキャンパスを開発・運営し、ネクステラが専用の発電・蓄電設備を建設・所有する。

電力供給は地元の非営利電力会社が担う。ビッグリバーズ・エレクトリック(Big Rivers Electric Power)が卸売、ジャクソン・パーチェス・エナジー(Jackson Purchase Energy Cooperative)が小売を受け持ち、地元の公営電力パデューカ・パワー・システム(Paducah Power System)もコミュニティ支援として参画する。

完成時の規模は、電力容量1.8ギガワット、コンピュート容量1.2ギガワット超。DOEの公式発表では建設完了を2031年、連合のプレスリリースでは完全稼働を2032年としている。建設期間中に約8,000人、運営開始後に600人のフルタイム雇用を見込む。

ただし、正式契約はまだ締結されていない。発表文には「正式な文書の交渉・締結が条件」と明記されており、電力供給契約はケンタッキー州公益事業委員会(KPSC)の審査・承認も必要になる。

原子力を招いたが、来たのはガスだった

注目したいのは、電力の構成だ。

ネクステラが建設する専用発電設備は、天然ガス火力2ギガワットと蓄電池2.6ギガワット。合計4.6ギガワットの発電・蓄電容量は、キャンパスの電力需要1.8ギガワットを大幅に上回る。余剰電力は地域の送電網に供給し、周辺住民の電力コスト低減にも貢献するとDOEは説明している。

DOEが2025年11月に発行した提案募集(RFO)は、閉鎖中の連邦施設の用地を民間にリースする枠組みを使い、提案者に「小型モジュール炉(SMR)を含む原子力技術」との統合を明示的に求めていた。

ウラン濃縮施設の跡地に原子力を呼び戻す。そういう構想だった。

しかし選ばれたのは天然ガスと蓄電池だった。SMRは商業運転の実績がなく、規制承認の見通しも立っていない。2031〜2032年に稼働させるという目標から逆算すれば、現時点で選べる技術は限られていた。

DOEはパデューカを含む4つの連邦施設(アイダホ国立研究所、オークリッジ保留地、サバンナリバーサイト)をAIデータセンター開発候補として2025年7月に選定しており、「American Energy Hubs」(米国エネルギー拠点)イニシアチブの一環と位置づけている。2026年3月にはソフトバンク傘下のSBエナジーがオハイオ州のポーツマス施設(同じく旧ウラン濃縮工場)で同様のプロジェクトを発表しており、パデューカはその第2弾にあたる。

「1ドルも転嫁しない」約束の重さ

ネクステラのジョン・ケッチャム(John Ketchum)CEOは、発表に合わせた声明でこう述べている。

データセンターは自前の電力を持ち込み、電力インフラの費用を自ら負担し、地元に高賃金の雇用を生む。既存顧客の電気料金に1ドルの上乗せもない(ネクステラの声明)

この言葉は、トランプ政権が推進する「料金支払者保護誓約」(Ratepayer Protection Pledge)と軌を一にしている。2026年3月にAmazon、Google、Meta、Microsoft、OpenAI、Oracle、xAIが署名したこの誓約は、データセンターの電力とインフラ費用をテック企業が全額自己負担し、一般家庭に転嫁しないことを求めるものだ。

7月23日には署名者が共和党知事23人を含む200組織以上に拡大した。ネクステラとビッグリバーズ・エレクトリックも署名者に入っている。

パデューカ案件は、この誓約が実際に機能するかどうかの最初の大型テストケースになる。

だが、誓約には法的拘束力がない。実際に料金転嫁を防げるかどうかは、KPSCの審査にかかっている。ビッグリバーズとジャクソン・パーチェスの間の電力供給契約はKPSCの監督下に置かれ、費用配分と料金設計の審査を受ける。

連邦レベルでも規制の枠組みは動いている。下院エネルギー・商業委員会は7月21日、52対0の全会一致でH.R. 9340「料金支払者保護法」(Ratepayer Protection Act)を可決した。100メガワット以上のデータセンター顧客に、発電・送電・配電の増強コスト全額と座礁コストの財務保証を負担させる基準を、各州の公益事業委員会に検討させる内容だ。

連邦エネルギー規制委員会(FERC)も6月18日、全米6つの広域送電運用機関(RTO/ISO)に対し、大口需要家向け料金規定の正当化または改革を命じる弁明命令(show-cause order)を発出している。

ケンタッキー州内でも、東ケンタッキー電力組合が2025年10月にデータセンター向け料金区分を新設し、250メガワット超の案件には個別契約と専用電源計画を義務づける規定がKPSCに承認された。一方で2026年2月に州議会に提出された「ケンタッキー州料金支払者保護法」(HB 544)は、会期最終日に廃案になっている。

データセンター電力費用をめぐる規制の動き
2025年7月
DOE、4連邦施設を候補選定
パデューカ含む4施設をAIデータセンター開発候補に
2025年10月
東KY電力組合の料金区分承認
250MW超のデータセンターに個別契約と専用電源計画を義務化
2025年11月
パデューカRFO発行
DOEが民間からの提案募集を開始
2026年2月
州法HB 544が廃案
ケンタッキー州の料金支払者保護法案、会期最終日に不成立
2026年3月
7社がRPPに署名
Amazon・Google・Meta等が料金支払者保護誓約に署名
2026年6月
FERC、弁明命令を発出
全米6つの広域送電運用機関に大口需要家料金の見直しを要求
2026年7月
H.R. 9340を全会一致で可決
100MW超のデータセンターに増強コスト全額負担の基準を検討させる法案
2026年7月
RPPが200組織超に拡大
共和党知事23人を含む署名者が大幅増加
2026年7月
パデューカ計画を発表
1000億ドル超のAIキャンパス。専用発電4.6GWを併設
※DOE公式発表および各社声明に基づく

ブルックフィールドのブルース・フラット(Bruce Flatt)CEOは、パデューカを「1000億ドルのAIインフラ投資計画の起点」と位置づけた。データセンターへの反発が全米で広がる中、連邦政府の遊休地を使い、電力を完全自給し、住民負担ゼロを約束するこの構造は、業界が探し続けてきた「摩擦のない立地」の答えに見える。

その答えが本物かどうかを決めるのは、これから始まる契約交渉と規制審査だ。

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