Cisco、AIバグ発見が生む「Mythosエフェクト」で機器更新が加速

Anthropicのバグ発見AI「Mythos」が、企業のネットワーク機器を一変させようとしている。サポート切れの機器は、もう放置できない。

Cisco、AIバグ発見が生む「Mythosエフェクト」で機器更新が加速

Anthropicのバグ発見AI「Mythos」が、企業のネットワーク機器を一変させようとしている。サポート切れの機器は、もう放置できない。


サポート切れが「即死」に変わる

CiscoのCEOチャック・ロビンス(Chuck Robbins)氏が、Q4決算説明会で聞き慣れない言葉を使った。「Mythosエフェクト」。Anthropicが開発したバグ発見AI「Mythos」が、ネットワーク機器の更新需要を加速させているという現象を指す造語だ。

Mythosは4月に発表された非公開のフロンティアモデルで、主要なOSとウェブブラウザのすべてにゼロデイ脆弱性を発見できる能力を持つ。27年間気づかれなかったOpenBSDのバグ、500万回のテストをすり抜けたFFmpegの欠陥。人が見落とし続けた穴を、AIが次々と掘り起こしている。

ロビンス氏は決算説明会で、顧客の変化を語った。

うちのCEO仲間で米国の大手メーカーを経営している人物がいる。Mythosの波が来た初期に、そのチームから電話があった。「おい、LDOS(サポート終了日)を過ぎた機器を早く入れ替えないと」と。

サポートが切れた機器にはパッチが配信されない。Mythosのようなモデルが脆弱性を大量に発見する世界では、パッチのない機器はネットワーク上の時限爆弾になる。顧客はそれを理解し始めている。


3つの波が重なる「スーパーサイクル」

ロビンス氏はMythosエフェクトを、ネットワーキングのスーパーサイクルを構成する3つの要因の一つに位置づけた。

残りの2つは量子コンピューティングへの備えと、エージェントAIの本格普及だ。量子耐性のあるネットワークか、量子耐性のある暗号化か。どちらにしても既存の機器では対応できない。エージェントAIが普及すれば、ネットワークトラフィックは従来の約 4.5倍 に膨らむとCiscoは試算している。

3つの波がひとつの方向を指している。ネットワーク機器を買い替えろ、と。

Q4のネットワーキング製品受注は前年比 40% 増。8四半期連続の2桁成長だ。AIインフラ関連の受注はQ4だけで40億ドル(約6360億円)、通期で93億ドル(約1兆4790億円)に達した。前年の約4.5倍にあたる。

Mythosの準備、AIの準備、量子の準備。これらは数年前のサイバーセキュリティ投資と変わらない。もはや選択じゃなく、必須になっている。

ロビンス氏の言葉は、IT予算の転換を示唆している。ネットワーク機器の更新費用を、ネットワーク予算じゃなくセキュリティ予算から捻出する企業が出始めているという。予算の出所が変わるということは、経営層が「これはセキュリティの問題だ」と認識し始めた証拠だ。


当事者でもあるCisco

見落とされがちな事実がある。CiscoはProject Glasswingローンチパートナーだ。AWS、Apple、Google、Microsoft、NVIDIAと並んで、Mythosを使って自社製品の脆弱性を先行的に洗い出す立場にいる。

つまりCiscoは、Mythosの脅威を語りながら、Mythosの恩恵も受けている。自社製品の脆弱性をいち早く潰せる立場にあることは、顧客に対する「うちの製品は安全だ」というメッセージにもなる。そしてサポート切れの他社製品を置き換える動機を強化する。

利益相反じゃない。だがCiscoにとって都合の良い配置であることは、頭に入れておいていい。

Mythosの登場からCisco決算まで
4月7日
Anthropic、Mythos Preview発表
主要OS・ブラウザのすべてでゼロデイ脆弱性を発見。Ciscoを含む12社がProject Glasswingに参加
5月下旬
Glasswing初期成果を公開
約50のパートナーが1万件超の深刻な脆弱性を発見。課題は修正速度に移行
7月中旬
Microsoftの内部対応が報道
Mythosが発見するバグの修正が追いつかず「急ぎの対応」に追われていると判明
8月12日
Cisco Q4決算で「Mythosエフェクト」に言及
サポート切れ機器の交換需要が加速。ネットワーク製品受注は前年比40%増を記録
※日付は現地時間。Anthropic・Cisco公式発表に基づく

決算の数字と市場の反応

過去最高の四半期

Ciscoは現地時間8月12日、2026会計年度Q4(2026年5〜7月期)の決算を発表した。Q4売上高は173億ドル(約2兆7500億円)で前年比 18% 増。通期では633億ドル(約10兆650億円)、前年比12%増。いずれも過去最高を更新した。

Q4の純利益は39億ドル(約6200億円)で51%増。CFOのマーク・パターソン(Mark Patterson)氏は、売上高・営業利益率・従業員あたり利益のすべてで「過去30年間の最高記録」を達成したと述べた。

投資家は素直に喜ばなかった

決算発表直後、株価は一時急騰した。だがその後、時間外取引で終値から約 4% 下落して落ち着いた。

好決算でも株価が下がる。Ciscoに限った話じゃなく、期待が十分に織り込まれた銘柄ではよくある光景だ。年初来で株価は50%以上の上昇を記録しており、「良い結果」はすでに価格に入っていた。

来期(FY27)のガイダンスは売上722〜734億ドル(約11兆5000〜11兆7000億円)。前年比で約15%の成長を見込んでいる。

Cisco FY26 Q4決算の主要指標
実績前年比
Q4(2026年5〜7月期)
売上高173億ドル
(約2兆7500億円)
+18%
純利益39億ドル
(約6200億円)
+51%
ネットワーク
製品受注
+40%
AIインフラ受注40億ドル
(約6360億円)
通期93億ドル
(前年比約4.5倍)
通期(FY26)
売上高633億ドル
(約10兆650億円)
+12%
純利益133億ドル
(約2兆1100億円)
+30%
※Cisco公式IR発表(現地時間2026年8月12日)に基づく。円換算は1ドル≒159円

AIで自社も変わる

ロビンス氏は決算説明会で、Cisco社内のAI活用にも言及した。社内AIアシスタント「Circuit」はQ4だけで 7500万件 のプロンプトを処理した。FY26を通じて、14万5000件のサポートケースが人の介在なしにAIだけで解決されたという。

Circuitは当社のSecure AI Factory基盤上で動作し、GPUの使用効率を改善しながら、各タスクを適切な大規模言語モデルに自動で振り分けている。

Ciscoの規模で1四半期に7500万プロンプトという数字は、社内AIが「実験」から「業務基盤」に移行したことを意味する。AIを売りながら、自らAIの効果を数字で示す。この一貫性は顧客への説得材料になる。

Mythosが変えるのは市場か、それとも常識か

CiscoにとってMythosエフェクトは追い風だ。サポート切れ機器の交換需要が増え、セキュリティ予算がネットワーク投資に流れ込む。決算の数字は、その追い風がすでに吹き始めていることを示している。

だが「Mythosエフェクト」という言葉の射程は、Ciscoの四半期決算より広い。AIがソフトウェアの脆弱性を大量に発見する時代が来たとき、サポート切れの機器だけが問題になるのか。サポート中の機器でも、パッチの適用が追いつかなければ結果は変わらない。

Mythosが突きつけているのは、「パッチを当てれば安全」という前提そのものへの疑問かもしれない。

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