マリオ映画が批評家43%で興収1位、宮本茂も困惑

マリオ映画が批評家43%で興収1位、宮本茂も困惑

批評家は43%で酷評、観客は89%で絶賛。日本未公開のまま、『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』は2026年の世界興行収入トップに立った。この乖離は誰の問題なのか。


批評家43%、観客89%。同じ映画を見ている

『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』の興行成績が、2026年の映画業界でひとつの異常値になっている。

全世界累計7億5,581万ドル (約1,202億円)。4月23日時点のデータで、公開からわずか3週間あまりでこの数字に到達した。2026年の世界興行収入ランキングで独走の1位だ。しかも、この数字にはまだ本国・日本の興行が含まれていない。映画は4月24日、つまり明日ようやく日本で公開される。

同じ映画を、しかし批評家と観客はまったく別の作品のように評価している。

Rotten Tomatoesの批評家スコアは43%。「腐っている(Rotten)」判定だ。一方で観客スコアは89%の高評価を維持し、CinemaScoreは「A-」。数字の距離感が広すぎて、同じ作品の話をしているのか疑わしくなるほどの乖離だ。

Variety誌のオーウェン・グレイバーマンは、前作について「近年屈指の傑作アニメのひとつ」と評した上で、続編について「最悪の部類」と切り捨てた。一方で観客レビューには「マリオ40年の歴史を祝う作品」「ブラザーズの絆とコスミックな驚きに満ちた傑作」といった感想が並ぶ。
批評家と観客、マリオ映画2作品の評価ギャップ
批評家 観客
ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー(2026年)
批評家
43%
観客
89%
ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(2023年)
批評家
59%
観客
95%
出典:Rotten Tomatoes(2026年4月23日時点)。両作品とも批評家と観客のスコアに大きな乖離があるが、続編では批評家スコアが16ポイント下落している。

北米でのオープニング興行は1億3,170万ドルを記録し、2026年最大のデビュー成績となった。観客は口コミで膨らみ、批評家は失望を綴り続ける。2023年の前作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(批評家59%/観客95%/世界興行13億6,000万ドル)でも同じパターンが見られたが、今回は批評家スコアがさらに下がり、断絶がより鋭くなった。

『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』国別興行収入トップ10
米国・カナダ 全世界興行の47.9%を単独で占める
$361.8M
海外市場 トップ9
2
メキシコ
$49.5M
3
英国
$38.1M
4
ドイツ
$30.0M
5
オーストラリア
$24.0M
6
スペイン
$17.4M
7
イタリア
$15.0M
8
中国
$14.7M
9
フランス
$12.8M
10
コロンビア
$9.8M
出典:Box Office Mojo(2026年4月23日時点、単位は百万ドル)。全世界累計7億5,581万ドルのうち、米国・カナダが47.9%を占める。海外トップ9はメキシコを基準に棒の長さを比較。日本は4月24日公開のため、この時点では未計上。

「とても不思議」宮本茂の戸惑い

日本公開を前に、任天堂の宮本茂が合同インタビューに応じた。海外での批評家の反応をどう見ているかという問いに、宮本茂は控えめに言っても困惑気味の答えを返している。

確かに状況がとても似ていますね。じつは前作の評論家の方たちの意見は一理あるなと思っていたんです。ただ、今回は違うだろうと思っていたら、前回よりも厳しくて。映画業界をもっともっと盛り上げようと思って、他ジャンルから入ってきてがんばっているのに、映画業界を盛り上げる人たちが消極的だったというのは、とても不思議ではあるんですけれども。

盛り上げる人たち」という表現には、引っかかる人もいるだろう。批評家の仕事は映画業界を盛り上げることではない。むしろ逆で、作品を冷静に解剖して足りない点を言語化することだ。宮本の言葉は、40年間ゲーム業界で「誰もが楽しめる娯楽」を作り続けてきた人間の、ある種の無邪気な本音とも読める。

ただ、この困惑は任天堂の創業者の口から出たからこそ注目されるが、同じ戸惑いは世界中のスタジオ幹部が抱えている感情でもあるはずだ。興行は絶好調、レビューは最悪。この2つは本当に矛盾しているのだろうか。

批評家が指摘していること

批評家の論点は、実はかなり具体的で一貫している。

ニューヨーク・タイムズのアリッサ・ウィルキンソンは「フラットで空虚な無が広がっている」と書いた。IndieWireのウィルソン・チャップマンは「命のないアクションフィギュアを叩きつけ合っているようにしか感じられない」と評した。Slant Magazineは「派手で過剰で、緩くつながったコメディとアクションのビートが色と情報量の洪水で押し寄せてくる」と述べる。

批判はほぼ一点に収束している。ストーリーの希薄さと、ゲームへのファンサービス(イースターエッグ)に依存しすぎているという構造的問題だ。Bleeding Coolは「ゲーム要素の映画への統合が、今回はさらに雑になっている」と指摘する。

つまり批評家は「これは映画として機能していない」と言っているのであり、観客は「マリオ40年の歴史を祝う体験として最高だ」と答えている。両者は噛み合っていない。お互いに別の評価軸で別の質問に答えている。

それでも、この乖離が今作で特異なわけではない。マーベル作品、DC作品、ディズニーの実写リメイクなど、IPベースの大型作品で同じ現象が繰り返されてきた。評価の分断は、作品固有の問題というより、映画をめぐる文化的な地殻変動の症状だ。

日本興行が持つ意味

宮本茂のもうひとつの発言に、個人的には注目している。

本作の日本語版は、英語版を翻訳したローカライズではない。宮本自身が脚本を日本語で書き直し、特別版として作り直したものだ。

本作では、英語版として完成したものをローカライズではなく、日本語に書き直して日本語版として特別に作っています。なので、これで日本でヒットしなかったら、日本語担当の僕としてはクリスさん(クリス・メレダンドリ氏)に申し訳ないというプレッシャーです。

この「日本語版は別の脚本」という事実は、海外批評家の評価を日本のファンがどう受け止めるかをさらに複雑にする。世界で見られているバージョンと、明日から日本で公開されるバージョンは、厳密には同じ作品ではない。批評家が「ストーリーが薄い」と言った版と、日本の観客が見る版は、セリフ回しやキャラクターの心情表現がすでに違っている可能性がある。

マリオの生みの親である宮本が「日本版の責任者」として日本での成功を強く意識している点は、日本の観客にとって無視できない文脈だろう。

批評家は本当にズレているのか

ここで一度、宮本茂の困惑に寄り添って考えてみたい。

批評家が見落としているのは、鑑賞体験そのものの変化かもしれない。子供を連れて90分間退屈せずに過ごせる明るく派手な映像体験、40年分のゲーム記憶を呼び起こしてくれる仕掛けの数々。これらは「映画芸術」の基準では評価されないが、観客が劇場に支払う2,000円の対価としては十分に機能している。

CinemaScoreの「A-」は観客の満足度を示しているし、全世界で1,188億円を投じさせるほどの引力を持っているのも事実だ。批評家が「物語が薄い」と指摘するのは正しいが、その映画が「観客の求めるものを届けられていない」とは限らない。

一方で、批評家の批判を「盛り上げに消極的」と切り捨てるのも早計だ。批評は作品の質を言語化し、次回作への期待値を形成する文化的装置でもある。売れれば勝ちというロジックで批評を無視し続ければ、作品の中身は空洞化する方向にしか動かない。長期的には、それはマリオというブランドの体力を削る。

興行は短期の勝敗、批評は長期の健康診断。両者がこれほど離れているのは、どちらかが壊れているというより、市場の二重化を示しているように見える。映画という商品は、芸術として評価される市場と、体験として消費される市場で、すでに別の通貨で取引されている。

・ ・ ・

明日、日本の観客がようやくこの映画を劇場で見る。批評家の43%と観客の89%、そのどちらに近い感想が日本から出てくるかは、まだ誰にも分からない。


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