Microsoft Gaming廃止、Xboxが名前を取り戻す
マイクロソフトがゲーム部門の名称を「Microsoft Gaming」から「Xbox」に戻している。2022年のActivision Blizzard買収とともに導入されたこの法人名は、就任62日のアーシャ・シャルマ新CEOの手で消えた。
マイクロソフトがゲーム部門の名称を「Microsoft Gaming」から「Xbox」に戻している。2022年のActivision Blizzard買収とともに導入されたこの法人名は、就任62日のアーシャ・シャルマ新CEOの手で消えた。
社内メモ「We Are Xbox」が公開された
Xbox WireにシャルマCEOとマット・ブーティCCOの連名メモ「We Are Xbox」が4月23日に掲載された。社員向けの文書がそのまま公開された形で、冒頭でXboxが5億人の月間アクティブプレイヤーに届いている事実を確認したうえで、部門名を戻す理由をこう書いている。
「Microsoft Gaming」は我々の組織構造を表しているが、野心を表していない。だから、出発点に戻り、チームの名前を変える。我々はXboxだ。
発端はThe Vergeのトム・ウォーレン(Tom Warren)によるスクープだ。社内タウンホールでシャルマが従業員に対し、マイクロソフト・ゲーミングに代わってゲーム部門にXboxの名を戻すと告げ、「Xboxが我々のアイデンティティ」と述べた。その報道から数時間で、マイクロソフト側がXbox Wireに公式ブログ記事を出して裏付けた格好だ。
2022年の名前は何だったのか
Microsoft Gamingという名前は、2022年1月にActivision Blizzardの687億ドル規模の買収計画を発表した時に生まれた。同時にフィル・スペンサー(Phil Spencer)がMicrosoft Gaming CEOに昇格し、コンソール、PC、モバイル、クラウドを横断する「広い」事業体として構えを作った。狙いは明確で、Xboxというコンソール中心のブランドでは収まりきらない規模に成長することだった。
問題は、その「広さ」が実際の利用者には届かなかったことだ。プレイヤーにとってXboxはXboxであり、Microsoft Gamingは組織図の言葉でしかない。コンソールの販売低迷と値上げ連打が進むなかで、ユーザーとの距離だけが広がっていった。
今年2月、スペンサーの引退とともに就任したシャルマは、その最初のメモで「great games」「return of Xbox」「future of play」という3つのコミットメントを掲げた。当時の「return of Xbox」はスローガンだった。4月23日のメモで、それが部門名の変更として形を得たことになる。
「62日」という数字の意味
シャルマ自身が「62日間で、great games、return of Xbox、future of playというコミットメントを果たしてきたことを誇りに思う」と書いている。この短期間に起きたことをざっと並べると、Xbox Game Pass Ultimate/PC Game Passの値下げ、今後のCall of Duty新作のGame Pass初日配信撤回、「This is an Xbox」マーケティングキャンペーンの終了、そして今回の部門名変更だ。
興味深いのは、これらがすべて「広げる」方向の施策を巻き戻している点である。Xbox Everywhere、Microsoft Gaming、This is an Xbox——スペンサー時代の後半に敷かれた拡大路線の看板を、シャルマは順番に外している。
「プレイヤーは不満を抱えている」という自白
「We Are Xbox」メモでもっとも目を引くのは、ブランディングの話ではなく自己評価の部分だ。二人はこう書いている。
コンソールの新機能投下の頻度は落ちた。PCでの存在感は十分ではない。価格はユーザーがついていけない水準になってきた。検索、発見、ソーシャル、パーソナライゼーションといった基本体験は、いまだに分断されすぎている。
ゲーム業界のトップが現状をこう率直に書いた例は、近年あまり記憶にない。「プレイヤーは不満を抱えている」と自分で書いた企業は、少なくとも現状認識のスタート地点には立てている。
北極星指標が「日次アクティブプレイヤー」になった
4つの優先領域(ハードウェア、コンテンツ、体験、サービス)が打ち出され、新しい北極星指標は日次アクティブプレイヤー(DAU)と定義された。コンソール販売台数でも売上でも月間アクティブユーザーでもなく、DAUだ。
これはSNSや動画サービスで使われる指標で、プレイヤーがどれだけ頻繁に戻ってくるかを測る。コンソール販売が伸びない現実を前に、「プレイヤーとの関係の深さ」に軸足を移したい、という意思表示と読める。ただ、DAUをゲームプラットフォームの中心指標に据えることの副作用もある。エンゲージメントを追う設計は、ソーシャルメディアが通ってきた道を踏みなおす可能性がある。
プレイヤーが望むものと、プラットフォームが最大化したいものは必ずしも一致しない。DAUという指標は、その一致を暗黙に前提にするが、実際には緊張関係を生む。
「独占、配信時期、AIを再評価する」
メモには、もうひとつ静かだが重いパラグラフがある。「独占、ウィンドウイング、そしてAIに対する我々のアプローチを再評価し、学び、決めていく過程で共有する」。
この一文は、三つの未決事項を同時に宣言している。Xbox独占タイトルをどこまで他機種に出すか(PS5とSwitch 2向けの拡大はスペンサー時代に始まっている)、新作をGame Passに入れるタイミングをどう設計するか(Call of Dutyは早速Day 1から外れた)、そしてゲーム制作・運営にAIをどう使うか。どれも結論は出ていない。
「名前を戻しました」で終わらず、中核の三領域を「再評価中」と明示したのは、シャルマが短期の発表と中長期の判断を切り分けている証左だろう。62日で決めていいものと、そうでないものを選り分けている。
この鞍替えで本当に変わるもの、変わらないもの
Microsoft Gamingという名前が消えても、組織の中身が変わるわけではない。Activision、Bethesda、King、Mojang、Xbox Game Studios——スペンサー時代に束ねられたスタジオ群はそのまま残る。サティア・ナデラ直属という関係も変わらない。
では何が変わるのか。変わるのは「誰に向かって話しているか」という対象だ。Microsoft Gamingは投資家、規制当局、業界内部に対する法人名だった。Xboxはプレイヤーに対するブランド名だ。シャルマは対話相手を切り替えている。
皮肉な事実
Microsoft Gamingが生まれたのはActivision買収のためであり、解体されたのは買収完了後の統合がほぼ落ち着いたタイミングだ。広げるための名前は、広げ終わったら不要になる。買収という経営イベントに合わせて作られた器は、イベントが終われば用済みになる。企業ブランディングの宿命をそのまま見せた4年間だった。
日本のプレイヤーにとっての含意
日本のXboxユーザーにとって直接的な影響は、当面は少ない。Xboxというブランドが強化されることで、パッケージやマーケティングでの「マイクロソフトのゲーム」表記が「Xbox」に統一されていくくらいだろう。
ただ、DAUを北極星にするという方針転換は、長期的には日本市場への向き合い方にも響く可能性がある。PS5と任天堂Switch 2が強い日本で、Xboxが「毎日起動されるプラットフォーム」になるには、単にハードを売るだけでは足りない。Game Pass、クラウド、モバイルのいずれかで日常に入り込む必要がある。シャルマが「中国、新興市場、モバイルファースト層」を明示的に書いたのは、その文脈で読むべきだろう。
名前を戻したこと自体は、ゲーム体験を一ミリも良くしない。戻した名前に恥じない仕事ができるかどうか、それを試される62日目の先が、これから始まる。
参照元
他参照
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