AI記者が書くニュースサイト、OpenAIのPACが資金源か
「独立系ジャーナリズム」を謳うニュースサイトの記者はすべてAIだった。取材依頼メールはAIが書き、引用元の「専門家」もAIで、運営者はOpenAI大統領選PACとつながる政治コンサル。AI世論工作の新しい段階が始まっている。
「独立系ジャーナリズム」を謳うニュースサイトの記者はすべてAIだった。取材依頼メールはAIが書き、引用元の「専門家」もAIで、運営者はOpenAI大統領選PACとつながる政治コンサル。AI世論工作の新しい段階が始まっている。
AIが記者を演じるニュースサイト
AI安全性を監視する非営利団体The Midas Projectが、あるニュースサイトの正体を暴いた。「The Wire by Acutus」と名乗るこのサイトは、「独立系ジャーナリズム」「専門家による取材」を掲げていたが、記者も記事もほぼすべてAIが生成していた。しかも、その資金源はOpenAI社長のグレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)氏らが支える政治団体につながっている可能性が高い。
発端は、AI政策の非営利団体Encode AIでゼネラルカウンセルを務めるネイサン・カルビン(Nathan Calvin)氏のもとに届いた1通のメールだった。「Michael Chen」と名乗る記者が、テネシー州のAI法案に関する記事のためにインタビューを依頼してきたのだ。記事の媒体名は「The Wire by Acutus」。
何かが妙だった。記事のタイトルも構成も事前にメールで共有され、質問は明確に誘導的だった。提示された形式は「書面でのQ&A」のみ。しかもウェブ検索でも、この「Michael Chen」がAcutusに所属している形跡は出てこない。差出人アドレスは「[email protected]」という、およそ現役記者らしくない汎用的なものだ。
The Midas Projectのタイラー・ジョンストン(Tyler Johnston)事務局長は、このメール本文をAIコンテンツ検出サービス「Pangram」にかけた。結果は「完全にAI生成」。Pangramは偽陽性率がほぼゼロをうたう検出ツールだ。Michael Chenは実在の記者ではなく、Acutusには、そもそも人間の記者がほぼ1人もいないことが判明する。
94本の記事、69%が「完全にAI生成」
Acutusがいつ、どこから立ち上がったのかは曖昧だ。サイトの公開日は2025年12月29日。そこから4カ月足らずで、AI政策、上院議員選挙、薬局改革、原子力、暗号資産規制、フランチャイズ、スキルベース採用など幅広いテーマで94本の長文記事を掲載してきた。しかし編集長もバイラインも、運営主体の説明もいっさい存在しない。
ジョンストン事務局長が94本すべてをPangramに通したところ、69%が「完全にAI生成」 と判定され、さらに28%が「部分的にAI生成」と出た。人間が書いたと判定されたのはわずか3本のみだ。
サイトは自らを「実務家の視点による独立報道」「専門家ソースによるジャーナリズム」と紹介している。だが実態は、AIエージェントがテーマを立て、AIインタビュアーがソースに声をかけ、AIライターが原稿を書き、AI編集者がチェックするという、ほぼ完全自動化された発信機関だ。
ジョンストン事務局長は、サイトのソースコードからも動かぬ証拠を見つけ出した。AcutusはReactアプリとして構築されており、ブラウザに配信されるJavaScriptファイルの中に、編集用ダッシュボードの要素が丸見えの状態で残っていたのだ。そこには「AI Background Context(AIの背景コンテキスト)」というフィールドがあり、その説明文には「AIが質問を生成し記事を書く際に使用する背景情報」と書かれていた。
別のフィールド「Question Prompts(質問プロンプト)」には「AIインタビュアーに投げかけさせる質問の案」と記されている。つまりこのサイトは、人間の記者が取材する体裁を装いながら、内部ではAIエージェントが「記者役」として取材依頼メールを送り、回答を受け取り、記事化する仕組みで動いていた。
「事実確認に44秒」の記事製造ライン
AcutusはAPIエンドポイントacutuswire.com/api/wireを公開しており、そこから各記事の「内部記録」を覗ける。記事本体だけでなく、AI編集レビューの全工程がタイムスタンプ付きで残っていた。
レビューは5カテゴリに分かれている。AP通信スタイル準拠、引用の正確性、ソース検証、総合評価、そして事実確認(fact-checking)だ。それぞれ100点満点で採点され、問題点と修正案、解決履歴が記録される。
ところが記録された所要時間が異常に短い。ジョンストン事務局長によれば、1本あたりの多段レビュー全工程が中央値44秒で完了し、最後の問題解決から公開までは中央値10秒しかかからない。人間の編集者が介在する余地は事実上ない。
さらに不可解なのは、94本中42本は、AI自身が「needs_revision(要修正)」とフラグを立てたまま公開されていることだ。ファクトチェックで「主張の根拠が不足」「出典の関連性が弱い」と指摘されても、そのまま公開ボタンが押されていた。
指摘された問題の多くは、対応欄に「dismissed(却下)」と記されていた。AIが提起した懸念をAI自身が却下し、10秒後には記事が公開される。一連の動作は、人間の校閲を模倣する体裁を保ちつつ、実際には誰も読まず誰も止めないパイプラインとして機能している。
一部の記事にはaiOriginalTextというフィールドが保存されていた。AIモデルが最初に出力した文章を、編集後の文章の横に保存するための領域だ。最初から人間が書いたことを前提にしない設計でなければ、こうしたフィールドを設ける理由がない。
robots.txtも示唆的だ。AIクローラーに対して非常に寛容な許諾が設定されており、廃止されたChatGPT向けai-plugin.jsonの痕跡や、実験的なllms.txtファイルまで存在する。そのllms.txtには「Reporting follows AP Style and a strict zero-hallucination editorial standard(AP通信スタイルに準拠し、ハルシネーションゼロの厳格な編集基準に従う)」と自称が書かれている。検索エンジンではなく、AIモデルに読まれることを想定した設計だ。
「生身の専門家」の声も、実はボットが取りに行っていた
AI記事工場で気になるのは、引用されている専門家の声がどこから来ているのかという点だ。ジョンストン事務局長が1本ずつ調べた結果、多くはすでに公開されているウェブ記事や論文からの借用だった。
だが一部は本物だった。ハーバード・ビジネス・スクール教授のジョセフ・フラー(Joseph Fuller)氏はLinkedInで「独立系ジャーナリストらが運営するAcutuswireに考えを共有できて嬉しい」と投稿している。記事自体は、ナンシー・メイス(Nancy Mace)下院議員のスキルベース連邦契約法案の直前に公開されており、タイミングとしては広報上の価値が高い。
クライアント側のコードを見ると、Calvin氏に送られた「書面でのQ&A」限定という条件の背景が見えてくる。サイトのJavaScriptバンドルには「AI interviewer(AIインタビュアー)」「reporter agent(記者エージェント)」というフィールドが何度も登場する。アップロード済みインタビューの欄には「エージェントが提出したインタビューがここに表示されます」との表記があった。
つまり Michael ChenはAIエージェントで、コメントを求められた専門家たちは、人間のふりをしたソフトウェアに対して真剣に思考を開陳していたことになる。Acutusの94本のうち3分の1以上は、特定の業界への事実上の有料広告のような論調──製薬業界に有利、暗号資産業界に有利、不動産業界に有利、映画興行業界に有利、天然ガスや計算センター業界に有利──で貫かれていた。編集理念は不明だが、広報会社の顧客リストと並べると筋が通ってくる。
PR会社社長の足跡、そしてOpenAIスーパーPACへの糸
Acutusはほとんど一般の注目を集めてこなかった。Googleで検索してもサイト自体以外はほとんど情報が出てこず、Twitterで言及されたのは過去4回のみ。
その4件のうち2件を投稿・リツイートしていた人物が、共和党系PR会社Novus Public Affairsの社長パトリック・ハインズ(Patrick Hynes)氏だ。Hynes氏はニューハンプシャー州拠点で、Acutusの記事ではニューハンプシャー経済、元上院議員スコット・ブラウン(Scott Brown)氏の実績、メイン州の教育・薬物政策などが繰り返し扱われている。同氏自身もAcutusの記事内で「独立した専門家」として名前の開示なしに引用されており、そこで語られている内容は彼の顧客であるNovusの利害と一致する。
Hynes氏は2010年、共和党系シンクタンクの手で「NH Journal」というニュースサイトを立ち上げた過去がある。当時The Hillは「独立性に深刻な疑問がある」と報じていた。2014年にはスコット・ブラウン氏支持のPACに参加し、選挙資金規制上の中立性を問われた。
そして現在、Hynes氏の動きはOpenAIのスーパーPAC「Leading The Future(LTF)」と重なる。LTFは2025年に立ち上がった評価額1億2500万ドル (約200億円)の政治資金団体で、資金提供者にはOpenAI社長のグレッグ・ブロックマン氏と、AIインキュベーターのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)がいる。運営は、共和党系コンサルティング会社Targeted VictoryのCEOザック・モファット(Zac Moffatt)氏と、かつてチャック・シューマー上院議員の側近だったジョシュ・ブラスト(Josh Vlasto)氏が担う。
Targeted VictoryはNovus Public Affairsの顧客リストに載っている。この企業ラインを通じて、OpenAI→LTF→Targeted Victory→Novus→Acutusという資金と影響力の経路が浮かび上がる。
AI懐疑派を攻撃する「ニュースサイト」
Acutusの記事の約15%はAIをテーマにしている。その論調は、反AI規制派のロビー活動の主張と驚くほど一致する。サイトはAnthropicに疑いの目を向け、青州・赤州双方のAI規制を批判し、最近OpenAIに対して起きた暴力事件の責任を、ジャーナリストや草の根活動家の「扇動的発言」に求めている。
これはLTFが実質的に掲げる旗印と同じだ。LTFの中心人物にはブロックマン氏、a16z、そしてOpenAIの最高グローバル政策責任者クリス・レヘイン(Chris Lehane)氏の名前が並ぶ。LTF元幹部のネイサン・リーマー(Nathan Leamer)氏、Vlasto氏、Moffatt氏、そして匿名Twitterアカウント「Doomer Daylight」など、LTFの広報ラインと重なる面々がAI業界の批判者への攻撃材料を量産している。
大量のスーパーPAC、PR会社、そして今回のAI運営ニュースサイト。それらをつなぎ合わせると、OpenAI周辺には、AI政策に批判的な声を無力化するための装置が多層的に組まれていることが見えてくる。
OpenAI自身の利用規約は、「政治キャンペーンまたはロビー活動への利用」を明確に禁止している。さらに同社の安全枠組みはかつて「AIによる政治的影響操作のリスク」を警告していたが、その記述はいつの間にか削除されていた。自社が禁じるはずの行為を、自社製品が疑わしい形で担う──その構図が、Acutusの一件で可視化されつつある。
「独立ジャーナリズム」を擬態する機械
AIが政治コミュニケーションで利用されること自体は新しくない。草の根運動のふりをした広告(アストロターフィング)、偽のファンコミュニティ、偽のコメント欄。これまでも政治テクノロジーは擬態を繰り返してきた。Acutusが異質なのは、ジャーナリズムそのものを機械で複製した点にある。
記者がAI、取材がAI、引用された専門家も一部はAI、編集者もAI、事実確認もAI。残っているのは「発行ボタンを押す人間」だけかもしれない。そしてその人間は、自らの所属も経歴も公開していない。
この仕組みが怖いのは、AP通信やロイターと見分けがつかない「体裁」が機械だけで完結する点にある。一読すれば丁寧な取材記事に見える。名のある大学教授のコメントも入っている。AP通信スタイルに準拠した整った文章が流れていく。読者がそれを偽物と見抜く手がかりは、ほとんどJavaScriptのソースコードの中にしか残されていない。
AIを開発する企業が、AIで書かれたニュースを、AIで書かれた政治広告の援護射撃に使い、AIを規制しようとする政治家を攻撃する──技術が倫理的ガードを上回る速さで政治に取り込まれていく様子を、Acutusは短いURL一本で体現している。
次に読むニュース記事が、人間の記者によるものなのか。読み手にはもう、それを確かめる術が残されていないのかもしれない。
参照元
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