Micron工場に2件目の環境訴訟。排水許可の無効求める

米国最大の半導体製造施設に対し、地元住民団体が排水・大気許可の取り消しを求める新たな訴訟を提起した。50万人の飲料水源にPFASが流れ込む許可構造が争点になっている。

Micron工場に2件目の環境訴訟。排水許可の無効求める
Micron

米国最大の半導体製造施設に対し、地元住民団体が排水・大気許可の取り消しを求める新たな訴訟を提起した。50万人の飲料水源にPFASが流れ込む許可構造が争点になっている。


1000億ドルの約束と、ゼロの排出制限

Micronがニューヨーク州クレイに建設中の半導体製造施設は、同社が「メガファブ」と呼ぶ最大4棟の工場群で構成される。投資総額は当初1000億ドルだった。2025年6月にトランプ政権との共同発表で約2000億ドルに拡大され、2026年7月にはさらに2500億ドル超に達している。

CHIPS法に基づく連邦補助金は最大64億ドル、ニューヨーク州のGREEN CHIPS税額控除は最大55億ドルにのぼる。

Micronは米国唯一のメモリ半導体メーカーだ。この施設で米国のDRAM生産シェアを現在の2%未満から2035年までに10%へ引き上げる計画で、雇用創出は直接・間接を合わせて9万人超と見込まれている。

この巨大投資の一方で、ニューヨーク州環境保全局(DEC)が2026年4月10日に署名した排水許可には、PFASの法的拘束力のある排出制限値が1つも設定されていない。DECが規制対象とする40種類のPFAS化合物のうち、数値が付与されたのはPFOAとPFOSの2種類だけで、それも「アクションレベル」と呼ばれる調査開始基準であり、超過した場合に罰則が科される排出上限ではない。

2件目の訴訟が狙う場所

現地時間7月31日、地元住民団体Neighbors for a Better Micronと全米の労働権利擁護団体Jobs to Move Americaが、ニューヨーク州最高裁判所(オールバニ郡)に新たな訴訟を提起した。訴えの相手はDEC、オノンダガ郡、Micronの3者。

2026年1月に同じ2団体が起こした1件目の訴訟は、プロジェクトの環境影響評価(SEQRA)手続きが不十分だったと主張するものだった。2万ページの環境影響評価書に対し、住民の意見提出期間はわずか32営業日。Micronは7月にこの訴訟の棄却を裁判所に申し立てたが、口頭弁論は8月25日に予定されている。

今回の2件目は、手続きの問題ではなく許可そのものの正当性を争う。訴状は、DECが発行した排水許可(SPDES)と大気許可が、環境影響評価で既に認識されていた重大な環境影響に対し、必要な保護措置を講じていないと主張している。

排水許可がPFASを含む産業排水の受け入れと放流を認めながら、監視以上の実質的な規制を課していない。訴えはその一点を突いている。原告側は両許可の無効化を求めており、認められればMicronは環境審査のやり直しを迫られる。

半導体製造とPFASの切れない関係

PFASは、炭素とフッ素の結合が極めて強固な合成化学物質の総称だ。正式にはper- and polyfluoroalkyl substances(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)で、1万7000種以上が存在する。環境中でも人体でも分解されないため「永遠の化学物質」と呼ばれ、発がん性、甲状腺疾患、免疫抑制、子どもの発達障害との関連が指摘されている。

半導体製造はPFASなしには成り立たない。フォトリソグラフィの薬液、プラズマエッチングガス、熱伝達流体、溶剤、ウェットプロセスの化学薬品と、製造工程の全域でPFASが使われる。業界は規制が強化されたPFOAやPFOSを段階的に廃止してきたが、代替として導入された短鎖PFASには連邦レベルの排出基準が存在しない。

ここに検査手法の限界が重なる。米環境保護局(EPA)の標準検査法Method 1633Aが検出できるのは40種類の特定化合物だけで、その多くは業界が10年以上前に使用を止めた長鎖PFASだ。コーネル大学の非標的分析では、半導体工場の排水から133種類のPFAS化合物が検出されている。現行の検査では、実際に工場が排出する短鎖・超短鎖PFASの大部分を捕捉できない。

50万人の水道と閉じた水の循環

Micronのクレイ工場は、稼働時に1日あたり3080万ガロン(約1億1700万リットル)の排水をオナイダ川に放流する計画だ。

オナイダ川はオスウィーゴ川に合流し、オンタリオ湖に注ぐ。オンタリオ湖の沖合約1.6キロメートルの地点に、オノンダガ郡水道局(OCWA)の取水口がある。この取水口から汲み上げた水が、5郡・約50万人の飲料水になる。

そしてMicron自身も、同じ水道管から工場用水を取水する。工場で使い、PFASを含む排水をオナイダ川に流し、それがオンタリオ湖を経て取水口に戻る。水は循環し、PFASは蓄積する。

OCWAの浄水場は粒状活性炭(GAC)を使用しているが、GACは長鎖PFASの除去には有効でも、Micronが使用する短鎖PFASに対しては除去率が低い。

ボイシで既に起きたこと

Micronのアイダホ州ボイシ工場は、クレイと同じ製造プロセスを使っている。

ボイシでは2014年、市が処理済み排水を灌漑用水路に流す25年契約を非公開で締結した。2019年に住民がこの契約を発見し、PFAS検査を求めた結果、排水から7種類のPFASが検出された。

市は5億7000万ドルの水道債を発行し、Micronとの共同処理計画に着手した。だがMicronは2023年末に説明なく計画から撤退した。ボイシ川下流では依然として5種類のPFASが検出されており、両処理場の汚泥は約1700ヘクタールの市有農場に肥料として散布されている。

一方、バージニア州では対照的な対応がとられた。Micronのマナサス工場がある同州では、2025年に州法で法的拘束力のあるPFAS排出制限を処理場に課した。共和党知事が署名したこの法律は、ニューヨーク州のクレイ工場許可には存在しない規制を設けている。

連邦の安全網は消えた

この問題の背景には、連邦レベルの規制空白がある。

2025年1月21日、トランプ政権は就任翌日にEPAが策定中だったPFAS産業排水規制を撤回した。同年8月にはハワード・ルトニック(Howard Lutnick)商務長官が、CHIPS法の下で設立された研究機関Natcastへの74億ドルの契約資金を支払わないと表明した。半導体工場のPFAS排出を解明する唯一の連邦研究プログラム「PRISM」は、受賞者が選定された後に消滅している。

工場を建てるために1500億ドル以上を投じながら、工場から何が出てくるのかを調べるための3500万ドルは止められた。

郡が背負う責任、Micronが手にする免責

訴訟は排水許可の責任構造も争点にしている。

クレイ工場の排水は、オノンダガ郡が建設する産業排水処理場(オークオーチャード処理場)を経由して河川に放流される。排水許可の名義人は郡であり、Micronではない。下流でPFAS汚染が発生した場合、訴えられるのは許可を保有する郡になる。

郡が独自に委託したエンジニアリング会社Brown and Caldwellは、処理場の建設費を14億〜26億ドルと見積もった。郡のライアン・マクマホン(Ryan McMahon)行政長官は公の場で「10億ドル」と述べている。差額に相当するのが、PFAS処理技術の有無だ。

Brown and Caldwellの報告書でPFAS処理の根拠として記載されたのは、Micronが設計会議で「PFASと水銀は低濃度で含まれる見込みだ」と口頭で述べた内容だった。213ページの報告書において、PFAS処理の技術的裏付けはこの一文に集約されている。

州議会を通過した法案と、まだ開いている窓

環境団体だけが動いているわけではない。

2026年6月1日、ニューヨーク州議会はPFAS排出開示法(PFAS Discharge Disclosure Act)を可決した。上院は62対0で通過しており、法案はキャシー・ホークル(Kathy Hochul)知事の署名待ちの段階にある。この法律は、公共処理場に産業排水を送る事業者に対し、排出前のPFAS検査と結果の公表を義務づける。

ただ、これは情報開示法であり、排出制限そのものではない。

Micronクレイ工場と環境規制の経緯
2022年8月
CHIPS法成立
半導体の国内製造に527億ドルの補助金を含む法律が成立
2024年12月
Micronに61.65億ドルの補助金確定
ニューヨーク2工場+アイダホ1工場の建設を支援
2025年1月
トランプ政権がPFAS排水規制を撤回
就任翌日に連邦レベルのPFAS産業排水規制案を凍結
2025年8月
唯一のPFAS研究プログラム消滅
半導体排水を調べるPRISM(予算3500万ドル)が受賞者選定後に打ち切り
2026年1月
クレイ工場で起工式、同日に1件目の訴訟
環境影響評価の手続き不備を主張。口頭弁論は8月25日に予定
2026年4月
排水許可にPFAS制限ゼロで署名
40種のPFASのうち38種は監視のみ。法的拘束力のある制限値なし
2026年6月
州議会がPFAS排出開示法を可決
上院62対0で通過。知事の署名待ち。排出制限ではなく情報開示の義務
2026年7月
投資額を2500億ドル超に拡大
2025年6月の2000億ドルからさらに500億ドル上乗せ
2026年7月
2件目の訴訟:排水・大気許可の無効を請求
排水許可のPFAS制限欠如を争点に、許可そのものの取り消しを求める
※連邦補助金額はCHIPS法に基づく直接資金。州税額控除55億ドルは別枠

住民団体が求めているのは、処理場の設計・建設契約が締結される前に法的拘束力のあるPFAS排出制限を設定することだ。建設業者キーウィットインフラストラクチャーとの交渉は既に進行中で、時間はあまり残されていない。処理場の設計が固まった後から制限を追加するのと、制限に合わせて設計するのとでは、費用も実効性も根本的に異なる。

経済か環境か、という偽の二項対立

この問題は「工場に反対か賛成か」では語れない。

訴訟を起こしたNeighbors for a Better Micronのボニータ・シーゲル(Bonita H. Siegel)代表は、1月の訴訟提起時にこう述べている。「目的は、Micronが私たちと環境を守る形で前に進むようにすることだ」

半導体の国内製造は超党派で支持されている。DRAM市場は韓国のSamsung、SK hynixと米Micronの3社が支配しており、先端メモリの国内生産比率を2%から10%に引き上げる計画には安全保障上の根拠がある。

だが、バージニア州が共和党知事の下でPFAS排出規制を法制化したように、製造と環境保護は二者択一ではない。台湾は世界の先端半導体の大半を製造しながら、法的拘束力のあるPFAS排出制限を設けている。

Micron工場所在地のPFAS排出規制比較
ニューヨーク州
クレイ
バージニア州
マナサス
台湾
法的排出制限なしありあり
制限対象監視のみ
(40種中38種)
州法で規定法令で規定
許可の名義郡(自治体)処理場工場
Micron工場建設中
(2030年稼働予定)
稼働中直接の拠点なし
排出先飲料水源
(50万人)
飲料水源
(貯水池)
河川
超過時の罰則なし
(調査開始のみ)
ありあり
※バージニア州は2025年に共和党知事の署名でPFAS排出制限を法制化。台湾は半導体工場排水からPFOS 6930ng/Lを検出した実績を経て規制を導入

2500億ドルの投資と50万人の飲料水。この2つを両立させる技術は存在する。設計に書き込まれていないだけだ。

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