欧州23か国に35台。NVIDIAが仕掛けるAIスパコン大拡張の全容

欧州23か国に35台。NVIDIAが仕掛けるAIスパコン大拡張の全容
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欧州23か国で35台のAIスーパーコンピュータが動き出す。ハンブルクで開幕したISC High Performance 2026でNVIDIAが発表した。300万人超の研究者に計算資源を届ける計画で、欧州大陸におけるAIインフラの単年拡張としては過去最大になる。


数字が語る規模

35台は国立スーパーコンピューティングセンター、AIファクトリー、大学の研究機関にまたがり、昨年からの通算で800AIエクサフロップスの計算能力が稼働済みまたは発表済みとなる。

NVIDIAはもう一つの数字を示した。欧州のAIファクトリー構築の 90%超 がNVIDIAのインフラで動いている。BlackwellとHopperの両アーキテクチャが主軸であり、Quantum InfiniBandネットワーク、CUDA-Xライブラリ、NIMマイクロサービス、AI Enterpriseソフトウェアまで含めたフルスタックでの提供となる。

ジェンスン・フアン(Jensen Huang)CEOはこう述べた。「AIは科学の新たな道具であり、欧州はそれを数百万の研究者に届けるインフラを築いている」

主要5拠点の設計図

全35台の詳細は明かされていないが、発表で名前が挙がった主要拠点は5つ。それぞれの設計が、各国の狙いを見せている。

バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター(BSC)のAIファクトリーは、EuroHPC初のAI専用システムとなる。MareNostrum 5をNVIDIA GB300 NVL72とGB200 NVL4で拡張し、Quantum-X800 InfiniBandで接続する。AI学習性能は約20エクサフロップス、推論性能は33エクサフロップスに達する見込みだ。所長のマテオ・ヴァレロ(Mateo Valero)氏によると、スペイン・ポルトガル・トルコのコンソーシアムを通じ、気候モデリングからバイオメディカル研究まで欧州全域の研究者にこの計算資源を開放する。

イタリアのIT4LIAは、GB200 NVL4アーキテクチャで8,000基超のGPUを投入する。AI学習82エクサフロップス、推論164エクサフロップス。今回名前が挙がったAIファクトリーの中で最大級だ。ボローニャのDAMAテクノポロに置かれ、CINECAが運用する。

ドイツのHammerHAIは、シュトゥットガルト高性能計算センター(HLRS)に設置されるドイツ初のAIファクトリーだ。GB200 NVL4アーキテクチャでGPU850基超を搭載し、AI学習8エクサフロップス、推論15エクサフロップス。産業シミュレーションとLLM推論の双方を受け持つ。製造業が強いドイツらしい設計だ。

バイエルン州のBlue Swanは、FAUエアランゲン=ニュルンベルク大学とライプニッツ・スーパーコンピューティング・センターにGB200 NVL4で1,000基のGPUを配備する。AI学習11エクサフロップス、推論22エクサフロップス。医療・ロボティクス・知覚分野のオープンなマルチモーダル基盤モデルを独自に開発する計画で、バイエルン州科学相マルクス・ブルーメ(Markus Blume)氏は「ドイツの大学で最大のGPUクラスター」と語った。

スウェーデンのMimer AIファクトリーは、リンシェーピング大学に設置される。GB200 NVL4を100台、GPU合計400基。AI学習4エクサフロップス、推論7エクサフロップス。他の拠点と比べて規模は控えめだが、ライフサイエンスと材料科学に特化した設計だ。EuroHPC共同事業体が所有する。

欧州主要AIファクトリー スペック比較
拠点GPU数AI学習AI推論
BSC~20 EFLOPS~33 EFLOPS
IT4LIA8,000超82 EFLOPS164 EFLOPS
HammerHAI850超~8 EFLOPS~15 EFLOPS
Blue Swan1,00011 EFLOPS22 EFLOPS
Mimer400~4 EFLOPS~7 EFLOPS
※ EFLOPS = エクサフロップス(1秒間に10の18乗回の演算)。全拠点NVIDIA GB200 NVL4ベース。BSCはGB300 NVL72も併用。GPU数はNVIDIA公式発表値。「~」は公式が「approximately」と表記した値

気候科学と脱炭素への応用

NVIDIAの発表はハードウェアの列挙にとどまらず、気候科学とクリーンエネルギーでの応用事例も複数示した。

シーメンスエナジーは、NVIDIAのOmniverseライブラリ、CUDA-X、AIインフラを統合したSiemens Xceleratorポートフォリオを使い、水素100%対応ガスタービンバーナーの設計と流体力学シミュレーションを加速させている。これによりシミュレーション時間を最大77%短縮し、積層造形でバーナーの技術検証まで一気通貫で進める。

スーパーコンピュータのカタログスペックだけなら読み流せるが、この事例は踏み込んで見る価値がある。ガスタービンの水素燃焼は、温度・流体・燃焼挙動が複雑に絡む物理学の難題だ。従来の手法では設計イテレーションに膨大な時間がかかり、脱炭素に必要な水素タービンの商用化を遅らせてきた。シミュレーション時間の77%短縮は、設計ループの回数そのものを変える。試行錯誤の回数が増えれば、より大胆な設計が試せる。

量子コンピューティングとの接点

欧州のスーパーコンピューティングは、量子技術との統合でも動き始めている。

イタリアのCINECA、EuroHPC、フランスのPasqalが、ボローニャのスーパーコンピューティングセンターに中性原子型の量子処理装置を統合する。NVIDIAのCUDA-Qプラットフォームを介した接続で、最適化計算や材料設計への応用を見据える。

ドイツのユーリッヒ・スーパーコンピューティング・センターでは、NVIDIAと共同で汎用50量子ビット量子コンピュータのフルシミュレーションに成功した。JUPITERのGH200 Grace Hopper Superchipを使った世界記録だ。ユーリッヒのJUQCS-50シミュレータにより、従来はスーパーコンピュータでは扱えなかった規模の量子問題をテストできるようになった。

800エクサフロップスの裏側

35台のスーパーコンピュータ、23か国、800エクサフロップス。数字は壮大だ。だが見方を変えると、別の景色が見える。

これは「欧州のAIインフラ拡張」であると同時に、「NVIDIA一色の欧州」でもある。

90%超というシェアは、もはやプラットフォームの選択ではなく依存に近い。BlackwellとHopper、InfiniBandネットワーク、CUDA-X、NIM、AI Enterprise。ハードウェアからソフトウェアスタックまで、フルスタックでNVIDIAが入り込んでいる。欧州がAI主権を掲げて公的資金を投じるほど、その資金はNVIDIAへ流れる。

欧州委員会が推進する「AI大陸行動計画」は19のAIファクトリーと13のアンテナ拠点を展開し、EuroHPC共同事業体の2021〜2027年の累計投資は100億ユーロに達する。だが、そのインフラの心臓部を設計したのはサンタクララの企業だ。

BSCはRISC-Vベースの自前チップ開発を進めている。JUPITERのクラスターモジュールにはフランスSiPearl社のArmベースプロセッサ「Rhea1」が採用された。欧州自前の設計を目指す動きは着実にある。しかし今回の35台に関していえば、NVIDIAのロゴがつかない部品を探す方が難しい。

「技術主権」と「最適な技術選択」の間には、常にトレードオフがある。すぐに使える最高の計算資源が必要な研究者にとって、NVIDIAは現時点で唯一の現実解だろう。ただし、一社への集中が進むほど、供給途絶や価格交渉力のリスクも高まる。

35台のスーパーコンピュータが本格稼働する頃、欧州がNVIDIA以外の選択肢をどれだけ確保できているか。その答えが、この投資の真価を決める。


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