TSMC純利益58%増、中東紛争下でも通年見通しを上方修正
AI需要が地政学リスクを飲み込んでいる。TSMCの2026年第1四半期、純利益は前年同期比58.3%増。中東で戦火が続くなか、通年の売上成長見通しは「30%超」へと上方修正された。
AI需要が地政学リスクを飲み込んでいる。TSMCの2026年第1四半期、純利益は前年同期比58.3%増。中東で戦火が続くなか、通年の売上成長見通しは「30%超」へと上方修正された。
数字が示す「AI一強」の構造
台湾積体電路製造(TSMC)が4月16日に発表した2026年第1四半期決算は、事前予想をほぼ全項目で上回った。
売上高は1兆1341億台湾ドル(約359億ドル)で前年同期比35.1%増。純利益5724億台湾ドル(約181億ドル)は同58.3%増。1株あたり利益は22.08台湾ドルで、アナリスト予想の20.88台湾ドルを明確に超えた。2桁の利益成長はこれで8四半期連続となる。
粗利益率は66.2%。会社ガイダンスの上限(65.0%)すら超えた水準で、これは歴史的な高さだ。営業利益率58.1%、純利益率50.5%。半導体ファウンドリという設備集約型のビジネスで、純利益率が5割を超える意味は重い。
売上構成を見ると偏りがはっきり出ている。プラットフォーム別ではHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)が61%、スマートフォンが26%。HPCの中身は事実上AIアクセラレータであり、この数字が全てを物語っている。
ウェハ売上に占めるノード別構成(2026年Q1) 3nm:25%/5nm:36%/7nm:13%。7nm以下の先端プロセス合計で74%を占める。
2023年第3四半期時点で3nmの比率はわずか6%だった。2年半で4倍以上に膨らんだ計算になる。AIチップの設計は最先端プロセスを要求し、その最先端を量産できるファウンドリは実質TSMC一社しかない。需要と供給の非対称性が、この粗利益率を支えている。
CC Wei会長の二面的なメッセージ
決算説明会でのCC Wei会長兼CEOの発言は、強気と慎重さが意図的に同居していた。
「最近の中東情勢はマクロ経済の不確実性をもたらしており、我々は事業計画において慎重に対応している」
「そうは言っても、AI関連需要は極めて堅調だ。米ドル建て通年売上が30%超の成長を遂げることに、我々は強い自信を維持している」
この「そうは言っても(Having said that)」の一語に、TSMCが置かれている状況の本質が詰まっている。地政学の嵐の中で、需要だけは止まらない。1月の前回決算時のガイダンスは「30%未満」の成長だった。それが今回、「30%超」へと明示的に上方修正された。戦時下での上方修正は異例と言っていい。
エヌビディアのジェンスン・フアンが先月「もっとキャパシティさえあれば」と語ったことを、TSMCの数字が裏書きしている。
中東紛争とヘリウムという急所
もっとも、楽観だけで終わる話ではない。決算説明会では中東情勢に関する質問が繰り返された。
最大の懸念はヘリウムと水素の供給だ。両者とも最先端半導体製造に欠かせない資材で、中でもヘリウムはカタールが世界有数の生産地であり、ホルムズ海峡の動向と直結する。
Wendell Huang CFOは次のように答えた。
「複数の地域の供給業者から調達しており、安全在庫も確保している。エネルギー供給も当面は通常操業を続けるのに十分だ」
この回答は、質問の重さを考えれば踏み込みが浅い。「当面(for now)」という留保に、先を読み切れない緊張感が滲む。ホルムズ海峡の事実上の閉鎖でヘリウム供給は逼迫しており、CNBCの3月の取材ではSemiAnalysisのRay Wangが「長期化すれば半導体製造の資材調達に支障をきたす可能性がある」と警鐘を鳴らしていた。TSMCは高い再利用率で直接的打撃を緩和しているものの、業界全体の調達コスト上昇は避けにくい。
一方、UBSのアナリストは「逼迫したヘリウム供給がTSMCの生産に与える影響は限定的」との見方を示した。この楽観と警戒の温度差は、記事を読む投資家と読者のどちらも把握しておくべきものだ。
設備投資は上限に張り付く
2026年の設備投資計画にも動きがあった。
1月時点でTSMCが示したガイダンスは520億ドルから560億ドル。前年比で最大37%の増加幅だった。今回の決算で会社側は、このレンジの上限付近になると明言した。
事実上の上方修正と言っていい。Counterpoint Researchの上級アナリストWilliam Liは、TSMCの生産能力がAI需要で限界まで引き絞られている状況をCNBCに対してこう表現した。
「2026年のストーリーは、成長と同じくらい資源制約の物語だ。需要は供給を大きく上回り続けており、減速の兆候は見えない」
需要超過型の好景気は、長期的には必ずしも健全ではない。2nmノードの量産は立ち上がり始めたが、減価償却負担が粗利益率の天井を押し下げる可能性がある、とMacquarieは指摘している。今の数字は「量産初期の甘い時期」の頂点である可能性も、冷静に見ておいていい。
Intel・Teslaらの「Terafab」に対するコメント
決算説明会ではもう一つ興味深いやりとりがあった。Tesla・SpaceX・xAIが立ち上げた「Terafab」構想にIntelが参画し、2nmクラスのウェハファブ建設を進めるという3月発表の動きについて、アナリストが質問したのだ。
CC Wei会長兼CEOの返答は短かった。新しいチップ工場は建設から量産立ち上げまで3年から5年を要する、というものだ。
これは反論ですらなく、物理的な事実の提示だ。2030年前後にならなければ実質的な競合にならない、と言っているに等しい。この期間にTSMC自身はさらに先のプロセスへと進む。先行者の余裕が覗いた一幕だった。
数字の先にあるもの
純利益58%増、粗利益率66%、8四半期連続の2桁成長。これらは祝福されるべき数字だが、同時に業界全体が一社に依存する脆さを示す数字でもある。
AIチップの最先端製造を、地球上でTSMC一社にほぼ全面的に委ねている現状。その一社が、ヘリウム調達の一言でホルムズ海峡の政治と繋がっている現状。好決算の裏側で、この構造は補強されこそすれ、解消に向かってはいない。
需要の強さが供給の脆さを覆い隠しているうちは、数字は美しいままだろう。問題は、その覆いがいつまでもつのか、だ。
参照元
他参照
関連記事
- Amazon独自チップ年間200億ドル、ジャシーが示した31兆円投資の根拠
- IntelがGoogle・Amazonと先進パッケージングで交渉——数十億ドル契約へ
- Terafabが「光速」で動く、割増金で割り込める市場ではない
- NVIDIA保証クレーム11倍、AIバブルの請求書が届いた
- Intel、Fab 34を142億ドルで完全買い戻し──2年で変わった覚悟
- ジェンスン・フアン、対中チップ輸出で「負け犬の前提」と激高
- CPU不足はメモリより深刻、Intel 18Aが命運を握る
- Appleのメモリ「買い占め」戦略が業界を揺るがしている
- Tesla AI5チップ、ついにテープアウト完了
- MacでNVIDIA復活、TinyGPUドライバの実力と現実