NVIDIA保証クレーム11倍、AIバブルの請求書が届いた
NVIDIAが2025年に支払った保証クレームは前年の11倍、引当金残高は3倍に膨れ上がっている。AIブームで稼いだ代金の一部が、故障の請求書として戻り始めた。
NVIDIAが2025年に支払った保証クレームは前年の11倍、引当金残高は3倍に膨れ上がっている。AIブームで稼いだ代金の一部が、故障の請求書として戻り始めた。
1000%という数字の意味
Warranty Week誌が4月9日に公開した分析によれば、NVIDIAが2025年度に支払った保証クレーム額は8億9400万ドル(約1421億円)に達した。2024年度はわずか8100万ドルだったから、増加率は1000%、つまり11倍である。

数字だけ見れば異常事態だが、もっと異常なのは四半期の推移だ。第1四半期1億4700万ドル、第2四半期8000万ドル、第3四半期1億5600万ドル、そして第4四半期に5億1100万ドル(約812億円)と一気に跳ね上がっている。年末に向けて故障の波が押し寄せた格好で、これは偶然では説明しにくい。
同じ期間、AMDのクレーム額も1億1000万ドルから2億3800万ドル(約378億円)へ2倍に増えた。比率で見ればAMDも深刻だが、絶対額ではNVIDIAが1桁上の位置にいる。
引当金という未来への備え
クレームが「既に払ったお金」だとすれば、引当金は「これから払うお金」の見積もりだ。会計的には、製品を売った時点で将来の故障対応費を費用として計上しておく仕組みで、企業が自社製品の壊れやすさをどう見ているかを最も正直に映し出す。
引当金(accrual)は、製品販売時点で将来の保証費用を見積もって計上する会計処理を指す。売上と同時に計上されるため、メーカー自身がその製品をどれほど壊れやすいと見ているかの内部見立てが可視化される。
NVIDIAの2025年度の引当計上額は25億9000万ドル(約4118億円)で、2024年度比でほぼ3倍。引当金残高(累積)に至っては2023年度末の4億1600万ドルから2年で20倍近くに伸び、2025年度末には82億2000万ドル(約1兆3072億円)に達した。
「万が一のために積んでおく金」が1兆円を超えたということだ。これはもう、保険というより予算計画の領域に入っている。
なぜ今、壊れているのか
原因を読み解く手がかりは、NVIDIAのビジネスが何で回っているかにある。2025年のNVIDIAの売上を支えていたのはゲーマー向けのGeForceではなく、データセンター向けのH100やBlackwell世代のAIアクセラレータだ。AIモデルを24時間学習させ続けるための業務用チップである。
これらは民生用のゲーミングGPUとは稼働条件が根本的に違う。Metaが公開したLlama 3の学習レポートでは、H100を1万6384枚並べたクラスタが54日間の学習中に419回の予期せぬ停止を経験し、そのうち30%がGPU本体の故障、17%がHBM3メモリの故障だったと報告されている。年率に換算すれば故障率は約9%、3年稼働では4台に1台以上が壊れる計算になる。
研究機関Epoch AIの分析では、1個のH100の平均故障間隔は約50000時間(約6年)とされる。だが10万枚のクラスタでは30分に1回、100万枚では3分に1回のペースで誰かが壊れる。規模が線形に増えれば故障も線形に増えるからだ。ここで重要な論点が一つある。NVIDIAとAMDの保証は、仮想通貨マイニングを「商用利用」として保証対象外にしている。だがAI用途は「通常利用」として扱われる。つまり、データセンターで24時間フル稼働するH100が壊れても、その修理費はNVIDIA自身が被ることになる。
過去の教訓、違う規模
NVIDIAがこの種の大型損失を経験するのは初めてではない。2009年から2011年にかけて、Apple、HP、Dellのノートパソコン向けに供給した統合GPUに欠陥が見つかり、大規模な無償修理プログラムが動いた。Warranty Weekの長期グラフでも、この時期にクレームが年間2億ドル台に跳ねた山が確認できる。
ただし今回の山は形が違う。当時は「既に売った不良品の後始末」という過去形の問題だった。今回はいま売っている主力製品に対して引当金を積み増している。過去の失敗の清算ではなく、未来に壊れると見込まれる分のコストを今から積んでいる、ということだ。
Warranty Weekの記事は、RAM不足と関税が修理単価も押し上げていると指摘している。半導体メモリの価格は2025年半ばから2026年初頭にかけて4倍になったとされ、壊れたチップを直すための部品代そのものが上昇している。壊れやすい時代に、直しにくい時代が重なっている。
誰が請求書を受け取るのか
この数字は、一体誰にとって何を意味するのか。
NVIDIA自身にとっては、営業利益率への直接の圧迫要因になる。2025年度の引当計上25.9億ドルは、同社の研究開発費や設備投資と並べても無視できる規模ではない。ただし同社は引当金残高を1兆円以上積めるだけの利益を出しており、倒れるような話ではもちろんない。
データセンター事業者にとっては、もっと切実だ。AIインフラを借りる側の企業、あるいは自前でクラスタを組んでいるMetaやMicrosoftにとって、GPU故障は学習ジョブの停止と再開コストに直結する。保証で交換してもらえるとしても、数日の遅れがそのままビジネスの遅れになる。
そしてゲーマーや個人ユーザーにとっては、直接の影響は薄い。2025年のNVIDIAの故障の大半は業務用チップで起きているからだ。ただし、これらの引当金負担が将来のGeForce価格にじわじわ転嫁されない保証もどこにもない。
壊れ方を予測できることと、壊れ方を受け入れられることは違う。NVIDIAは自社製品の壊れ方を以前より正確に見積もれるようになった。ただし、その見積もり額が1兆円を超えてしまった。
AIバブルが吐き出す副産物
AIブームを語るとき、話題になるのはいつも売上高と時価総額と電力消費だ。だが、どんな製造業でも売ったモノは壊れる。売上が10倍になれば、壊れる数も10倍になる。当たり前の物理が、ようやく会計書類の上にも到達した。
これから先、NVIDIAの2026年度の決算が出るとき、同じ推移が続くのか、それとも第4四半期の5億1100万ドルが山の頂上だったのかが見えてくる。どちらの答えも、AIインフラ業界全体の耐久性評価を塗り替える。
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