OpenAI、セキュリティ要求の95%に応じるAIモデルを公開
OpenAIがサイバーセキュリティ専用のAIモデルを発表した。通常は拒否される攻撃的なセキュリティ要求の95%に応答する。3日前、同社は別の未発表モデルが「危険すぎる」段階に近づいたと開示したばかりだ。
OpenAIがサイバーセキュリティ専用のAIモデルを発表した。通常は拒否される攻撃的なセキュリティ要求の95%に応答する。3日前、同社は別の未発表モデルが「危険すぎる」段階に近づいたと開示したばかりだ。
断らないAI
OpenAIは現地時間8月10日、サイバーセキュリティ専用モデルGPT-5.6-Cyberを発表した。GPT-5.6 Solをベースに、ゼロデイ脆弱性の発見やエクスプロイトチェーンの構築といったタスクに特化した訓練を施したモデルだ。
あわせて、同社のサイバーセキュリティ構想Daybreakが2つのアクセス階層に再編された。
Daybreak Blueは、GPT-5.6 Solをセキュリティ業務向けに安全装置を調整して提供する。脆弱性発見、マルウェア解析、インシデント対応、パッチ検証が主な用途だ。OpenAIはほとんどの防御者にとってBlueが出発点になるとしている。
Daybreak RedがGPT-5.6-Cyberの提供先だ。脆弱性研究、エクスプロイト検証、ペネトレーションテストに従事する認定チームに限定される。
通常のGPT-5.6 Solは、エクスプロイトチェーンの開発や認証バイパスといった要求の98.5%を拒否する。Blueでも98%が拒否される。GPT-5.5-Cyberは57.3%に応答していた。
GPT-5.6-Cyberは95%に応答する。
OpenAIが内部評価用に作成したAdvanced Cybersecurity Completion Rate(高度サイバーセキュリティ完了率)での数値だ。エクスプロイトチェーンの開発、認証バイパス、権限昇格といったシナリオで、モデルがどれだけ応答するかを測定する。先代GPT-5.5-Cyberからの伸びは37.7ポイント。セキュリティ研究者から「前のモデルは肝心なところで断ってくる」というフィードバックがあった結果だという。
API価格もSolの2.5倍に設定されている。GPT-5.6-Cyberは100万入力トークンあたり12.50ドル、100万出力トークンあたり75ドル。Solの5ドル/30ドルと比べ、専用モデルの位置づけが明確だ。
ただ、GPT-5.6-Cyberが全面的にSolを上回るわけじゃない。OpenAI自身のVulnerability Discovery and Report Writing(脆弱性発見・報告書作成)評価では、Solの方がスコアが高い。レポートが短く詳細さに欠ける傾向がある、とOpenAIは説明している。ExploitBench(V8エクスプロイト開発ベンチマーク)でも、300ターンの標準設定ではSolが少ないトークンで効率的に解く。600ターンに拡張すると差が縮まる。
攻撃コードを書かせたら強い。報告書を書かせたらSolの方がいい。セキュリティ研究の現場では、両方を使い分ける運用が前提になる。
Chromeのゼロデイと400件の脆弱性
GPT-5.6-Cyberの訓練完了後、OpenAIはこのモデルを使って実際のソフトウェアの脆弱性調査を行った。
最も具体的に公開されたのは、ChromeのJavaScriptエンジンV8で見つかった2件のゼロデイだ。最適化コンパイラが値を整数に変換する際の安全チェックを誤って省略し、未定義値が想定外に大きな数値を生成する。その数値が配列のインデックスとして使われると、コンパイラは範囲内と誤認して境界チェックを省く。攻撃者は他のオブジェクトのメモリを読み書きでき、サンドボックス内で任意コード実行が可能になる。GPT-5.6-Cyberはヒープサンドボックスの脱出に必要な第2の脆弱性も発見した。
GoogleはOpenAIからの協調的脆弱性開示を受けて修正し、CVE-2026-15903が割り当てられた。Chrome 150.0.7871.128より前のバージョンが影響を受ける。
V8以外にも、OpenAIは名前を伏せたまま3つのカテゴリの発見を公表している。あるモバイルOSで少なくとも5件の脆弱性(信頼されていないアプリからの権限昇格チェーンを含む)。あるデータベースで3件の深刻な脆弱性(リモートコード実行経路を含む)。そしてあるOSカーネルで400件を超える権限昇格の脆弱性。
400件という数字は、発見の規模として異例だ。いずれも協調的開示のプロセスが進行中で、対象ソフトウェアの名前は明かされていない。
SpecterOpsのCTOジャレッド・アトキンソン(Jared Atkinson)氏は、GPT-5.6-Cyberの早期アクセスについてこう述べている。
以前のモデルが数週間かけても解決しなかった作業を、1日以内に完了させた。実際のエクスプロイト制約をより正確に推論し、複雑な状態を追跡する能力が向上している。
Astraの3日後
この発表には、見落とせないタイミングがある。
OpenAIは現地時間8月7日、開発中の未発表モデルAstraについて、自社のPreparedness Framework(準備枠組み)のサイバーセキュリティ領域で「Critical」レベルに到達している可能性を排除できないと開示した。OpenAIのモデルがCriticalの可能性を指摘された初の事例だ。
Preparedness Frameworkは2023年12月に公表されたOpenAIの自社安全基準だ。サイバーセキュリティ領域でCriticalとは、人の介入なしに多数の堅牢な実システムでゼロデイを発見・悪用できる、あるいはハイレベルな目標だけを与えられて新しいサイバー攻撃戦略を立案・実行できるレベルを指す。
AstraはHugging Face侵入事件とは無関係だと明言されている。GPT-5.6-Cyberも同様にHighでCritical未満と評価された。
だが、8月7日にCriticalに近い能力を持つモデルの存在を開示し、3日後にセキュリティ研究者向けの安全装置を大幅に緩和したモデルを公開する。OpenAIはGPT-5.6-Cyberのシステムカードをまだ公開していない。後日公開するとしている。
5月に始まったDaybreakは、6月にGPT-5.5-Cyberとともに拡張され、7月にはモデルがテスト環境を脱出してHugging Faceに侵入する事件が起きた。今回の再編では、9月1日からDaybreakの全アカウントにハードウェアセキュリティキーが義務付けられる。Codexのauto-review(自動レビュー)モード(エージェントの高権限操作を実行前に評価する機能)への切り替えも強く推奨されている。
5月 Daybreak発表 GPT-5.5-Cyberの限定プレビューとともに初公開 6月 GPT-5.5-Cyberフル公開 Patch the Planet開始。28社のパートナープログラム発足 7月 Hugging Face侵入事件 テスト中のモデルがサンドボックスを脱出し外部に侵入 8月7日 Astra「Critical」到達の可能性を開示 Preparedness Frameworkで初のCritical相当。開発を一部停止 8月10日 GPT-5.6-Cyber発表。Blue/Red 2階層化 完了率95%。V8ゼロデイ2件、カーネル脆弱性400件超を報告 9月1日 ハードウェアセキュリティキー義務化 Daybreak全アカウントに適用予定 |
防御者に武器を渡す速度とその武器が制御を超える速度の差が、いま実測されつつある。
関連記事
- セキュリティ研究者が語るAIガードレールの現実と弊害
- 「数年ではない、数か月だ」ファイブ・アイズがAIサイバー脅威で共同声明
- OpenAI Daybreak拡大。脆弱性は見つかる、直す手が足りない
- OpenAIがDaybreak発表、サイバー防御へAI投入
- AIの安全テストが、安全上のリスクになっている。4社のモデルが脱出
- OpenAIのエージェント、追加のサンドボックス脱出が発覚。規制議論が加速
- AIの「脱走」、どれほど心配すべきか
- Anthropic、サイバー評価中にClaudeが実在3組織へ不正アクセスしたと公表
- JFrog、OpenAIモデルが悪用した脆弱性8件を修正
- アルトマン「シンギュラリティの中にいる」。Hugging Face侵入の2週間後