英海軍のドローン艇、カメラが中国に「生きている」と送信し続けていた

英海軍の無人水上艇に搭載されたカメラが、中国のIPアドレスへ定期的に信号を送っていた。5ヶ月間、誰も気づかなかった。問題のカメラには「米国の規制に準拠」のラベルが貼られていた。

英海軍のドローン艇、カメラが中国に「生きている」と送信し続けていた

英海軍の無人水上艇に搭載されたカメラが、中国のIPアドレスへ定期的に信号を送っていた。5ヶ月間、誰も気づかなかった。問題のカメラには「米国の規制に準拠」のラベルが貼られていた。


「ハートビート」という名の信号

英海軍が運用する無人水上艇K3 Scoutのカメラが、中国のIPアドレスに向けてデータを送信していたことが明らかになった。定期的なサイバー脆弱性評価の中で発見された。

telegraph

送信されていたのは「ハートビート」と呼ばれる信号だ。カメラがオンラインで正常に動作していることを確認するための、小さな自動パケット。商業施設のカメラなら日常的な機能にすぎない。

だがこれは軍用艇だ。

英国防省の広報はこう述べている。

「徹底した調査の結果、国防省のデータやシステムがアクセス、侵害、または外部に送信された証拠は見つからなかった」

ハートビートには映像は含まれない。含まれるのは機器の識別子、ネットワークアドレス、タイムスタンプ。だが数週間分のハートビートを蓄積すれば、艇がいつ稼働し、いつ停泊し、いつ整備に入っているかが見える。特殊部隊の活動パターンを推測する材料として、映像よりも有用な場合すらある。

評価額10億ドルのプラットフォーム

K3 Scoutは、英国の防衛テック企業Kraken Technology Group(クラーケン・テクノロジー・グループ)が製造する無人水上艇だ。全長8.4メートル、最高55ノット、連続30日間の海上行動が可能で、600キログラムの積載能力を持ち、任務に応じて搭載する機器を入れ替えられる。偵察、戦力防護、精密攻撃まで、1隻で複数の役割をこなせる設計だ。

英海軍はProject Beehive(無人艇の統合運用計画)の一環として約20隻を約1230万ポンド(約1660万ドル)で調達し、沿岸部隊戦隊と第47コマンドー英国海兵隊に配備した。2026年3月から運用が始まっている。

Krakenの成長は急激だ。2026年7月にはSeries Bで1億7500万ドルを調達し、評価額は10億ドルに達した。米特殊作戦軍(USSOCOM)とは4900万ドルの契約を結び、NATOのバルト海演習にも参加している。ラインメタルとの合弁会社を通じてハンブルクで量産も始まっており、年間200隻、最大1000隻の生産能力を見込む。

つまりK3 Scoutは、英国だけの話じゃない。米軍もNATO加盟国も使っている、あるいは使おうとしているプラットフォームだ。

カメラの出所

問題のカメラは、Krakenが製造したものじゃない。Krakenが外部の供給元から調達したものだ。その供給元は、カメラのセキュリティについて保証を提供していたという。

運用が始まった2026年3月から発見まで約5ヶ月間、カメラは中国のIPアドレスにハートビートを送り続けていた。一部の報道では、艇本体の電源を切った状態でもカメラがアクティブだった可能性が指摘されている。カメラのファームウェアに組み込まれたネットワーク機能が、艇の主電源系統とは独立して動作していたとすれば、オペレーターの制御が及ばない層で外部接続が維持されていたことになる。

英国防省は発見後、カメラのインターネット接続を切断し、Krakenとの合同監査を実施した。Krakenの広報は、外部から調達したカメラがNDAA準拠と表示されていたが、一部の部品が英国外から調達されていたと認めている。

「完全な監査の結果、機密情報が許可された経路の外に共有された事実はなく、潜在的な脆弱性はすべて特定・対処済みだと確信している」

英国防省も「脆弱性の早期発見は保証・テストプロセスの目的通り」と述べ、定期評価で問題を見つけたこと自体は成功だと位置づけた。

ラベルの裏側

カメラに貼られていた「NDAA準拠」のラベルが、どこまで信頼できるものなのか。NDAA Section 889(米国防授権法第889条)の仕組みを見れば、答えが出る。

この規定は、米連邦政府機関と取引する企業に対し、Hikvision(ハイクビジョン)、Dahua(ダーファ)、Huawei(ファーウェイ)、ZTE、Hytera(ハイテラ)の5社およびその関連会社が製造した機器の使用を禁じている。

禁止は製造元のレベルで適用される。この5社が作ったカメラは使えない。だが、禁止リストに載っていない企業が組み立てたカメラの中に、リスト外の中国メーカーが作ったチップや通信モジュールやファームウェアが入っていても、Section 889はそれを検出できない。

カメラの外側に貼られた「NDAA準拠」のラベルが保証するのは、完成品の製造元がリスト上の5社ではないということだけだ。中身の部品がどこの国で作られたかは、ラベルの対象外になっている。

「NDAA準拠」ラベルの検査範囲
カメラを調達製造元を禁止リスト5社と照合Hikvision・Dahua・Huawei・ZTE・Hytera該当する場合使用禁止調達できない該当しない場合「NDAA準拠」ラベルを付与し納入カメラ内部の部品は検査対象外中国製チップ・通信モジュール・ファームウェアが入っていても通過する
※Section 889は完成品の製造元のみを検査し、内部部品の出所追跡は義務づけていない

このギャップは以前から指摘されていた。2021年には米軍の複数部門が、別のブランド名で売られていたHikvisionやDahuaのハードウェアを含むカメラを購入していたことが報じられている。規制を自ら書いた当事者が、その穴を踏んでいた。CISA(米サイバーセキュリティ・インフラ安全保障庁)も、完成品の内部に使われている個々の部品レベルで出所を検証することが、次の課題だと指摘していた。

K3 Scoutのカメラは、そのギャップを実証した形になった。

部品を追跡する仕組みはあるか

CISAは2023年にHBOM(Hardware Bill of Materials、ハードウェア部品表)フレームワークを公開している。製品の中に含まれる全部品、全チップ、全ファームウェアのバージョンと供給元を文書化するための標準規格だ。Section 889が「箱に貼られたラベル」を検査するのに対し、HBOMは「箱の中身」を検査する。

2026年7月20日には、米ホワイトハウスが防衛契約者に対して全部品の出所追跡を義務づける大統領令に署名した。K3 Scoutの問題がTelegraph紙で報じられる3週間前のことだ。

だがこの大統領令は米国の防衛契約者に適用されるもので、英国には2026年8月時点で同等の規制がない

K3 Scoutが突きつけたのは、その不在の重みだ。20隻の無人艇はそれぞれがネットワークの端末であり、従来の有人艦に比べてはるかに多くの接続点を持つ。自律型艦隊の規模が拡大するほど、検証されていない部品が持ち込むリスクも比例して膨らむ。

保守党のアリシア・カーンズ氏(Alicia Kearns、影の国家安全保障担当大臣)は、軍用装備全体に対する中国製部品の緊急監査を求めた。下院防衛小委員会は2021年の時点で、中国とロシアの企業を英国の防衛サプライチェーンから排除するよう勧告していたが、法制化される前にこの事態が起きた。

「NDAA準拠」の穴が認識されてから実証されるまで
2019年
NDAA Section 889が発効
中国5社の製品を連邦政府調達から排除。検査対象は完成品の製造元のみ
2021年
米軍がホワイトラベルカメラを購入
禁止リスト企業の部品を含むカメラを複数部門が調達していたと判明
2021年
英下院防衛小委員会が中国企業排除を勧告
中国・ロシア企業の排除を提言。法制化されず
2023年9月
CISA、ハードウェア部品表の標準規格を公開
製品内部の全部品・全チップの出所を文書化するHBOMフレームワークを策定
2026年3月
K3 Scout、英海軍で運用開始
約20隻を配備。搭載カメラが中国のIPへの通信を開始
2026年7月
米大統領令、部品の出所追跡を義務化
K3 Scoutの問題が報じられる3週間前に署名
2026年8月
K3 Scoutカメラの中国通信が発覚
定期評価で発見。英国に部品追跡の同等規制はまだない
※NDAA Section 889は米国の規制。英国は独自に準用しているが同等の法制度はない

K3 Scoutの艦隊はまだ運用中だ。カメラの接続は切断されたが、遠隔監視・管理機能も同時に失われている。30日間の自律航行を前提に設計されたプラットフォームにとって、それは軽い制約じゃない。

ラベルは中身を語らない。箱を開けて確認したのは、攻撃者じゃなく定期検査だった。それは幸運と呼ぶべきなのかもしれない。

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