RTL8159 10GbE、Linux 7.2で標準対応へ
1万円以下で買える10GbE USBアダプタが、ようやくLinuxカーネル標準ドライバで動くようになる。net-nextへのマージは5月6日。実機テストでは8.96Gbpsを記録した。
1万円以下で買える10GbE USBアダプタが、ようやくLinuxカーネル標準ドライバで動くようになる。net-nextへのマージは5月6日。実機テストでは8.96Gbpsを記録した。
net-nextに入った325行のコミット
Linuxカーネルのネットワーク開発ツリー「net-next」に2026年5月6日、Realtek製10GbE USBコントローラ「RTL8159」のサポートを追加するコミットが取り込まれた。コミット本体はdrivers/net/usb/r8152.cへの325行追加・20行削除という比較的小規模なもので、開発者のビルガー・コブリッツ(Birger Koblitz)が手掛けた。
net-nextは次期カーネルバージョンに向けたネットワーク関連変更を集約するブランチだ。Linux 7.1のマージウィンドウは 4月26日に閉鎖済み で、今回の変更が一般ユーザーの手元に届くのは、今夏リリース見込みのLinux 7.2となる。
このコミットが意味するのは、Realtekの公式out-of-treeドライバに頼らなくても、何もしなくてもカーネルがr8152モジュールでRTL8159を認識する世界が来るということだ。ディストリビューション側が個別にドライバをパッケージングする必要も、利用者がDKMSで毎回ビルドし直す必要もなくなる。
RTL8157の延長線上にある実装
RTL8159は既存のRTL8157(5GbE)と多くを共有しており、今回のコミットメッセージにも「RTL8159はRTL8157が導入したフレームディスクリプタフォーマットとSRAM2アクセスを再利用している」と記されている。コブリッツはRTL8157対応の主要開発者でもあり、その流れの自然な延長として10Gbit対応が実装された格好だ。
差分を見ると、enum定義へのNWAY_10000M_FULL追加、_10000bpsビット定義、is_speed_10000マクロ、新しいバージョン識別子RTL_VER_17の追加など、5GbE対応で構築された基盤の上に10G用の枝を生やすパッチに仕上がっている。
「RTL8159は10GBitリンクスピードを得るためにPHY向けのファームウェアを必要とする。ファームウェアなしでは5GBitしか達成できない」(コミットメッセージより、訳)
ファームウェア自体はlinux-firmware側に別途投入される予定で、これが揃わなければ完全な10Gbpsは出ない。手元のドライバだけ更新しても、半分の速度に止まる仕組みだ。
なぜこの対応が「待望」なのか
RTL8159は2025年のCOMPUTEX TAIPEIでRealtekが発表したUSB 3.2 Gen 2x2接続の10GbEコントローラで、2025年後半から2026年初頭にかけて実製品が市場に出回り始めた。XikeStor、Lekuo、Diewuなど主に中国系ブランドが先行し、AliExpressでは9,000円台から、AmazonでもXikeStor SKN-U310GTが99ドルで販売されている。
これまで外付けの10GbE NICといえば、Marvell AQC107やAQC113を搭載したThunderbolt/USB4専用品が主流で、価格は2万円台から。接続には Thunderbolt対応PC が事実上必要だった。RTL8159はUSB 3.2 Gen 2x2(20Gbps)に対応する汎用USB端子で動作するため、Thunderboltを持たないミニPCやNASにも10Gbps接続を持ち込めるという、明確な需要のあるカテゴリの製品だ。
ところが、肝心のLinux対応はこれまで「Realtekが配布するout-of-treeドライバ(バージョン2.20.1以上)を自分でビルドする」しかなかった。NAS用OSのTrueNASやUnRAIDでは有志がパッケージを整備していたものの、汎用ディストリビューションでは導入のハードルが残っていた。
RTL8159は2025年のCOMPUTEXで話題になったコントローラで、低消費電力(1.95W前後)と発熱の少なさが評価されている。10GbEを汎用USBで持ち運べる初めての現実的な選択肢として、自作NASやホームラボ界隈で注目されてきた。
個人開発者がmainlineに持ち込んだ意味
注目すべきは、このメインライン化を主導したのがRealtek自身ではないという点だ。コミットメッセージには明確にこう書かれている。
「コードはRealtekがGPLで公開しているout-of-tree r8152ドライバに基づいている」(訳)
つまりRealtekは自社ドライバをout-of-treeで提供するスタンスを崩しておらず、それでも実際のユーザー体験を改善するため、コミュニティ側が公式コードを参照しながらmainline向けに作り直した、という構図だ。これはRealtekの周辺チップ全般に見られるパターンで、コブリッツは過去にもRTL8157(5GbE)対応で同じ役割を果たしてきた。ベンダー公式ドライバとカーネル標準ドライバの二系統が存在するのがLinux特有の生態系で、信頼性とアップデート保証の面で後者を選ぶユーザーは多い。
実機で記録された8.96Gbps
コミットメッセージにはテスト結果も含まれている。Lekuoの「DR59R11」というUSB-C接続10GbEアダプタを使い、AQC107搭載PCIeカードを持つ別マシンとUSB 3.2 Gen 2x2(20Gbit)で接続して計測したところ、iperf3で 8.96Gbps の転送速度が出ている。
10Gbps回線の理論値の9割近くを叩き出した形で、これはUSB接続の10GbE製品としては十分以上の数字だ。USB 3.2 Gen 2(10Gbps)止まりの環境では、製品の仕様上およそ7Gbps前後が上限とされている。
dmesg出力からは、ドライバがrtl_nic/rtl8159-1.fwというファームウェアを要求し、ファームウェアバージョン1.12.13としてリンクが立ち上がる挙動も確認できる。USB IDは0bda:815a。
注意点として、フルスピードを引き出すにはホスト側に USB 3.2 Gen 2x2 対応ポート(20Gbps)が必要だ。ThunderboltやUSB4ポートでも、製品によってはUSB互換モードで10Gbpsまでしか出ない場合があり、ホスト側のUSB帯域が直接スループットの上限を決める構造になっている。
いつ届くのか
冒頭で触れた通り、現時点で取り込まれたのはあくまでnet-nextだ。一般のユーザーが恩恵を受けるには、以下のスケジュールを通る必要がある。
Linux 7.2のマージウィンドウは、Linux 7.1がリリースされる6月中旬以降に開く。そこからRC期間が約7週間続き、最終リリースは2026年8月末から9月頃になる見込みだ。Ubuntu 26.10やFedora 45といった秋以降の主要ディストリビューションで標準採用される流れになるだろう。それより早く触りたい場合は、ローリングリリース系のArch LinuxやopenSUSE Tumbleweedで7.2が降ってくるのを待つ手がある。
linux-firmwareへのファームウェア追加が並行して進めば、Linux 7.2リリース時点で「挿せば10Gbpsで動く」状態が完成する。ファームウェア側の作業が遅れた場合は、しばらく5Gbps動作で凌ぐことになる。
5GbE対応のRTL8157は、Linux 7.1(2026年6月中旬リリース見込み)で初めてmainlineに入る。同じくコブリッツの手によるものだ。その流れがそのまま10GbEへ伸びた格好で、Realtekの新世代USB Ethernetシリーズはコブリッツ一人の手によってLinuxの世界へ橋渡しされている。市場で1万円を切る10GbEアダプタが当たり前になるとき、その裏側で誰がコードを書いていたかは記憶しておく価値がある。
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