全米の警官がストーカーに。監視カメラ企業が「間違った」と認めた

警官が捜査のためではなく、元交際相手を追跡するためにカメラを使っていた。全米で少なくとも50件。評価額84億ドルの監視テック企業が、改革に動き始めた。

全米の警官がストーカーに。監視カメラ企業が「間違った」と認めた

警官が捜査のためではなく、元交際相手を追跡するためにカメラを使っていた。全米で少なくとも50件。評価額84億ドルの監視テック企業が、改革に動き始めた。


カメラは犯罪者ではなく、女性を追っていた

全米49州に11万9000台以上のカメラを展開するFlock Safetyが、プライバシー保護の大幅な改革を発表している。データ保持期間を30日から7日に短縮し、すべての検索に事件番号の入力を義務化する。

きっかけは、同社の技術を使って市民を追跡していた警官たちの存在だった。

ワシントン・ポスト紙が8月上旬に公開した調査報道が、問題の全体像を明らかにした。全米で少なくとも50人の警官がナンバープレートリーダーの不正利用で告発・起訴されており、そのうち46件がFlock製のカメラに関わるものだった。半数以上が、元交際相手や気になる女性の追跡に利用されていた。

ジョージア州の元警察署長は、元交際相手のナンバープレートを約600回にわたって検索していた。ストーキングと嫌がらせの罪で逮捕されたが、裁判前に自ら命を絶った。

これは例外的な事件じゃない。テキサス州では巡査部長が女性警官をストーキングして辞職し、フロリダ州では刑事が夫の元妻を追跡して解雇・起訴された。サバンナ市では今月、4人の警官と2人の民間職員がFlockの不正利用で解雇されている。

パターンは一貫している。捜査のためではなく、個人的な動機で監視データにアクセスし、被害者は自分が追跡されていることに気づかない。

CEOは「間違った」と認めたが

Flock Safetyの創業者でCEOのギャレット・ラングレー(Garrett Langley)氏は、The Vergeのインタビューで「We got this one wrong」(この件で間違った)と認めた。同社が警察の悪用に対して負うべき責任について「考えが変わった」とも述べている。

だが、このCEOが突然反省を口にし始めたわけじゃない。ラングレー氏は2025年、プライバシー活動家を「テロリスト」と呼び、カメラの位置を地図にまとめたDeFlock(ディフロック)という団体を「テロ組織」と形容していた。今年7月にはForbesに対して「あの発言は間違いだった」と謝罪した。4月のTED2026では、悪用は「引き受けられるトレードオフだ」と語っていた。

Flock Safety CEOの態度変遷と主要な出来事
2025年
活動家を「テロリスト」と発言
カメラの位置を地図化した団体DeFlockを「テロ組織」と形容。批判者を敵視する姿勢を鮮明にした
2026年4月
悪用は「トレードオフ」と発言
TED2026で警官による悪用を「引き受けられるトレードオフ」と表現。捜査支援の実績を優先する立場を示した
2026年7月
「あの発言は間違いだった」と謝罪
「テロリスト」発言を撤回し謝罪。DeFlockのカメラ地図化を「問題ない」と容認する姿勢に転じた
2026年8月
50人の警官による悪用が判明
ワシントン・ポスト紙の調査報道で少なくとも50人の警官がナンバープレートカメラをストーキングに悪用していた実態が明らかに
2026年8月
「間違った」と認め改革発表
データ保持を30日から7日に短縮。検索に事件番号を義務化。ACLUは「見せかけのPR」と批判した
※日付は現地時間基準

発言が二転三転している。市場の風向きが変わるたびに態度を調整しているようにも見える。

改革の中身は3つ

今回発表された改革は、大きく3つに分かれる。

データ保持期間の短縮

標準のデータ保持期間を30日から7日に変更する。Flockによれば、検索の90%は1週間以内に行われており、実務への影響は限定的だという。ただし、捜査に時間がかかる場合のために「Evidence Mode」(証拠保全モード)を新設し、州法や地方条例に基づいてデータを延長保持できる仕組みも用意した。

検索時の事件番号義務化

これまで任意だった事件番号の入力を、すべての検索で必須にする。例外は行方不明の子どもの捜索など「緊急事態」に限られ、管理者が承認する必要がある。

Flock側の説明では「理由のない検索は、そもそもすべきでない検索だ」としている。

Audit Assistanceの全顧客義務化

「異常な検索行動」を検知するAudit Assistance(監査支援)機能を、全法執行機関の顧客に標準装備する。これまでは任意で、導入率は3分の1にとどまっていた。異常が検知されると、ユーザーは即座にロックアウトされ、管理者がレビューするまでアクセスできなくなる。

さらに、自治体間でのデータ共有に関しても、犯罪の種類ごとに共有を制限できる機能を追加する。たとえば「盗難車や暴力犯罪のデータは共有するが、入管執行関連の検索はブロックする」という設定が可能になる。

批判は収まっていない

ACLUは即座に反応した。今回の改革を「市民の正当なプライバシー懸念に対する、見せかけのPRにすぎない」と切り捨てている。ACLUが推奨するデータ保持期間は48時間であり、7日でも長すぎるという立場だ。

ACLUは「Get the Flock Out」(Flockを追い出せ)キャンペーンを展開しており、全米各地でFlock契約の解除を推進している。

実際に解約の波は止まっていない。2021年8月から2026年5月までの間に、28州で82件のFlock契約が解除された。2026年だけで39件。ロサンゼルス市警(LAPD)は「市民の自由とプライバシーに対する深刻な懸念」を理由にFlockとの3年契約を終了させた。AmazonのRingも今年2月にFlockとの提携を解消している。

テネシー州ノックス郡のグレン・ジェイコブス郡長は、Flockカメラの配備に対する全国的なモラトリアムを求めた。

「改革」だけでは済まない理由

Flockの改革には、いくつか注目すべき点がある。データ保持期間の短縮は方向として正しいし、Audit Assistanceの義務化は以前から必要だった措置だ。

だが根本的な問題は、改革の内容そのものじゃない。こうした対策が「警官が元交際相手を600回追跡した」という事態の後にしか出てこなかったことだ。

Flockは2026年4月時点の評価額が84億ドル(約1兆3400億円)に達している。年間売上は3億ドルを超え、Andreessen Horowitzをはじめとする著名VCから10億ドル近い資金を集めてきた。毎月200億回以上のナンバープレートスキャンを処理している。

それだけの規模を持ちながら、多要素認証(MFA)の義務化すら行っていなかった時期がある。上院議員からFTCへの調査要請が出ている。自社のCCO(最高コミュニケーション責任者)がCEOの発言を「トランプ大統領のようなもの」と公の場で距離を置く発言をしている。

Flockは昨年、100万件の捜査を支援し、1万人の行方不明者を発見したと主張している。その数字が事実であれば、この技術には価値がある。問題は、その価値を主張する企業が、なぜストーキング被害の拡大に対してここまで後手に回ったのか、という点にある。


「安全」の名のもとに

Flockが掲げるスローガンは、安全は基本的権利だというものだ。反論の余地はない。

だが、安全の名のもとに構築された全米規模の監視ネットワークが、最も身近な暴力に使われていた。悪用を「ごく少数の逸脱」と片付けるには、50件は多すぎる。

問題は技術の良し悪しじゃない。誰がアクセスできるか、誰がそれを監視するか、そして悪用が発覚したとき企業がどう動くか。その仕組みが整わないまま、カメラだけが増えていった。

Flockのカメラは今日もナンバープレートを読み取り続けている。改革後の7日間、そのデータが本当に捜査だけに使われるかどうかは、まだ誰にもわからない。

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